続々々々々々・映画「靖国」を観る
映画『靖国』(2007年 李纓監督作品)の話題が続いた。
昨日で終了、のつもりだったのだが…
映画の中に、印象的なシーンがある。いや、印象的なシーンはいくつもあるのだが、その中の一つ、と考えて欲しい。
2005年の8月15日、その日の靖国神社におけるエピソードの一つ、ということになるのだろう。
記憶によると、その日は私自身は入院中(事故!)だったもので、天候の記憶はまったくないのだが、『靖国』(2007年 李纓監督作品)の画面に映し出されている限り、東京はよい天気ではなかったようだ。
既に夜である。日中の賑わいとは異なり、人影のない境内。雨が降っている。
そこに軍装に身を包んだ人物がやって来る。南方の戦場用だと思われる野戦服姿だ。
一人、雨に濡れながら社殿の前にたたずみ、軍刀を抜き、一礼し、静かに去っていく。そのバックに流れるのが「抜刀隊」(歌)である。
【軍歌】 抜刀隊 メドレー
→ http://www.youtube.com/watch?v=ZnloXwjVZJ4&feature=related
夜の靖国神社境内、静かに雨に濡れる軍人の姿と、そのバックに流れる「抜刀隊」の歌。美しい(と言いたくなる)シーンであった。
記憶の底を揺さぶられるような、と言いたくなるようなシーンだ。
やがて、「記憶の底」の正体が明らかとなった。
「論座」(2008 6)の、映画『靖国』をめぐる特集に、山口文憲氏の「日本の国柄が守られていない」という文章がある。
いい映画を見た後で、人とその感想を語りあうのは楽しい。ましてそれがこの「靖国」のような公開前の問題作ともなれば、なおさらだろう。
という書き出しの後に、対話形式の文が続いているのだが、やがて、
「それからあそこもよかったな。雨降る夜の社殿に、野戦服の背中に鉄かぶとを背負ったオヤジがやってきて……。軍刀の鞘を払って一礼すると、そのままひとり静かに社殿を去っていく」
「そうそう。そのうしろ姿を、レンズに雨粒のついた手持ちのカメラがずっと追いかけていく。と、その絵に男声合唱の〈抜刀隊〉がかぶさってくる」
「しのつく雨に〈抜刀隊=陸軍分列行進曲〉とくれば、これは昭和十八年十月二十一日の神宮競技場、つまり学徒出陣壮行会でしょう。あの〈雨の靖国社殿〉のカットは、戦時下ドキュメンタリーの傑作〈雨の神宮競技場〉に対する、李監督の返歌というか、批評的なオマージュだと私は受け取ったけど……」
というやり取りとなる。
そう、記憶の底にあったのは、「学徒出陣」の映像だったのだ。ただしそちらに流れていたのは、歌ではなく軍楽のインストメンタルであった。それがストレートに、私の「記憶の底」につながらなかった理由であろう。
Germany Polydor Military band 78rpm
この感じである。
さて、その後の検索で、問題の「学徒出陣壮行会」シーンの画像も発見。
学徒出陣
→ http://www.youtube.com/watch?v=uaAN3txVzBk
記憶の底にあったのはこのシーンであった!
既に、召集=従軍が、戦争における「勝利」と結びついてイメージされる戦局ではなかった。戦死が前提として共有された空間なのである。。雨の中、神宮のグラウンドを埋め尽くしているのは、自らが死地に向かいつつある現実を理解している若者達の姿なのだ。
その時空が、雨の靖国神社境内に一人、抜刀し敬礼する男の静かな姿に重なるのだ。
もちろん、シナリオがあるわけではない。夜の神社境内を撮影するスタッフの前に現れ、去っていった男の姿。カメラの前に展開された現実の出来事を捉えたものだ。その一部始終を、雨の中、カメラマンは丁寧に撮影した。
そのシーンを、「学徒出陣壮行会」に重ねたのは編集の力である。雨の中で静かに軍刀を抜く男の映像に、「抜刀隊」の音楽がかぶさる。異なる時空が、映像と音の組み合わせにより、一つの時空として融け合うのである。
李纓監督には頭を下げざるを得ない。
最後に、参考の為に、「学徒出陣」のフィルム全編へのアクセスをご紹介しておこう。
『学徒出陣』 昭和18年 文部省映画(2-1)
→ http://www.youtube.com/watch?v=iEd1WI-3mSU
『学徒出陣』 昭和18年 文部省映画(2-2)
→ http://www.youtube.com/watch?v=zegiRxlZDnU
(画像ごとの音のレベルの差が大きいので、その点、ご注意を願いたい)
〈オリジナルは、投稿日時 2009/05/11 23:32 → http://www.freeml.com/ep.umzx/grid/Blog/node/BlogEntryFront/user_id/316274/blog_id/103812)
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