カテゴリー「日記・コラム・つぶやき」の記事

2017年4月15日 (土)

トランプ、スターリン、プーチン、ブレジネフ、そして聖マティスの肖像

 

 前回は、「ロシア構成主義的ドナルド・トランプ・イメージ」と題して、数あるドナルド・トランプ大統領ネタ画像の中でもソヴィエト・ロシアのプロパガンダ・アート・パロディとして秀逸だと思われるものを紹介した。

 特に、「ロシア構成主義」として知られる、当時の最先端スタイルによる作品(のパロディ)を取り上げたが、それはまさにソヴィエト・ロシアのプロパガンダ・アートが芸術(美術)の前衛であった時代のポスター・デザインである。「革命」は政治の問題であるだけでなく、芸術もまた「革命」を経験していたのだ。

 しかし、そんな時代は長続きすることなく、「社会主義リアリズム」と呼ばれる表現形式が政治的に推奨され、芸術は政治の従属物に成り下がり、芸術上の革命の時代は終焉を迎える。

 

 

 しかし、古典的な表現形式で描かれたスターリンの肖像に代表される「社会主義リアリズム」の絵画もまた、パロディ作家にとっては良い素材となり、例えばスターリンの肖像がトランプの肖像として蘇るのを楽しむことが出来る。

 

 

 

alternative facts - pravda comrade !
  
https://1.bp.blogspot.com/-eDDGOX_e3xY/WLh7kMc0ctI/AAAAAAABLkk/eWeOIWPOLP8D3UEUj-87yJjyalSj7JLGQCLcB/s1600/Trump-Alternative-Facts-Pravda-Comrade.jpg

 

 

 このパロディー作品の下敷きとなっているスターリンの肖像でも、執務机に重ねられた郵便物の下に描かれているのが御用新聞の『プラウダ』であることに気付くであろうが、パロディー作品ではその『プラウダ』の存在が生かされ、笑いの源泉へと転化している。

 

 

   stalin with pravda
   
https://zibbet.s3.amazonaws.com/uploads/photo/file/8734527/gallery_hero_il_fullxfull.409219358_ofmi.jpg

 

 

 「プラウダ」はロシア語で「真実」を意味するが、御用新聞としての『プラウダ』の紙面は「真実」の報道とは遠いものとなっていた。

 その事実が、自身に都合の悪い報道を全て「fake news(嘘ニュース)」と呼び、自身の主張の誤りが明らかとなっても「alternative fact(代替的事実)」と言い張る、ドナルド・トランプ自身とその取り巻きの姿に見事に重なるのである。

 トランプが求めるのは『ニューヨークタイムス』の報道スタイルでもなければ『CNN』の報道でもなく、まさに『プラウダ』の報道スタイルに違いない、と多くの者は考えるであろうところに、このパロディー作品が成立するわけだ。

 

 

 実際、そんなトランプ政権による合衆国の政治は、内政でも外政でも混乱続きである。いまだに特筆すべき成果は見られない。

 

 

 トランプとその取り巻きによる政権運営に混乱の続く中、政権内で内外からの信頼を獲得しているのは、国防長官に就任したジェームス・ノーマン・マティス元海兵隊大将その人であろう。

 

 早速、20世紀の美術をはるかに遡る16世紀の祭壇画を思わせる様式で描かれた、マティス国防長官の肖像画を鑑賞することとしよう。

 

 

saint mattis of quantico
  
http://www.catholic.org/files/images/media/14806999051961_700.jpg

 

 

 右手に手榴弾、左手にナイフを持つ元海兵隊司令官の頭の背後には、金色に輝く中に「M A D D O G」の文字が刻まれている。

 「クアンティコの聖マティス」とされていることが興味を引くかも知れないが、「クアンティコ」は海兵隊基地の存在で知られている土地である。そして、更に画面を見ることで「クアンティコの聖マティス」が「カオス(大混乱)」の「守護聖人」であることにも気付くであろう。マティス国防長官は(少なくとも今のところ)、大混乱の続くトランプ政権内で、平静を保ち続けている数少ない人物の一人(もう一人であろうマクマスター安全保障担当補佐官もまた軍出身者であるが)であると、多くの人に思われているはずだ。まさに大混乱を続ける政権の守護聖人の役割である。

 

 

 

 

 続くのは、画像検索の際に見つけた(2024年のものとされる)プーチンの肖像画である。下敷きとなっているのは、長く政権に居座り続け、ソ連を停滞に導いたブレジネフの肖像である。

 大量の勲章で飾り立てた軍服に身を包んだ傲慢そうな老人。スターリンの肖像以来の重厚なスタイルで描かれた、まさにブレジネフとしてのプーチンだ。

 

 

putin-brezhnev-2024
  
http://www.irishmanabroad.com/wp-content/uploads/2011/10/Putin-Brezhnev.jpg

 

 

 

 最後は、ソヴィエト・ロシアの様式で描かれたトランプ及びプーチンの姿から一転して、米国を代表するプロパガンダ・デザインのパロディとして描かれたプーチンの姿である。

 

 

 

i want ukraine
  
https://s-media-cache-ak0.pinimg.com/736x/6f/16/ec/6f16ec0e0e3417cc9ab0d81ed3170adf.jpg

 

 

 

 プーチンには、アンクルサムの衣装もよく似合うのであった。

 

 

 

 

 

(オリジナルは、投稿日時 : 2017/04/15 19:20 → http://www.freeml.com/bl/316274/302483/

 

 

 

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ロシア構成主義的ドナルド・トランプ・イメージ

 

 今回は、いわば「「偉大な指導者」としてのドナルド・トランプ・イメージ」の続きとなる、ネタの源泉としてのドナルド・トランプ大統領をめぐる記事である。

 

 

 

 紹介するのは「soviet propaganda poster trump」とか「russian constructivism trump」といった検索語での画像探索時の発見物だが、ソ連時代のプロパガンダ・ポスターのパロディとして実にに秀逸なものだと感じた。

 

 


Photo Illustration by Cristiana Couceiro.
  
http://media.vanityfair.com/photos/58d974523753ee611fd2475e/master/h_606,c_limit/russian-fake-news-04-17.jpg

 

 

 いわゆる「ロシア構成主義」デザインの典型的構図である。バックには赤地に白が斜め右上に向けて下方から放射状に広がり、中心に大統領トランプとその主席戦略官バノン、その下にロシアのプーチンとその顧問格のスルコフ、そしてホワイトハウスの写真がコラージュされ、加えてメディア記事の文字による画面構成となっている。

 下敷きとなったのが、以下の作品に代表されるロシア構成主義の構図である。

 

 

 Left: Gustav Klutsis – Workers, Everyone must vote in the Election of Soviets! Image via arthistoryarchive.com / Right: Russian Propaganda Poster.Image via posterwire.com
   
http://d2jv9003bew7ag.cloudfront.net/uploads/Left-Gustav-Klutsis-Workers-Everyone-must-vote-in-the-Election-of-Soviets-Image-via-arthistoryarchive.com-Right-Russian-Propaganda-Poster.Image-via-posterwire.com_.jpg

 

 配色、斜めが強調された躍動的な構成、写真によるコラージュ、デザインの一部となった文字。

 左画面にあるグスタフ・クルーツィスの手の平による構成は、パロディ作品ではバノンが掲げる右の手の平の並びとして再現されている。

 パロディ作品に登場するキャラクターの中で、あまり有名ではないであろうプーチン大統領の補佐官ウラジスラフ・ソルコフの画像も参考として添えておこう。

 

 
 Vladislav Surkov - Wikipedia
   
https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/0/03/Vladislav_Surkov_7_May_2013.jpeg/220px-Vladislav_Surkov_7_May_2013.jpeg

 

 

 偉大なドナルド・トランプ大統領と上級顧問のバノンの関係が、画面中央でバスト・ショットで大きく示されるトランプと右下方に小さくはあるが上半身像+掲げる右手が三連化されることで存在感が強調されるバノンの姿として示され、ホワイトハウスの上のプーチンとソルコフの関係に反復されてイメージに刻み込まれる。(少なくともシリア攻撃までは維持された)ロシアとトランプの親密な関係が画面構成の中でも暗示され、それがロシア構成主義デザインのパロディとして示されることで、より強化される。実に秀逸なものだと感心した次第。

 

 

 

 続いて…

 


Trump Poster No. 1: Hate Speech
  
http://68.media.tumblr.com/53bb2c46d456e45aa8d29ac5d6da0c31/tumblr_o5h1h3IVhM1v1fk2co1_1280.jpg

 

 

 このパロディ・デザインから連想させられるのは、ロシア構成主義を代表するアレクサンドル・ロトチェンコのポスターであろう。

 

 
 Alexandr Rodchenko, Poster for a Moscow publisher (1924)
   
http://www.brandandbrand.co.uk/blog/wp-content/uploads/2014/12/constructivist.jpg

 

 ただしこのパロディでは、ロトチェンコの有名な構図を下敷きとしながらも、ソ連時代のスターリニズム的全体主義に重ねて、もう一つの全体主義であるナチス体制の標語と画像を用いることで、トランプの強権的志向への批判が強化されている。

 「HATE!」と叫ぶトランプに重ねられているのはナチスの反ユダヤ主義が煽った民族主義的な「憎悪」であるし、ナチスの有名なスローガンであった「一つの民族、一つの国家、一人の総統(Ein Volk, Ein Reich, Ein Führer)」もほとんどそのまま用いられている(ONE PEOPLE/ONE EMPIRE/ONE LEADER!)。

 

 
 Plakat: "Ein Volk, Ein Reich, Ein Führer.
  
https://s-media-cache-ak0.pinimg.com/564x/0c/24/10/0c241093d8ecf8bb026a449b2b63ff6e.jpg

 

 
 hitlerjugend
  
http://visit-heidelberg.org/wp-content/uploads/imgp/hitlerjugend-frisur-3-8231.jpg

 

 右半分の画面のナチス的スローガンの背景には、ソ連の青年組織のピオニールではなく、ナチスのヒトラー・ユーゲントの画像が引用され、画面左上方の「LONG LIVE FASCISM !」の文字と共に、ドナルド・トランプの言動とファシズム世界の親和性の強調に効果を発揮している(見る側が気付く限りにおいての話だが)。

 

 

 

 

《オマケ》

 トランプ関連画像ではないが、検索中に見つけたソ連プロパガンダ・ポスター・デザインのパロディ作品の中から、お気に入りを2点ほど紹介しておこう。ロシア構成主義を代表するエル・リシツキー作品風のウォッカの広告と、有名なドミトリー・ムーアの志願を募る軍人ポスターをマリオ化したお遊び(残念なことに出典となるリンク先を見失ってしまった)と。

 

  

 we call it vodka
  
https://files1.coloribus.com/preview/x600/files/adsarchive/part_972/9729455/file/stolichnaya-vodka-we-call-it-small-51408.jpg

 

 

  

 

 

 

 

 

(オリジナルは、投稿日時 : 2017/04/15 00:45 → http://www.freeml.com/bl/316274/302435/

 

 

 

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2017年4月 1日 (土)

2017年4月1日:「フェイクニュース」の果てに

 

 

 4月1日ではあるが、以下に記すのはすべてホントの話である。

 

 

 

  ドナルド・トランプ米大統領の大統領顧問ケリーアン・コンウェイは先週末、「カメラに変わる電子レンジ」があるとトランプを擁護する仰天発言をし、またも世を沸かせた。
  ニュージャージー州のメディア「North Jersey.com」に出演したコンウェイは、レコード紙コラムニストのマイク・ケリーと対談した。オバマ前政権による盗聴は実際にあったのかと聞かれたのに対し「お互いを監視する方法はたくさんある、残念ながら」と答えた。
  続けて、「今週読んだ記事には、電話やテレビなどを使った監視の手段がたくさん出てきた。カメラになる電子レンジもある。つまり、これは現代社会における一つの事実にすぎません」と言った。
     (ニューズウィーク日本版 2017/03/14 16:18)

 

同記事によれば、更に、

 

  コンウェイは月曜の朝、CNNの情報番組「New Day」に出演、「カメラに変わる電子レンジ」について説明した。司会のクリス・クオモのインタビューに、コンウェイはこう言った。「私はインスペクター・ガジェット(ガジェット警部)ではない。スパイが電子レンジを使うなんて信じないが、証拠を集めるのは私の仕事ではない。それは捜査官の仕事だ。」

 

記事を書いたルーシー・ウェストコット曰く、

 

  自分のボスが盗聴されたと主張しているのだから、その証拠を出すのはコンウェイの仕事だと思うのだが。

 

私もルーシーに同意する。

 

 今やオルトファクトの女王となったコンウェイの言う「今週読んだ記事には、電話やテレビなどを使った監視の手段がたくさん出てきた」という元ネタは(多分)、

 

  内部告発サイト「ウィキリークス」は7日、米中央情報局(CIA)によるハッキング技術に関する内部資料の公開を始めたと発表した。
  文書によるとCIAは、基本ソフトのウィンドウズやアンドロイド、iOS、OSX、リナックスを使うコンピューターやルーターに侵入するマルウェア(悪意のあるソフト)を武器化している。
  マルウェアは内部作成のものもあるが、韓国・サムスン製テレビのハッキングに使うマルウェアについては、英国の英情報局保安部(MI5)の手助けも得ていたという。

  2014年6月付の文書によると、CIAは、サムスン製スマートテレビ「F8000」シリーズに侵入する技術の開発を「ウィーピング・エンジェル」というコードネームの下で進めた。
  ハッキングされたテレビは、電源がオフになっているように見えるものの、室内の音を録音しており、使用者が再度テレビの電源を入れWi-Fiがつながった際に、インターネットを通じて録音をCIAのコンピューターに送る。
     (BBC News 2017/03/08 12:56)

 

コンウェイ女王様も(大統領本人同様に)他人の話をよく聞いていないタイプなのであろう。CIAの新たな「盗聴」テクニックの技術的側面を理解することなく、「なんかこんな話」程度の理解のまま吹聴したらしい(ま、確かにカメラが仕込まれた電子レンジは古典的スパイ道具のイメージではあるが、コンウェイ女王様のしているのは―文脈からして―古典的スパイ道具の話ではないだろう)。現在ここに記しているのは4月1日付けのブログ記事ではあるが、ネタ元の記事の日付が示すように、ホントの話である。

 

 

 お次の記事もまた、エイプリルフールネタではない。

 

 

  一部の国では、自分の名前や好きな言葉を車のナンバープレートにすることができる。カナダもそのひとつだが、自分の名字をナンバープレートにしていた男性が、名前に問題がありすぎると使用を禁止されてしまった。
  ノバスコシア州に住むローン・グラバー(Grabher)さんは、名字をナンバープレートにして25年前から使っていた。しかし更新を申請したところ、昨年12月にいきなり却下の手紙を州運輸局から受け取った。
  同州運輸局は、カナダ放送協会(CBC)の取材に対して、グラブハーさんのナンバープレートが「女性への暴力」を象徴するものと誤解されかねないからだと説明した。

Bbc_news

  グラバーさんによると、自分の姓はドイツ系で、父親の65歳の誕生日に名前入りのナンバープレートを購入した。父親が亡くなった後、自分でプレートを使い始めたという。
  「GRABHER」は「GRAB HER」、つまり「彼女をつかめ」、女性の体を無理やりつかめという意味にも読める。
     (BBC News 2017/03/28 16:38)

 

記事の日付の通り、エイプリルフールのホンモノのフェイクニュースではなく、実際にグラバー氏の身の上に起きた話なのだ。

 記事には、

 

  グラバーさんは、州当局がいきなりナンバープレートを使用禁止にしたのは、ドナルド・トランプ米大統領のわいせつ発言のせいだと考えている。
  昨年の米大統領選の終盤で、トランプ氏がかつてわいせつな表現を使って女性器を「つかむ」と発言したビデオが浮上。女性の権利団体をはじめ大勢が強く非難し、トランプ氏は謝罪した。

 

このような説明も付されている(起源となるのは以下のように報道されていたエピソードである)。

 

  トランプ氏は女性蔑視発言でたびたび物議を醸し、過去に「女はやらせる。何だってできる。プッシー(女性器を指す俗語)をまさぐってな」と語っていたことも明らかになっている。
     (AFP=時事 2017/01/18 09:36)

 

ドナルド・トランプの実際の発言は「grab them by the pussy」であったらしい(ネット上では「grab her right in the pussy」あるいは「grab her by pussy」との表現でも流通している)。

 この機会なのでネット上の関連画像を紹介しておこう。

 そんなトランプ閣下を怖がって見つからないようにしているのは、こんなプッシー(子猫)ちゃんである。

 

Poor Little Kitty Kat
  
https://onmyfrontporch.files.wordpress.com/2016/10/cat-hiding-from-trump.jpg?w=552&h=414&crop=1

 

 

 

 

 そしてついに米国大統領の周辺から「alternative facts」が量産され続けられる現実は、エイプリールフールの伝統を危機に陥れるまでに至ったのである。

 

  スウェーデンとノルウェーの新聞が3月31日、「偽ニュース」として拡散してしまう恐れを考慮して、伝統になっている紙面でのエープリルフールのジョークを今年は自粛すると発表した。
  スウェーデンの日刊紙スモーランドポステン(Smalandsposten)のマグナス・カールソン(Magnus Karlsson)編集長は同紙のウェブサイトで、ネットで拡散する恐れがある間違った記事を掲載するメディアとして同紙のブランドが知られるようになることは望まないと語り、「本紙は本物のニュースを扱う。4月1日といえども」と述べた。
  「偽ニュース」現象は2016年の米大統領選のさなかに発生し、ドナルド・トランプ(Donald Trump)氏が大統領選当選後初の記者会見でCNNテレビの記者に対し「君たちは偽ニュースだ!」と大声で言い放ったことでさらに勢いづいた。
     (AFP=時事 2017/04/01 10:55)

 

 この「AFP=時事」の記事は、多分、フェイクニュースではない。

 

 

 

 

《オマケ》

 

  共産党の機関紙「しんぶん赤旗」が1日付紙面で、1989年以来、28年ぶりに元号表記を復活させた。天皇制と関係が深い元号を国民に強制すべきではないとの立場だったが、「西暦を平成に換算するのが煩わしい」という読者の声が増え、柔軟路線に転じた。
     (毎日新聞 2017/04/01 10:29)

 
これも、多分、フェイクニュースではない。記事の後半では、

 

  長く党を支えてきた赤旗購読者や党員の減少に悩む共産党は、保守層への支持拡大をうかがっている。元号の使用にはそうした思惑もあるようだ。
  党によると、赤旗の発行部数は日刊紙と日曜版を合わせて約113万部。党関係者は1日、「元号の慣習的な使用には反対しない。読者の要望に応えた」と説明した。

 

このように記されていた。4月1日のタイミングでの方針転換ではあるが、エイプリルフールのネタではなさそうだ。

 

 

 

 

 

(オリジナルは、投稿日時 : 2017/04/01 20:40 → http://www.freeml.com/bl/316274/301309/

 

 

 

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2017年2月10日 (金)

アメリカ人を雇え(トランプと雇用、あるいはワシントンの末裔)

 

 

  ドナルド・トランプ米大統領の上級顧問、ケリーアン・コンウェイ氏は9日、ホワイトハウス記者室から米フォックス・テレビに出演し、トランプ氏の娘イバンカさんのファッションブランドを「買って」と発言を繰り返した。ホワイトハウス職員が民間企業や製品を推奨することを禁じる、連邦倫理規定違反だと批判されている。
  コンウェイ氏は「お店に行ってイバンカのものを買って」、「自分もきょう、買いにくつもり。ここで無料コマーシャルをしますね。みんな、きょう買いに行って」と視聴者に呼びかけた。
     (BBC News 2017/02/10 15:12)

 

 

 ご存じの通り、そもそもの発端は大統領自身で、その間の事情は「イバンカさんの名前を掲げるファッション・ブランドについては、高級百貨店ノードストロムが今月初めに売り上げ低迷を理由に販売中止を発表。それを受けてトランプ大統領自ら、同社を自分のツイッター・アカウントで批判し、大統領公式アカウントがこれをリツイートした」と報じられている。それに加えての今回の「上級顧問」の言動で、あらためて「連邦政府の倫理規定は、ホワイトハウス職員が「いかなる商品、サービス、事業活動の推奨」もしてはならないと定めている」原則的問題と「トランプ政権において、ホワイトハウス関係者が営利活動と関与し利益相反状態に陥る可能性」があることが生み出すであろう倫理的問題が指摘され、その点について既に下院監査政府改革委員会のジェイソン・チェイフェッツ委員長(共和党!)からも批判されていることが報じられている。

 

 で、現政権の突出した公私混同ぶり、倫理観の欠落があらためて明らかになってるわけだが、当人達(大統領本人及び取り巻きの人々)には問題の所在すら理解されていないようである。

 

 

 

 …という問題はさておいて、「イバンカさんの名前を掲げるファッション・ブランド」をめぐるネット上の画像検索から見えてきた話題である。

 

 

 

Do you see it now?
  
http://images.gawker.com/gcqiun8jsyr7ptgwrjq9/c_scale,fl_progressive,q_80,w_800.jpg

 

 

 「イバンカ(イヴァンカ)・トランプ」ブランドの入った段ボール箱が積み上げられている画像だが、そこには「Made in China」と明記されているのだ。

 

ivanka trump made in china
  
https://2.bp.blogspot.com/-MjzP88mM48M/VuN1Eke27OI/AAAAAAAAMIQ/Upxb9BFzeVkwuqq2rvCL_e2ayp9WtjVig/s1600/ivankatrump_dress_china_rossdressforless.jpg

 

 

 製品のタグにも「made in china」の文字が。

 

 

 

 

 大統領となったドナルド・トランプが就任演説で強調したことの一つが「雇用」の問題であった(以下に雇用に関連した部分を抜き書きしておく)。

 

 

  For many decades, we’ve enriched foreign industry at the expense of American industry;
  何十年もの間、我々アメリカの産業を犠牲にして外国の産業を豊かにしてきた。

  One by one, the factories shuttered and left our shores, with not even a thought about the millions upon millions of American workers left behind.
  一つ一つ、工場は閉ざされ、我々の国から遠ざかっていった。何万のアメリカ労働者が取り残されたことなど、見向きもされない

  But that is the past.
  しかし、それは過去のものになった。
  And now we are looking only to the future.
  今、我々は未来だけを見つめるのだ。

  From this day forward, a new vision will govern our land.
  この日を境にして、わが国は新しいビジョンで治められることになる。
  From this moment on, it’s going to be America First. America First.
  まさにこの瞬間からだ。それは、アメリカファースト。アメリカファースト。
  Every decision on trade, on taxes, on immigration, on foreign affairs, will be made to benefit American workers and American families.
  全ての決定は、貿易、税金、移民、外交に関しても、アメリカの家族、労働者にとって有利なものでなければいけない。
  We must protect our borders from the ravages of other countries making our products, stealing our companies, and destroying our jobs.
  他国の犯罪者から私たちの国境を護らなければならない。我々の生産物をつくり、我々の企業と雇用を壊そうとする者から護らなければならない。

  We will bring back our jobs.
  我々は雇用を取り戻す。
  We will bring back our borders.
  国境を取り戻す。
  We will bring back our wealth.
  富を取り戻す。
  And we will bring back our dreams.
  そして我々の夢を取り戻す。

  We will get our people off of welfare and back to work  rebuilding our country with American hands and American labor.
  我が国の国民を豊かにし、雇用を取り戻す。我々の国をアメリカの労働とアメリカの手でつくり直すのだ。
  We will follow two simple rules: Buy American and Hire American.
  我々は二つの単純な原則に従う。「アメリカのものを買え。アメリカ人を雇え
     (
http://www.johoseiri.net/entry/2017/01/21/073326

 

 

 「イバンカ・ブランドの商品を買え」とアメリカの消費者に迫るのはトランプ大統領と「上級顧問」だが、しかし、そこには「made in china」と記されているのだ。

 

 

 

 今回、あらためて調べてみると、「ドナルド・J・トランプ」ブランドの衣料も存在するのだ。しかし…

 

 

our jobs are being taken away from us by china
  
http://undead-earth.com/wordpress/wp-content/uploads/2015/06/2015_Trump_Idiot_1.jpg

 

 

 こちらも「MADE IN CHINA」なのである。「The best social program, by far, is a JOB!  Our jobs are being taken away from us by china」とツイートする当人のブランドが「MADE IN CHINA」なのだ。

 

 

A Donald Trump tie made in China.
  
https://pbs.twimg.com/media/CN8J_vvUAAA5iLV.jpg

 

 

 ネクタイだってこの通り、紛うことなき「Made in China」。

 確認してみても…

 

 

Trump Ties are Made in China or Listed As 'Imported'
  
https://heavyeditorial.files.wordpress.com/2016/09/trump-tie.jpg?quality=65&strip=all&strip=all

 

 

 間違いなく、アメリカ製ではなく、メイド・イン・チャイナ(中国製)なのだ。

 

 

 

 トランプのホテルの備品だって…

 

 

trump hotel classy gold lamp made in china
  
https://i1.wp.com/4fc.7d2.myftpupload.com/wp-content/uploads/2016/09/7.jpg

 

 

 由緒正しき「MADE IN CHINA」なのであった(われらがアパホテルは大丈夫か?)。

 

 

 

 

 もちろん、ちゃんと「MADE IN MEXICO」だってあるし…

 

 


DONALD J. TRUMP MADE IN MEXICO
  
http://i.imgur.com/IqoLuNZ.jpg

 

 

 「ドナルド・J・トランプ」ブランドのスーツは、なんと「国境」の向こうで製造されていたのだ(もちろんメキシコ人の手で)。「他国の犯罪者から私たちの国境を護らなければならない。我々の生産物をつくり、我々の企業と雇用を壊そうとする者から護らなければならない」と大統領就任演説でも主張していたトランプ自身が、自社製品を国境の向こう側、そして海の向こう側で製造させていたのである(大統領ドナルド・トランプは経営者ドナルド・トランプと闘うつもりか?)。

 

 

 

 

 これが「正直」の教科書的存在であったジョージ・ワシントンの末裔の姿なのである。

 

 

 

 

 

(オリジナルは、投稿日時 : 2017/02/10 17:20 → http://www.freeml.com/bl/316274/296314/

 

 

 

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2017年2月 5日 (日)

「偉大な指導者」としてのドナルド・トランプ・イメージ

 

 (驚いたことに)ドナルド・トランプ氏が米国大統領に就任してしまったのは「代替的事実(alternative facts)」などではなく(あるいはハリウッド映画の中の話ではなく)、世界にとっての現実だということを受け入れなければならないわけだが、日曜の午後くらいは逃避的行動の時間としたい。

 画像検索をすると、ドナルド・トランプ大統領はネタの宝庫的存在として、既にその「偉大さ」を示していることがわかる。

 

 

 

 

putin holding trump baby
 
https://i2.wp.com/www.watchthecircus.com/wp-content/uploads/2016/12/putin-holding-trump-baby.jpg

 

 

 言うまでもなく、プーチンの手玉に取られるトランプのイメージである。

 

 

  1月初めに米国から来た人物は、「2013年にトランプがモスクワを訪れたとき、ホテルで不適切な動画を撮影され、ロシア政府が握っているという噂がワシントンで出回っている」と話していた。まもなく同旨の報道が米国で行われるようになり、それを裏付けるとされる文書が出回っていることが分かった。そしてその35ページの文書はネット上で全文暴露されてしまった。
  今週11日、当選後初めて、トランプ次期大統領は記者会見を開き、文書の内容を全面否定する。文書について報道したメディアには質問を許さず、報道しなかったメディアを賞賛するという露骨な差別待遇を行った。
     (ニューズウィーク日本版 2017/01/14 11:00)

 

 この土屋大洋氏の署名記事には、「ただし、これはまだ真偽が確かめられていない」との但し書きが付けられている。トランプ大統領がロシア情報機関に弱みを握られているという話が「事実」であるのか、それとも「代替的事実」(もちろん虚偽の別名だが)であるのかについては、現時点ではいずれとも判断し難いが、当人のキャラクターからすると「ありそうな話」を思われてしまうのも仕方がないだろう。

 

 

 

 で、こちらが画像の元ネタである。

 

 

Stalin loves the little children
 
http://userscontent2.emaze.com/images/3423ec78-209e-4297-929f-761d7c59bb5f/eb4111ba-30e1-4dce-a7d6-7cb19dd5dfe0.jpg

 

 

 かの偉大な書記長が幼児を抱きかかえるスターリニズムど真ん中時代のプロパガンダポスターである。

 

 

 ネット上には、強権的傾向を隠さないトランプ大統領をスターリンになぞらえる画像も多いが、トランプ氏の視覚イメージからすると、イタリアを再び偉大な国とした(MAKE ITALIA GREAT AGAIN !)ファシスト・イタリアの陽気で偉大な首領(ドゥーチェ)であったムッソリーニの方が、よりふさわしい気がしないでもない。

 

 

Trumpolini
 
https://4.bp.blogspot.com/-I-eUEEBc7GM/Vr6a8NvhSAI/AAAAAAAAjNI/A1cQ99QXkWU/s1600/Trump_Dux.jpg

 

 

 顔立ち、表情が似ているのだ。口をへの字に結んでアゴを突き出す尊大なポーズ。

 

 

 で、傑作なのがお次。

 

 

Donald Trump: American Mussolini
 
https://jeffwinbush.files.wordpress.com/2015/12/fascist.jpg

 
 

 「IL DOCE」は「首領」の称号だが、「ILL DOUCHE」はドナルド・トランプという人物の女性蔑視的姿勢(あるいは好色ジジイ・イメージ)と重なるネーミングである。日本語では「ビョーキの膣洗浄器」、だ。思わず人間膣洗浄器と化したドナルド・トランプ氏が「ホテルで不適切な動画を撮影され」たというストーリーを妄想させる。

 ちなみに、ムッソリーニの死が1945年で、トランプは翌年の1946年に生まれていることから、トランプ=ムッソリーニの「生まれ変わり説」もネット上のネタ化されているようである(いずれ、あの大川総裁による守護霊インタビューが公開されるかもしれない)。

 

 

 

 

 最後にこちら、シュピーゲル誌の表紙。「世界の終り」である。

 

 

das ende der welt
 
http://www.zerohedge.com/sites/default/files/images/user3303/imageroot/2016/11/09/20161111_trump1_0.jpg

 

 
 見た通り。説明するのも野暮というものだろう。

 

 

 

 

 

(オリジナルは、投稿日時 : 2017/02/05 15:16 → http://www.freeml.com/bl/316274/295726/

 

 

 

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2017年2月 3日 (金)

トランプのカード(マッカーシー vs トランプ)

 

 ドナルド・トランプとその取り巻きは「代替的事実(alternative facts)」というカードを切ることで、マッカーシーの時代に「多重虚偽」のために費やされに労力を軽減し、手続きを簡略化した。

 

  マッカーシーが国務省への攻撃を始めて間もない頃、私は『ニューヨーカー』誌の「ワシントン便り」の中で、マッカーシーを取り上げた際、そのもっとも注目すべき新手法の一つを「多重虚偽」と呼び、多くの点でヒトラーの大うそに比すべき技術だと書いた。私は次のように書いた。「「多重虚偽」は特に大きな虚偽である必要はなく、一連の相互に余り関係のない虚偽、あるいは多くの側面を持つ一個の虚偽であったりする。いずれの場合にも、全体が多くの部分で構成されているために、真実を明らかにしたいと思う人は虚偽の全要素を頭の中に入れて置くことが全く不可能ということになってしまう。真実を明らかにしようとしても、人はその中の二、三の言明を取り出して、それがうそだということを証明するかもしれないが、こういうやり方は、取り出された声明だけがうそであって、残りは本当なのだという印象を残すだろう。「多重虚偽」の更に大きな利点は、うそと証明された声明をその後も平然と何べんでもくり返しうるということである。というのは、どの声明が否定され、どれが否定されていないかを誰も覚えていないからである。」……
     R.H.ロービア 『マッカーシズム』 岩波文庫 1984 145~146頁

 

 ローピアはジョセフ・マッカーシー上院議員の用いた手法を「多重虚偽」と名付け、「真実を明らかにしようとしても、人はその中の二、三の言明を取り出して、それがうそだということを証明するかもしれないが、こういうやり方は、取り出された声明だけがうそであって、残りは本当なのだという印象を残すだろう」と問題を整理した(ちなみにドナルド・トランプは、上院でのマッカーシーの最大の協力者であったロイ・コーンの弁護士時代の顧客の一人であったと言われており、マッカーシーとトランプはコーンを通して結ばれていることになる―コーンは弁護士としての非倫理的行為を問われ最終的に法曹資格を剥奪された人物でもある―マッカーシーもコーンも知的誠実さとは無縁な人物であったが、この両者とのトランプの「縁」には、どこか納得させられるものを感じてしまう)。

 マッカーシーに対し「二、三の言明を取り出して、それがうそだということを証明する」ことは可能であるが、マッカーシーは新たな虚偽を一瞬のうちに生産するので、「二、三の言明を取り出して、それがうそだということを証明」しても簡単に無効化されてしまうのである。しかし、それはまだ虚偽の生産が手作業であった二十世紀の手法であって、ドナルド・トランプとその取り巻きは「それがうそだということを証明」されようが、新たな虚偽を思いつく手間をかけることもなく「代替的事実(alternative facts)」の一言で、ジャーナリストによって費やされた事実の検証・証明の努力を一瞬にして無意味なものにしてしまう(しかもどのように精緻な「証明」も「偽ニュース(fake news)」として一瞬で切り捨てられる)。もちろん、虚偽の大量生産についてのトランプとその取り巻きの能力がゲッベルスやマッカーシーに劣るというものではないが、ヒトラーやマッカーシーの時代には「代替的事実(alternative facts)」という無敵のカードの存在は知られていなかった、ということなのだ。

 

  ドナルド・トランプ米大統領の上級顧問を務めるケリーアン・コンウェイ氏は22日に米NBCテレビ「ミート・ザ・プレス」に出演した際、「代替的事実(alternative facts)」という表現を使った。この言葉は米政治が事実を重視しない「脱真実」の新時代にあることを象徴するとの見方もある。
  コンウェイ氏はホワイトハウスのショーン・スパイサー報道官による一連の誤った発言に関して番組内でコメント。報道官がトランプ氏の就任式に集まった人数について事実より多く話した点について、コンウェイ氏は番組司会者のチャック・トッド氏に「あなたはそれをうそだと言うが、われわれの報道官であるショーン・スパイサー氏は代替的事実を述べたにすぎない」と釈明。トッド氏はそれに対し、「代替的事実は事実ではない。誤っている事実だ」と応じた。
  コンウェイ氏は翌日、FOXニュースの番組にも出演。司会のショーン・ハニティ氏は、代替的事実とは単純に「異なる視点」を提供しているだけだと語り、より寛容な受け止め方を示した。だが、時すでに遅し。「代替的事実」はソーシャルメディア(SNS)上で瞬く間に広まり、ツイッターでは「おまわりさん、私は酔っていません。代替的にはしらふです#alternativefacts」といったハッシュタグがつく投稿も見られるなど、冷やかしも拡散している状況だ。
     (ウォール・ストリート・ジャーナル 2017/01/27 13:27)

 

 ドナルド・トランプ大統領の上級顧問を務めるケリーアン・コンウェイ氏の「代替的事実(alternative facts)」という用語法(註:1)に対し、NBCテレビ「ミート・ザ・プレス」番組司会者のチャック・トッド氏は「代替的事実は事実ではない。誤っている事実だ」と指摘したわけだが、(トランプ支持の「視点」に立つであろう)FOXニュースの番組司会者のショーン・ハニティ氏は「代替的事実」を「異なる視点」と位置付けることでコンウェイ氏の用語法の擁護・正当化を試みている(註:2)。しかし、「事実」は「事実」であって「虚偽」ではなく、「虚偽」は「虚偽」であって「事実」に対する「異なる視点」ではない。

 「報道官がトランプ氏の就任式に集まった人数について事実より多く話した」かどうかは「視点」の相異によって判断されるべき問題ではなく、実際に集まった人数=事実の検証によってのみ判断されるべき問題なのである。

 

 「代替的事実」なんてものを通用させてしまえば、

 

  事実を無視する「ポスト真実」、あるいは「オルタナファクト(別の真実)」は、根拠と客観性を重視する科学とは相容れないものだが、まさにこれらが科学者に襲いかかっているといえるだろう。
     榎木英介 (Yahoo!ニュース 個人 2017/01/31 12:00)

 

「科学」はその方法論的基盤を喪失するのである。ドナルド・トランプとその取り巻きの思考法が、女性(あるいは様々なマイノリティーの構成員)だけではなく、科学者にとっても大きな脅威と感じられつつあるのも当然のことであろう。

 

 

 マッカーシーは結局、蒔いた種が芽を出して年貢を納めることになるが、その間、米国の外交政策は大きく停滞することとなった。マッカーシーのターゲットとされたのが国務省だったからである。冷戦初期の米国外交は、マッカーシズムという大きな障害のために、理性的な判断から遠ざけられてしまったのだ。朝鮮戦争の最中にもかかわらず、マッカーシーの関心は、戦争の行方にではなく、国務省内にいるとマッカーシーの主張する共産主義者の排除にのみ向けられていた。マッカーシーは証拠(=事実)を握っていると主張していたが、その証拠(=事実)が提出されることはなかった。しかし、その間、国務省内の人間は、外交の行方を論じることよりは自分が共産主義者ではないことを証明することに没頭させられたのである。

 ヴェトナム戦争へと帰結する冷戦時の米国外交を考える上で、マッカーシズムによる損失の大きさを無視することは出来ない。まさに「多重虚偽」の恐ろしい帰結である。事実と虚偽の判別への努力から人々の関心が失われれば、別の言い方をすれば情報の正確さへの関心が失われれば、最終的に痛い目に遭うのは人々自身であり、個々の私なのである。大日本帝國の対米開戦の判断の背後には情報の軽視があり、ブッシュのイラク戦争を主導した国防総省もまた開戦の正当化に役立つ情報のみを採用し、不利な情報を積極的に無視した。

 

 

 現在、ドナルド・トランプとその取り巻きが示しているのは正確な情報(すなわち「事実」)への関心の無さである。

 実際に、

 

  ドナルド・トランプ(Donald Trump)米大統領は28日、スティーブ・バノン(Steve Bannon)首席戦略官・上級顧問(63)を、国家安全保障会議(NSC)の常任メンバーに加える大統領令に署名した。トランプ氏の最側近の一人として知られるバノン氏はこれにより、政策面でも一段と影響力を強めることになりそうだ。
  トランプ氏は大統領令の一つである「大統領指示書」で、NSCの閣僚級委員会について、バノン氏を常任に引き上げる一方、情報機関を統括する国家情報長官(DNI)と、米軍制服組トップの統合参謀本部議長(Joint Chiefs of Staff)を非常任に格下げした。
     (AFP=時事 2017/01/30 09:32)

 

大統領としてのトランプは、国家安全保障会議(NSC)の常任メンバーから専門家としての国家情報長官(DNI)と統合参謀本部議長(Joint Chiefs of Staff)を排除し、情報と軍事の(そもそもが「政治の」でもあるが)シロートであるバノン氏を重用することで、正確な情報取得への関心の低さを示したのである。

 

 今回の「入国禁止」の大統領令の顛末にも、トランプ政権の正確な情報、情報の正確さへの無関心が示されている(自動車産業をめぐる対日批判もその典型的な事例であろう)。

 

  スパイサー米大統領報道官は31日の記者会見で、トランプ大統領が27日に署名したイスラム圏7カ国の出身者を一時入国禁止にした大統領令について「これは入国禁止ではない。米国の安全を維持する(入国)審査の制度だ」と強弁した。
  スパイサー氏は「『禁止』は人々が入国できないことを意味する。(7カ国以外の)別の国から数十万人が入国しているのは明白だ」と強調。入国禁止の対象となったシリアやイランなど7カ国に関しても「オバマ前政権が入国者の必要な情報が得られない国と特定した」と主張した。
     (時事通信 2017/02/01 07:57)

 

 「入国禁止令」の正式名称は「テロリストの入国からアメリカ合衆国を守る大統領令(Protecting the Nation from Foreign Terrorist Entry into the United States)」だが、一般的には「Trump Bans Travel to U.S. for Citizens of 7 Muslim-Majority Nations」のように理解されている(「ban」は「禁止」を意味する語)。

 しかも、時事通信の記事の続きには、

 

  一方、トランプ大統領は30日、ツイッターに「入国禁止が(実施の)1週間前に告知されていたら、『悪者』がその間、急いで入国していた」と投稿。スパイサー報道官もCNNテレビのインタビューで、大統領令を「入国禁止」と何度も呼んでいた。

 

このように記されている。大統領も報道官も問題の大統領令を実際に「入国禁止」と呼んでいた、ということなのである。当人たちが「入国禁止」という文言を用いていた以上(そのような文言を用いて情報発信をしてしまった以上)、メディアが「入国禁止」として報道したことを非難することは出来ない相談であるし、人々が「入国禁止」の大統領令として理解してしまうことも非難しようがなくなる。で、どうしたかというと、

 

  イスラム圏7カ国からのアメリカ入国を一時的に禁止する大統領令について、トランプ大統領はこれまで「入国禁止令ではない」としていましたが、「好きなように呼べばいい」と改めて正当性を主張しました。
  トランプ大統領は、ツイッターに「大統領令が『入国禁止令』なのかどうかで騒いでいるが、好きなように呼べばいい。悪意を持った悪者を国に入れないためだ」と書き込みました。また、ホワイトハウスでの会合で「私はCNNは見ない、嘘のニュースを見るのは嫌いだ」と述べ、入国禁止を批判しているアメリカのメディアのなかから一部メディアの名前を挙げて非難しました。
     (テレビ朝日系(ANN) 2017/02/02 11:46)

 

 情報発信に際しての不用意さは無視した上で、「好きなように呼べばいい」と居直ったのである。

 

 そもそも「テロリストの入国からアメリカ合衆国を守る」(悪意を持った悪者を国に入れない)ための大統領令について言えば、対象とされた「イスラム圏7カ国」の出身者が米国内でテロを実行した実績はないという問題があり、対象国の選定の適切性からして疑問が持たれているものでもある(示されているのは事前の情報分析の不足である)。

 

  米ジャーナリストや学識関係者が参加するシンクタンク「ニュー・アメリカ財団」によると、イスラム聖戦主義攻撃に関与した、あるいはそうした攻撃の実行者として死亡したテロ犯の米国在住資格は次の通り――。

 ・全体の82%は米国籍か永住権を保有

 ・188人は米国生まれ

 ・83人は米国籍に帰化した市民

 ・43人は永住権を持つ市民

 ・13人は難民

 ・12人は在住資格不明

 ・11人は非移民ビザで入国

 ・8人は不法移民

 ・38人は不明

  近年の米国内で起きた重大な無差別大量殺人事件の犯人はいずれも、入国制限対象の7カ国の市民ではなかった。
     (BBC News 2017/02/01 16:30)

 

 「不法移民」及び「難民」が含まれることも確か(21人)ではあるにせよ、詳細に分析するまでもなく今回の「大統領令」があまり役に立つものとなりそうもないことも確かであろう。

 

 末端の行政の窓口対応の細則の作成という重要な問題を抜きにして、つまり実施に際して起るであろう問題のシミュレーション抜きに、性急に大統領令が発せられたことが無用な混乱を招いてしまった側面もある。加えて、国際的にどのように受け取られてしまうかについてもあまりに準備不足(シミュレーションの不在を示す)であった。「テロリストの入国からアメリカ合衆国を守る大統領令」の実効性が事前に注意深く検討されていた形跡もない。要するにトランプ政権が、行政のシロート、外交のシロートによるものであることを示した「大統領令」であった(註:3)が、しかし「嘘のニュースを見るのは嫌い」なトランプ大統領にとっては、混乱の事実も準備不足の指摘も国内外からの様々な批判も「嘘のニュース」以上のものではなく、意に介す必要など感じていないように見える。

 今回の大統領令を主導したのもスティーブ・バノン首席戦略官・上級顧問とされているが、

 

  国土安全保障省(DHS)高官は当初、大統領令の制限に該当するイスラム圏7カ国の出身であっても米永住権保持者には適用されないという解釈だった。しかし、複数の当局者は、バノン氏と同氏に近いスティーブン・ミラー大統領補佐官がこれを却下したと明かした。
  DHS関係者は、今回の移民政策転換を巡って移民、関税、国境管理の関連機関とホワイトハウスとの協議はほとんどまたは全くなく、それが大統領令適用を巡り混乱拡大につながったと明かす。
  ある政府高官は、大統領令がDHSと国家安全保障会議(NSC)の主要な関係者の目を通り、連邦議会の移民関連職員らも関与したと説明したが、複数の当局者によると、バノン氏が終始作成を主導したという。
     (ロイター 2017/01/31 12:56 最終更新:2/1 15:55)

 

このロイターの記事の後半では、「批評家らはバノン氏を反ユダヤ主義で白人至上主義だと批判する。同氏の保守派ニュースサイト「ブライトバート」は、昨年の大統領選で敗れた民主党のクリントン候補に関する陰謀説を多数掲載した」と紹介されているように、そもそもが「陰謀説を多数掲載した」と指摘されるニュースサイトの代表であった人物である。批判する側からは「陰謀説=嘘のニュース」の生産者との位置付けとなるだろう。バノン首席戦略官・上級顧問に、正確な情報に興味を持ち、情報の正確さを優先する習慣を期待するのは実際的ではない。トランプ政権の「主席戦略間・上級顧問」として、冷静な情報評価ではなく偏見に基づいた政策決定の中心となる可能性を考えておくべきであろう。

 

 

 いずれにせよ、正確な情報の正確な把握が必須となる政治の場において、情報の正確さにまったく重きを置こうとしない人物とその取り巻きに権力が与えられてしまったことだけは確かである。

 米国民にとっても、米国以外の国々の国民にとっても大きな災厄を覚悟しなければならない展開となってしまったことも確かであろう。

 

 

 ちなみに大統領令の対象とされた国々の反応は以下の通り。

 

  トランプ大統領は27日、イスラム教徒が多数を占めるイラン、イラク、リビア、ソマリア、スーダン、シリア、イエメンからの難民と旅行者の入国を一時禁止しビザ(査証)発給を停止する大統領令に署名した。
  これについてザリフ外相はツイッター(Twitter)への投稿のなかで、ハッシュタグ「#MuslimBan(イスラム教徒の入国禁止)」を用いて「過激派とその支持者たちへの偉大な贈り物として歴史に記録されるだろう」と皮肉り、「集団的な差別はテロリストの勧誘活動を支援するものだ。深まる断絶を、支援者らを増やそうとする過激派の扇動家らに悪用されるだろう」と述べた。
     (AFP=時事 2017/01/29 19:37)

 

  イラク連邦議会は30日、米国のトランプ政権がイラクなど7カ国の国民の米入国を一時禁止したことに関して、イラク政府に報復措置をとるよう求める決議を賛成多数で採択した。衛星テレビ局アルアラビーヤが報じた。議会内には米国民の一時入国禁止を求める声もあるが、イラク政府は過激派組織「イスラム国」(IS)掃討作戦で連携する米国との関係悪化を避けたい思惑があり、どの程度の報復措置をとるかは不透明だ。
     (毎日新聞 2017/01/30 22:02)

 

  アメリカの支援を受けてきたシリアの反政府勢力がトランプ大統領によるイスラム圏7カ国からの入国禁止措置を厳しく批判しました。
  30日にモスクワで会見した反政府勢力は、トランプ大統領によるシリア国民らの入国禁止措置について「移民に差別的であり、人権を尊重すべき」だと訴えました。     (テレビ朝日系(ANN) 2017/01/31 5:52)

 

  イエメン外務省スポークスマンは30日、トランプ米大統領による入国規制は世界中で過激主義を助長することになると批判した。
  イエメン人が入国一時禁止の対象になったことから、スポークスマンは「不満を表明する」と強調。「テロに勝つ唯一の手段は対話であり、障壁をつくることではない」と語った。
     (時事通信 2017/01/31 14:26)

 

 

 それぞれに耳を傾けるべき内容だと思われるが、それをドナルド・トランプという人物に求めることは現実的ではない。

 

  「経営不振の偽ニュース、ニューヨーク・タイムズ紙は誰かが買収し、正しく経営するか、廃刊にすべきだ」。
  トランプ米大統領は29日、ツイッターでこうつぶやいた。自身に批判的なメディアへの攻撃をエスカレートさせた形だ。
  タイムズ紙は28日の社説でシリア難民受け入れ停止を柱とする大統領令を「臆病で危険」と非難するなど、大統領への批判を連日続けている。大統領は28日も「タイムズ紙とワシントン・ポスト紙は最初から間違っているのに、方向を変えようとしない。不誠実だ」とツイートした。
     (時事通信 2017/01/30 7:35)

 

 自分にとって都合の悪い情報は無視し、排斥する。それが米国の大統領となってしまった人物の現実への対処法なのである。

 

 

 

 しかも、マジョリティもまた「事実」の追求には興味を失いつつあり、自分にとって都合がよいと感じられる情報にのみアクセスする時代となっている。それぞれに都合よく感じられる「代替的事実(alternative facts)」が、ネットを通して簡単に手に入られる時代となったのである。

 

 「ウォール・ストリート・ジャーナル」のBEN ZIMMER氏の記事の最後は、

 

  コンウェイ氏が使った「代替的事実」は、SNS上で「alt-facts」と省略されるケースも見られる。ニューヨークを拠点とするジャーナリストのアンドレア・チャルパ氏は揚げ物など不健康な食事の写真を撮影し、「この代替サラダを今から楽しむところだ」とツイッター上に投稿している。

 

このように結ばれている。「揚げ物」が「サラダ」ではないことを「事実」と呼ぶのであり、その「事実」が自分にとって都合が良かろうが悪かろうが、その「事実」を「事実」として尊重しようとする態度によってのみ情報の正確さが保たれ、適切な判断が可能になる。これが当たり前でなくなりつつある現実を事実として噛みしめねばならない。代替品など存在しないのである。

 

 

 

【註:1】
 早くも新たな「代替的事実(alternative facts)」が当のコーンウェイ氏によって追加された(追記:2017/02/04)。

  昨年の米大統領選ではトランプ陣営の選対本部長を務めたコンウェー氏は、米ケーブル局MSNBC(MSNBC)の番組に出演し、イスラム圏7か国の市民の入国を一時禁止したトランプ氏の大統領令について、バラク・オバマ(Barack Obama)前大統領が取った策と同様のものであると擁護。
  「イラク人2人がこの国に入国し、過激思想に染まってボーリンググリーン虐殺事件の首謀者になった後、オバマ大統領がイラク難民プログラムを6か月間禁止した事実を、今まで知らなかった人は多いはず。これは報道されなかった」と発言した。
  だが、この「虐殺事件」は実際には存在していなかった。コンウェー氏は後にツイッター(Twitter)への投稿で「ボーリンググリーンのテロリストと言うつもりだった」と釈明している。
  2011年、ケンタッキー(Kentucky)州ボーリンググリーン(Bowling Green)在住のイラク人の男2人が有罪判決を受けたが、罪状は国際テロ組織アルカイダ(Al-Qaeda)に資金と武器の供与を試み、駐イラク米軍の兵士に対し簡易爆弾装置を使用したことだった。2人は長期の禁錮刑を受け、現在も収監されている。
  また米紙ワシントン・ポスト(Washington Post)によると、事件を受けオバマ前大統領はイラク難民の審査手続きの厳格化を指示したが、難民受け入れ中止や禁止を命じた事実はなかった。
     (AFP=時事 2017/02/04 07:49)

【註:2】
 FOXニュースの名誉のために付け加えておくと、キャスターのシェパード・スミス氏が自身のFOXニュース番組内で、以下の発言を通してトランプ大統領による非難からCNNを擁護した事実もある(追記:2017/02/07)。

  「トランプ次期大統領は本日、CNNのジム・アコスタ記者に、お前の社は嘘ニュースだ、と述べました。ロシア関係のCNNの特ダネは、オンラインニュースメディアが(精査することなく)出したメモ類とは、根本的に別物です。我々はフォックスニュースでCNNの報道(の正否を)を確認することはできませんが、我々の見解は以下の通りです。CNNの記者はジャーナリストの規範に従っており、彼らだけでなく、他のどんなジャーナリストも、米国の次期大統領による誹謗中傷に屈してはなりません」
     (江川詔子 Yahoo!ニュース 個人 2017/01/12 19:17)

【註:3】
 大統領令の正当性をめぐる裁判の過程でも、「入国禁止」の対象国選定に際しての事前検討の不十分さと施行に際しての準備不足が明らかになっている(追記:2017/02/09)。

  中東・アフリカ7カ国からの入国を一時禁止する米大統領令の即時停止を命じたシアトル連邦地裁の仮処分を巡り、西部カリフォルニア州サンフランシスコの連邦控訴裁判所は7日、電話による口頭弁論を開いた。控訴裁は今週中に判断を下す見通し。
  各35分の弁論で、3人の判事が原告の西部ワシントン、中西部ミネソタ両州と、被告のトランプ政権側の双方の弁護士から主張を聞いた。
  トランプ大統領はテロリストの入国阻止を大統領令署名の理由に挙げている。しかし、判事が政権側に7カ国とテロを結びつける証拠を尋ねると「裁判の進行が早すぎて準備できなかった」と答えた。判事は「進行が早いと言うが、控訴裁に訴えたのはそちらだ」と追及。政権側はテロに関連するソマリア人がいたなどと述べ、地裁決定の取り消しを求めた。「裁判所を説得できているか自信がない」と政権側弁護士が漏らす場面もあり、政権側の拙速ぶりが浮き彫りになった。
  大統領令については共和党幹部らも1月27日の発令後に初めて知ったとされる。ケリー米国土安全保障長官は7日、米下院委員会で「もう少し遅らせて出すべきだった」と述べ、非を認めた。
     (毎日新聞 2017/02/08 21:24)

 

 

 

 

 

(オリジナルは、
 投稿日時 : 2017/01/31 19:47 → http://www.freeml.com/bl/316274/295176/
 投稿日時 : 2017/02/02 19:14 → http://www.freeml.com/bl/316274/295448/

 

 

 

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2017年1月26日 (木)

2017年のロージー(トランプ vs ロージー・ザ・リベッター)

 

 

 

"We Can Do It !" image from Kiara Nelson's tweet
  https://twitter.com/KiaraLynne__/status/822838399275044865/photo/1?ref_src=twsrc%5Etfw

 

 

 ドナルド・トランプの米国大統領就任式の翌日に、反トランプの意思表示も込めて開催された「女性の大行進(Women’s March)」の一シーンである。

 「女性大行進に舞った抗議のプラカード 共感を呼んだ英語表現20選」と題された「バズフィード・ジャパン」の記事(註:1)の中で紹介されていたキアラ・ネルソンさんによるツイート画像だ(ネルソンさんは「Little black girls, you warm my heart」との言葉を添え、この画像をツイートしている)。

 画像の中の少女の一人は、「私たちにはできる!(We Can Do It !)」の言葉と共に腕の力こぶを示す赤いバンダナに青い作業服姿の若い女性が描かれたプラカードを抱えている。

 少女がプラカード化したこのイメージこそは、前回の記事「フォードの爆撃機、あるいはロージーのリベレーター」の中で取り上げた、ロージー・ザ・リベッター(リベット打ちのロージー)の姿そのものである。

 

 

 トランプを相手にしたロージーの姿としては、もっと強烈なものもネット上には存在する。

 

 

"Choking Trump" by Kevin Karstens
  https://onsizzle.com/i/we-can-do-it-www-kevinkarstens-blogspot-com-yes-we-can-via-2848873

 

 

 こちらはポッドキャスト・サイトにあった「女性の大行進(Women’s March)」に関連した投稿(註:2)に添えられていた画像だが、ケヴィン・カーステンス氏(註:3)のイラストがオリジナル(註:4)らしい。

 トランプを締め上げるロージー! (このイメージは個人的に「大受け」で、実際、プリント・アウトまでして飾ってしまったくらいだ―襟のロバのバッジは民主党支持者を示しているのだとも思われるが、しかし、個人的にはヒラリーを支持する気もない)

 

 

 

 

 ここで、ロージー・ザ・リベッター(Rosie the Riveter)について復習をしておくと、レッド・エヴァンスとジョン・ジャコブ・ローブによる1942年の曲のタイトルで、戦時下の米国での女性労働者の姿を歌ったものである。様々なミュージシャンにより取り上げられ、リベット工のロージーの名は、戦時下の女性労働者の象徴となったようである(既に「フォードの爆撃機、あるいはロージーのリベレーター」の中で紹介した動画だが、登場する女性労働者のイメージが秀逸なので参考のために再録しておく)。

 

 

Rosie, The Riveter ~ Allen Miller & His Orchestra (1943)
  https://www.youtube.com/watch?v=XJxe3vQRMuY

 

 

 

 現在、「Rosie the Riveter」で画像検索をするとまず大量にヒットするのが、件の「We Can Do It !」のポスターとそれをアレンジしたイメージである。

 

 

 "We Can Do It!" by J. Howard Miller
https://en.wikipedia.org/wiki/Rosie_the_Riveter#/media/File:We_Can_Do_It!.jpg

 

 これがJ・ハワード・ミラーによってウェスティングハウス社のためにデザインされたオリジナルのポスターで、1943年2月にウェスティングハウスの工場内に掲示されたものである。

 当時は、ウェスティングハウス社の社内用ポスターとして期間限定(二週間という話だ)で工場内に掲示されただけで、一般的には知られることのなかったポスター(戦時期米国の生産増強プロパガンダ・ポスターの一枚、ということである)であった。「ロージー・ザ・リベッター」を視覚化した画像ではなかった(そもそもウェスティングハウスの工場で製造されていたのは樹脂製ヘルメットであり、リベット工の活躍する製品かどうかという問題もある)にもかかわらず、1980年代のフェミニズム運動の中で再発見され、リベッターとしてのロージーのイメージと重ねられて流通し、現在に至ったものである(註:5)。

 

 当時、実際にロージーの視覚的イメージとして流通したのは、ノーマン・ロックウェルにより「サタデー・イブニング・ポスト」誌の表紙のために描かれたものである。こちらはリベット打ち機を膝に載せた姿で描かれており(ポーズはミケランジェロの描く預言者イザヤの姿を模したものである)、ロックウェルは確かに「リベッター」としてのロージーを視覚化している。

 

 

 Norman Rockwell's Saturday Evening Post cover
https://en.wikipedia.org/wiki/Rosie_the_Riveter#/media/File:RosieTheRiveter.jpg

 

 

 戦時期アメリカの戦時動員プロパガンダの代表的イメージとして、雑誌の表紙絵としてだけでなく、戦時公債のキャンペーンにも用いられ、当時、広く流通していたのはこちらである(著作権が戦後の流通を阻んだと言われている)。

 いずれにせよ、現在ではミラーの「We Can Do It !」のイメージの方がロージーの姿として定着しており、実際、画像検索の結果にも反映されている通りである。

 

 

 

 

 冒頭に紹介したのは、「女性の大行進(Women’s March)」に際して、反トランプの意思表示のために用いられたロージー(We Can Do It !)のイメージだが、ロージーの姿はフェミニズムの独占物というわけでもない。

 戦時期米国の女性労働者の姿は、愛国的イメージとしても流通しており、実際、昨年の大統領選挙に際しては、ヒラリーだけでなくトランプの選挙キャンペーンでも用いられていたのである(それだけ 米国民に共有されたイメージだということだ―両者共に「We Can Do It !」のミラーのデザインだが、「rosie-the-riveter-t-shirt」と記されている)。

 

 まずは、ヒラリーの選挙キャンペーン用Tシャツ。

 

 

rosie-the-riveter-hillary-clinton-for-president-2016-t-shirt
http://images.prod.meredith.com/product/c8007931a3f02f0458a1492076692c41/00629b16e6468da24b2022adf8d7946b09eb51938155591a72fa53dd4fd50245/l/rosie-the-riveter-hillary-clinton-for-president-2016-t-shirt

 

 

 ヒラリー・クリントンがミラーのポスターの女性労働者のポーズをしている。

 このデザインが呼び起こすのは「We Can Do It !」の言葉であり、ヒラリーにとっての「I Can Do It !」(私には大統領の職務をこなす自信がある)であろう。

 フェミニズムとの親和性の文脈での共感(初の女性大統領の誕生!)が期待されたデザインと言うべきか?

 

 

 

 一方でトランプ陣営でも「We Can Do It !」のイメージは人気のようである。

 トランプ支持者の女性用に製作されたTシャツには、ミラーの描いた女性労働者の姿がそのまま用いられている。

 

 

Rosie Riveter For Trump Women's T-Shirts
  https://image.spreadshirtmedia.com/image-server/v1/compositions/1007445004/views/1,width=300,height=300,version=1478262588/rosie-riveter-for-trump-women-s-t-shirts-women-s-t-shirt.jpg 

 

 

 こちらの選択はフェミニズムの文脈というより、戦時期米国の生産を支えた女性労働者の姿を通した愛国主義的共感獲得への期待であろう。

 

 極めつけは「壁を築く」の言葉と共に力こぶを誇示するトランプの姿であろうか?

 

 

donald-trump-rosie-the-riveter-2016-build-a-wall-t-shirt
  http://www.shoptv.com/imgcache/product/resized/000/981/134/catl/donald-trump-rosie-the-riveter-2016-build-a-wall-t-shirt-945_1500.jpg?k=32094d60&pid=981134&s=catl&sn=shoptv

 

 

 トランプの主張するメキシコとの間の「壁」は、米国内の自動車産業労働者の期待の象徴と言えるだろう。米国自動車産業の白人労働者の雇用の確保の手段として、「壁」は象徴的意味を与えられている。「BUILD A WALL」も、そして「MAKE AMERICA GREAT AGAIN !」もまた、トランプにとっての「We Can Do It !」であり「I Can Do It !」なのである。

 

 米国自動車産業の中心地であるデトロイト、そしてミシガン州はトランプ支持者の中心となる地域でもある。しかも、ロージーとも無縁ではない。むしろロージーの故郷というべき土地でもあるのだ。あのクライスラー社の戦車工場もフォード社の爆撃機工場も、デトロイト周辺、ミシガン州に建設されたものであった(「クライスラーの戦車」及び「フォードの爆撃機、あるいはロージーのリベレーター」参照)。

 ルーズベルトは1940年12月の有名な演説の中で、参戦前の米国を「民主主義の大兵器廠(The Great Arsenal of Democracy)」として位置付けた(註:6)が、まさにその中心としてイメージされていたのがデトロイトでありミシガンであった(註:7)。参戦後の米国、戦時下の米国で、その「民主主義の兵器廠」の生産を支えたのが女性労働者であり、すなわちロージー・ザ・リベッターのイメージと自身を重ねて時代を生きた女たちであった。

 それまで「男の仕事」とされていたものも戦時下の米国では「We Can Do It !」となった。大統領の職務だってヒラリーにとっては「I Can Do It !」となるだろう。

 米国の雇用環境の防衛のためなら「壁」を築くのも「We Can Do It !」であり、大統領となったトランプにとっては「I Can Do It !」となる。

 ロージーのイメージはフェミニズムとの親和性も高いが、愛国主義との親和性も高いのである。ロージーに締め上げられるトランプが力こぶを誇示しながら壁を築く。

 ミラーのポスターのイメージは米国の人々に深く浸透するものとなり(註:8)、トランプ支持者にも反トランプ派にも共に用いられる人気のアイコンにまで成長したことが、ネットで採集した画像を通して理解出来るはずだ。

 

 

 

【註:1】
 溝呂木佐季 BuzzFeed News 「女性大行進に舞った抗議のプラカード 共感を呼んだ英語表現20選」
  https://www.buzzfeed.com/sakimizoroki/wm-e?utm_term=.pwe0dyOvN#.qsqqzW4YN

【註:2】
 http://inmyroom.podbean.com/e/womens-march-on-washington-special/

【註:3】
 https://www.facebook.com/Kevin.Karstens

【註:4】
 https://onsizzle.com/i/we-can-do-it-www-kevinkarstens-blogspot-com-yes-we-can-via-2848873

【註:5】
 We Can Do It!
  https://en.wikipedia.org/wiki/We_Can_Do_It!
  
https://ja.wikipedia.org/wiki/We_Can_Do_It!
 Rosie the Riveter
  https://en.wikipedia.org/wiki/Rosie_the_Riveter

 日本語の『ウィキペディア』には「We Can Do It!」のページはあるが「ロージー・ザ・リベッター(Rosie the Riveter)」のページはない(2017/01/27 の時点では)。ちなみに『ウィキペディア』の日本語版の「We Can Do It!」の冒頭は以下の通り。

  "We Can Do It!" とは、戦時中のアメリカ合衆国でプロパガンダに使われたポスター・イメージのことである。J・ハワード・ミラーが1942年にウェスティングハウス・エレクトリックの依頼を受けて製作したもので、労働者を鼓舞して勤労意欲を高めることを目的としていた。このポスターは一般に通信社がミシガン州の工場労働者を撮影したモノクロ写真がもとになっていると考えられており、被写体となったその女性の名はジェラルディーン・ホフという。
  第二次世界大戦中にこのポスターが人目に触れる機会はほとんど無かった。それが1980年代の初めに再発見され、様々な形で広く再生産された。しばしば「We Can Do It!」と呼ばれたこのデザインは、軍需工場の労働者の力強い、しかし女性的な姿のアイコンとなってからは「ロージー・ザ・リベッター」とも呼ばれた。そして「We Can Do It!」のイメージは1980年代に始まるフェミニズムなどの政治的問題を唱道するために利用されていった。1984年には「スミソニアン・マガジン」の表紙を飾り、1999年のアメリカでは普通郵便の切手のデザインにも採用された。さらに2008年の選挙戦では、サラ・ペイリン、ロン・ポール、ヒラリー・クリントンといった政治家までこのイメージをキャンペーンの道具として利用するのである。
  今日ではこのポスター・イメージが戦争を呼びかけ、女性労働者を駆り立てるものとしてだけ利用されたという考えがしばしば議論の前提となっている。しかし戦争中、このポスターはウェスティングハウスの内部に向けてのみ展示されたのであり、掲載も1943年2月の間だけだった。そしてそもそも募集広告ではなく、すでに雇用された女性にさらなる労働を説くものとして使われたのだ。フェミニストを始めとして多くの人々がこの啓発的な姿やメッセージに飛びつき、イメージを様々な形に改変し、自己実現や勧誘、扇動、広告、パロディなどに使用した。

 ここには「被写体となったその女性の名はジェラルディーン・ホフ」とあるが、現在ではそれが誤りであったことが知られている。実際に被写体となったのはナオミ・パーカーであった。

   Miller is thought to have based his "We Can Do It!" poster on a United Press International wire service photograph taken of a young female war worker, widely but erroneously reported as being a photo of Michigan war worker Geraldine Hoff (later Doyle.) More recent evidence indicates that the formerly mis-identified photo is actually of war worker Naomi Parker (later Fraley) taken at Alameda Naval Air Station in California.
     (
https://en.wikipedia.org/wiki/Rosie_the_Riveter

【註:6】
 http://www.americanrhetoric.com/speeches/fdrarsenalofdemocracy.html

【註:7】
 http://detroithistorical.org/learn/encyclopedia-of-detroit/arsenal-democracy

【註:8】
 現在では、ハロウィンの仮装のキャラクターとしても人気があるらしい。
  https://jp.pinterest.com/explore/rosie-the-riveter-costume/

   Rosie The Riveter Costume.jpg
Rosie The Riveter Costume
  
https://s-media-cache-ak0.pinimg.com/736x/6d/c7/29/6dc7290fbc0ff2300e55180cabd0ec57.jpg

 

 

 

 

 

(オリジナルは、投稿日時 : 2017/01/26 22:07 → http://www.freeml.com/bl/316274/294613/

 

 

 

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2016年12月31日 (土)

フォードの爆撃機、あるいはロージーのリベレーター

 

 いわゆる「先の大戦」で日本は米国に戦いを挑み、そして敗れた(日本にとっては「大東亜戦争」、すなわちアジアでの戦争であったが、米国にとっては「第二次世界大戦」であり、アジアとヨーロッパの二正面での、まさに世界戦争であった)。ヨーロッパとアジアの二正面の戦争での米国の圧倒的な勝利を支えた米国の国力、その圧倒的な生産力については、これまでにも当時の映像を通して考えてきた。

 クライスラー社の広報用フィルム(『Assembly Lines Of Defense』)に記録されていたのは、(米国参戦前の)準戦時体制の下で、民間の自動車メーカーが大規模な戦車工場を設計し建造すると同時に戦車の設計を進行させ製造ラインを構築し、実際に製造ラインを稼働させることで戦車の大量生産を実現してしまう姿であった(「クライスラーの戦車」)。

 ボーイング社設計の新鋭四発重爆撃機B-29の生産を担当した航空機メーカーであるベル・エアクラフト社の広報用フィルム(『B-29s Over Dixie』)には、B-29生産のために新たに建設したマリエッタ工場での、人種、経歴、性別、年齢、障害の有無を問わずに団結して生産に集中する米国の総力戦状況、そして近代的な生産ラインの詳細に加え、工場の福利厚生の充実ぶりまでが記録されていた(「B-29 (物量としての米国の生産力)」)。

 

 

 

 今回は、コンソリ―デッド社の設計による四発重爆撃機B-24リベレーターの生産を請け負った自動車メーカー、フォード社の広報用フィルムを通して、四発重爆撃機の製造に際して自動車並みの大量生産を成し遂げてしまった米国の自動車メーカーの底力と、フォード社のウィローラン工場の生産力を支えた女性労働者の存在に焦点を当ててみたい。

 

 

 B-24の生産に際して、フォード社の果たした役割については、まず牧英雄氏の論考を読むことで、その驚異的生産力の概略を把握しておこう。

 

  各社が揃って生産に入ったB-24D系列(E/C型を含む)の機体を見ると、コ社(=コンソリ―デッド社:引用者註)のサンディエゴ工場が1942年1月、フォートワース工場が5月、ダグラスのタルサ工場が1942年8月、フォードのウィローラン工場が9月、最後に少し遅れて翌42(ママ)年4月にノースアメリカンのダラス工場が、それぞれ最初の機体を送り出している。
  このうち、注目すべきはフォード社であった。優秀な特定の機体を、直接航空機と関係のない企業を含むいくつかのメーカーで生産する体制は、当時アメリカで広く行われたことであるが、とくに威力を発揮したのが自動車メーカーで、その生産能力において航空機メーカーの比ではなかった。ジェネラル・モーターズなどは、各工場をイースタン部門として統合、ついには自ら開発を行なうまでになった。
  フォード社も、ミシガン州ウィローランに急遽工場を新設、製作図面を量産向けに書き直したうえ、生産設備も自動車並みに変更して大量生産に入った。
  当初は部品のみを月産100機分の予定であったが、計画を大幅に拡大、機体200機、部品150機分を月産、半ば以降はB-24生産の中心的存在となった。
  最高精密機械の航空機といえども、充分マスプロが可能なことを知らしめたのである。
  こうしたことから、最初XB-24の開発に$2.880.000、YB-24では$360.000もした価格は、1941年には平均$269.805、42年末には$137.000にまでなった。これはP-38(一人乗りの双発戦闘機である:引用者註)よりわずか1万ドル高いだけであった。 
  最大の生産がなされたB-24だが、やはり他の機体同様終戦によりPB4Y(海軍で使用されたタイプ:引用者註)と合わせ5.700機ほどがキャンセルされており、1945年5月31日に最後の機体(YB-24Nとされる)がウィローラン工場をロールアウト、10月にはプライバティア(海軍用の単尾翼タイプの機体:引用者註)の最終機も完成し、その生産は完全に幕を閉じた。
     (牧英雄 「B-24 技術的解剖と開発、各型」 『世界の傑作機No.24 B-24リベレーター』 文林堂 1995  12ページ)

 

 

 B-24の全生産機数は最終的に18000機を超える(B-24の主戦場となったのは北アフリカ及び地中海方面を含むヨーロッパ戦域だが、日本本土空襲の主力とはならなかったとはいえ、アジア太平洋戦域に展開する日本軍へはダメージを与えているのも事実である)のだが、その半数に近い8685機をフォード社が生産しているのである。B-24を開発した航空機メーカーであるコンソリーデッド社の二つの工場に加え、やはり航空機メーカーであるダグラス社とノースアメリカン社の生産機数の合計(これが航空機専業メーカの実績、ということだ)に匹敵する生産量を、自動車メーカーであるフォード社一社で達成しているのだ。

 ちなみに、日本は四発重爆撃機を開発・保有し得るだけの国力を持たなかったし、双発爆撃機の生産機数だけで比較しても日本の双発爆撃機(陸海軍機合計して)の全生産機数は9558機に過ぎず、それに対して米国は双発爆撃機5機種を保有するだけでなく、その中のB-25一機種だけで9793機と日本の全双発爆撃機生産数を凌駕していたのが、日米の生産力に関する事実である。

 四発重爆撃機であるB-24は、その双発のB-25の二倍近い生産機数であり、その半数、すなわち日本の全双発爆撃機の生産機数に匹敵する機数のB-24をフォード社一社で生産してしまっていたことになる。

 近代戦争における「物量」の問題については、圧倒的な(軍需品)生産力=供給量における絶対的優位を意味することはもちろんだが、牧氏の論考にあるように生産コストの視点も重要である。フォード社は流れ作業の導入による自動車の大量生産に成功し(=生産コストの低減)、高価であった自動車の低価格化を成し遂げ、自動車を大衆のものとした。その大量生産システムを航空機、それも軍事的に大量な供給が必要とされた重爆撃機に応用し、単に問題の量的側面を解決しただけでなく、国費の消尽としての戦争において、コストの大幅な削減にも成功していたということなのである。近代総力戦がマネジメント能力の戦争でもあったことを思い知らされるエピソードであろう(註:1)。

 

 

 そのフォード社が1943年に制作したのが、『Women on the Warpath』である。10分ほどの広報用フィルムだが、全編がカラーであるところにも、当時の日本と隔絶した米国の国力を見ることが出来るだろう(既に「昭和11年のシンデレラ(シボレーのシンデレラ)」でも示したように、自社のコマーシャルフィルムをカラーで制作してしまうのが米国の自動車メーカーの戦前以来の実力なのであった)。

 

 

Ford Willow Run Plant in World War II: "Women on the Warpath" 1943 Ford (B-24 Liberator Mfg)
     https://www.youtube.com/watch?v=Y0P6UiKPrlI 

 

 

 タイトルに『Women on the Warpath』(戦いに臨む女たち)とあるように、中心に描かれるのは女性たちの姿である。

 映像はウィローラン工場の紹介から始まるが、そこでは一時間当たり一機のB-24の生産が期待されていることが説明されると同時に、男性だけではそれが達成困難であることも語られる。加えて、既に陸海軍の婦人部隊(WAC及びWAVES)で活躍する女性たちの姿、そしてガソリンスタンドで働く女性の姿が示される一方で、まだウィンドーショッピングやゴルフに時間を費やす女性、そして家庭内で家事にいそしむ女性の姿が映し出される。彼女たちに向けて、軍需工場での労働への参加が呼びかけられるのである。

 続いて、その呼びかけに応えた女性たちの姿が映し出されるのであるが、彼女らの通勤の手段は既に自家用車なのである(それが当然のこととして描かれている)。

 洗濯物を干しながら上空のB-24を見上げていた主婦が、B-24を生産する工場の労働者となる。様々な工程が既に女性労働者によって置換されていることが示され、(その前提となる)充実した職業訓練・教育の模様が映し出される。そして当時のヒット曲『Rosie, The Riveter』(ロージー・ザ・リベッター、「リベット打ちのロージー」とでも訳すか?)のメロディーを背景に、まさにリベット打ちの作業に携わる女性労働者たちの姿が続く。

 キャンパスの女子学生も工場でのリベット打ちへと転身する(リベット打ち機の音は、文化的で民主的な生活を守る機関銃の発射音に擬せられる―リベット打ち機の連続音は『Rosie, The Riveter』の歌詞にも反映されている)。

 工場のすべての部品製造が女性労働に担われていることが強調され(プレキシガラスの成型シーンは『B-29s Over Dixie』にも登場していた―実際、見ていて面白い)、ブルーの作業服にバンダナ姿の女性労働者の姿は、ノーマン・ロックウェルの描くところの『Rosie, The Riveter』に重ねてイメージされる。

 工場の食堂や付属職業訓練校の図書室の映像は、ベル社のマリエッタ工場の福利厚生面での充実ぶりを思い出させる。

 製造ラインと組み立てラインは女性たちに支えられており、彼女たちは既に戦場の男たちの帰りを待つだけでの存在はないのだ。

 完成したオリーブドラブ塗装仕様のB-24Eは、工場に付設されたウィローラン飛行場へと移され、国民の希望と敵の恐怖の象徴として、自由な空を愛国的メロディーの合唱に伴われながら星条旗を背景に飛行し、盛り上がったところでエンドマークとなる。

 

 

 ただし『Wikipedia』(英語版)の「Willow Run」の項目等を読むと、ヘンリー・フォード自身は、当初は工場労働者としての女性の雇用には否定的であったし、工場の完成から本格的稼働(一時間に一機の生産達成)までには時間を要しているのが実情のようである(実際、ウィローラン工場については、当初はヘンリーの息子のエドセルがフォード社長としてB-24生産体制確立への指揮を執っていたが、1943年に胃癌で死去している―ウィローラン工場問題のストレスのためと言われている)。

 自家用車による通勤にしてもデトロイトからは一時間を要し、ガソリン供給に制限のあった時期の労働者にとっては決して利便な勤務地ではなく、しかも工場近郊での住宅供給は遅れ、労働者の定着率の低さに悩まされていたのが工場稼働の初期段階(労働者のストライキさえあったという)の現実でもあったらしい。

 しかし、最終的には一時間に一機のペースでの製造には成功し、最盛期には月産650機を記録するところまで到達している。

 

 いずれにせよ、ヘンリー・フォードが工場労働者としての女性の雇用に否定的であろうが、多くの男性が兵士として前線へと送られる状況の中では女性の積極的雇用にしか選択の余地はない。それが「近代総力戦」の現実であった。そして、実際に多くの女性が、それまで「男の仕事」とされていた職務を男性に遜色なくこなしたのであった。

 

 

 

 せっかくの機会なので、あらためて『Rosie, The Riveter』がどんな曲であるのかを確かめておこう。

 

 

Rosie, The Riveter ~ Allen Miller & His Orchestra (1943)
     https://www.youtube.com/watch?v=XJxe3vQRMuY

 

 レッド・エヴァンスとジョン・ジャコブ・ローブによる1942年の曲で、様々なレコーディングが残されているらしい。

 

 歌詞は、

 All the day long, whether
 rain or shine
 She's a part of the
 assembly line
 She's making history,
 working for victory--
 Rosie, brrrrrr, the riveter.

 Keeps a sharp lookout
 for sabotage
 Sitting up there on
 the fuselage.
 That little frail can do more
 than a male can do--
 Rosie, brrrrrr, the riveter.

 Rosie's got a
 boyfriend, Charlie.

 Charlie, he's a
 Marine.

 Rosie is protecting
 Charlie, workin'
 overtime on the
 riveting machine.

 When they gave her
 a production "E,"
 she was as proud
 as a girl could be!

 There's something
 true about--red,
 white, and blue
 about--Rosie,
 brrrr, the riveter.

 

 リフレインされる「Rosie, brrrrrr, the riveter.」、この「brrrrrr」の部分がリベット打ち機の作動音(擬音)として非常に効果的に用いられているのが録音を通して伝わるだろう。「Rosie is protecting Charlie, workin' overtime on the riveting machine.」とはつまり、戦場の恋人チャーリーを守るのが、雨にも負けず風にも負けずに一日中(All the day long, whether rain or shine)工場で生産に励むロージーのリベッティングマシーンだというレトリックである(戦場の男は、工場の女に守られる存在だ!というのである)。

 

 

 図像的には、1942年にJ・ハワード・ミラーによってウェスティングハウス社のためにデザインされたポスター(ミラーがウェスティングハウス社のためのポスターシリーズのデザイン契約をしたのが1942年で、当該のポスターは1943年2月にウェスティングハウスの工場内に掲示されたものである:2017/01/26追記)と、1943年に「サタデー・イブニング・ポスト」誌の表紙としてノーマン・ロックウェルが描いたものが、リベット打ち(リベット工)ロージーの視覚的イメージを代表するものとなっている(註:2)。

 動画で歌の背景に用いられている当時の女性労働者の画像も興味深いし、『Women on the Warpath』に実際に登場するブルーの作業服にバンダナの女性の被写体としての選択にも、ミラーやロックウェルのイメージが反映されているように感じられる。

 

 

 "We Can Do It!" by J. Howard Miller
 (https://en.wikipedia.org/wiki/Rosie_the_Riveter#/media/File:We_Can_Do_It!.jpg

 

 Norman Rockwell's Saturday Evening Post cover
 https://en.wikipedia.org/wiki/Rosie_the_Riveter#/media/File:RosieTheRiveter.jpg 

 

 

 ミラーとロックウェルは、若い女性の姿としてロージーを描いているように見えるが、先の『Women on the Warpath』では家庭内の主婦(ミセス)もまたロージーとなり得ることが示唆されている(むしろ主婦に対し、家庭内から外へ出て働くことが積極的に推奨されている)。

 夫は戦場にあり、(夫に対しての)家事労働の必要は減少していたにせよ、主婦の守るべき家庭には子どもという存在がある。育児の問題を解決せずして、子育ての渦中にある女性の工場労働者としての身分は不安定なままである。保育所の確保は、当時の米国女性(そして行政)にとっても課題であったが、保育への公的支援の枠組みが一般的なものとして構築される前に戦争は終わってしまった(たとえば松本園子「第二次世界大戦期アメリカ合衆国における保育問題」2005 が参考になる→ http://ci.nii.ac.jp/naid/110004475970)。公的な保育所の整備の必要は女性労働者の確保(要するに「戦時動員」である)の上でも切実なものであったが、社会が戦時から平和へと移行するに伴い、行政上の関心は失われてしまったのである(註:3)。

 戦時の産物が戦後に一般的になったものとして、インスタント食品の普及が指摘されるが、女性が外で働く上で、インスタント食品の果たした役割も無視し得ない(柏木博 『家事の政治学』 青土社 1995)。インスタント食品は軍の糧食としても役立ったが、家庭の外で働くことを選んだ女性たちの支えにもなったのである。

 

 

 

 最後に再びフォード社の広報用フィルムを見ておこう。『STORY OF WILLOW RUN』は、戦前のまだ田園地帯であったウィローラン地域の映像から始まる。

 そこにフォード社は、世界最大規模の爆撃機生産工場を建設し、工場のための飛行場まで自身の手で開設してしまうのである。

 

 

" STORY OF WILLOW RUN "
Save the Willow Run Bomber Plant landmark - Amazing Local History in WW II effort

     https://www.youtube.com/watch?v=77_6MExOp8g&t=22s  

 

 

 映像はヤンキー航空博物館(Yankee Air Museum)の提供によるもの(ただしモノクロの不鮮明な映像なのが残念)のようだが、この航空博物館こそは、かつてのウィローランの記憶を伝えるために、現在のウィローランで設立・運営されているものなのである。

 戦前、1930年代のウィローランは、ヘンリー・フォードの農場であった。フォードは青年教育の場として農場を位置付け、都市部の青少年の体験の場としたのである(都会っ子が田園生活と農場労働を体験し、自立心を涵養し、やがては良き労働者となる)。

 1930年代にはナチスが台頭し、1939年にはヨーロッパでの戦争が現実化する。米国でも、四発重爆撃機の開発・配備が課題として意識されるようになる。B-24も、その中でコンソリ―デッド社によって生み出された機体である。そして牧英雄氏の論考にあるように、「優秀な特定の機体を、直接航空機と関係のない企業を含むいくつかのメーカーで生産する体制は、当時アメリカで広く行われたことであるが、とくに威力を発揮したのが自動車メーカーで、その生産能力において航空機メーカーの比ではなかった」という状況の下で、ウィローランのフォード農場は、四発重爆撃機製造工場と付設飛行場として再出発することになる。

 映像で強調されるのは、大量生産を得意とする自動車メーカーによる、一時間に一機という生産ペースへの期待と達成である(航空機専業メーカーでは一日に一機がやっとなのが実情であった)。

 まずは大規模プラントの建設である。設計を担当したのは、クライスラー社の戦車工場(デトロイト工廠)の設計者でもあったアルバート・カーンであった(1942年に死去したカーンの最後の作品と言われる)。

 併設された飛行場へ着陸するB-24の姿に続くのは、広い駐機場にずらりと並ぶ重爆撃機の威容であり、そこに見出されるのは米国の国力であり、フォードの生産力である。

 このフィルムにも自家用車で通勤する労働者の姿が記録され、続いて行き届いた職業教育訓練の模様が映し出される。

 部品の製造から組み立て完成まで、そのすべてが工場内で果たされる。大規模な、そして精密な工作機械が製品―すなわち四発重爆撃機―の完成度を保証するのだ(精度の確保は工業生産品としての互換性の確保を意味する)。大量の訓練された労働者が、その生産を可能にする(トヨタ的には、労働者の動きは緩慢に見えるだろうが)。映像の9分付近ではリベット製造工程が記録されているのも興味深い。

 やがて生産現場での女性労働者の存在が明確に描かれるが、そのすべてが白人であるところが、ベル社のマリエッタ工場の記録フィルムとは大きく異なる点ではある。

 そして自動車メーカーとしての大量生産の経験と爆撃機製造ラインでの高い生産能力の連続性が語られる。組み立てラインでは、機体はまず6区画に分割製造され、それが一体化される。

 技術を要求される溶接工もリベット打ちも女性がこなし、ここでもプレキシガラスの成型シーンが登場する(効率的ではあるが手作業に依存していることもわかる―つまり訓練が必要な労働ということでもある)。

 組み立て工程でも自動車大量生産の経験が反映されていることが繰り返し強調される。

 外翼部と中央部の接合に際して活躍するのは、小人の男性である(差別の対象ともなる身体特徴が利点となる)。この映像には、正直なところ驚かされた。

 最終的に分割製造された機体を組み上げる工程が描かれるわけだが、その背景となっている工場の規模の巨大さ(組み上げのために機体各区画の効率的移動を保証するのは工場の天井高の余裕である)にも気付いておきたい。

 工場建屋内に列をなす完成されたB-24を背景にナレーションが誇らしげに語るのは、ウィローラン工場開設の1941年当時には不可能と見做されていた毎時一機の重爆撃機生産を、実際に達成してしまったフォード社の「ミラクル」な能力である。

 完成したB-24は工場内から飛行場へと移され、作動テストが始められる。機銃の試射が行なわれ、模擬爆弾が搭載された爆撃機にはクルーが乗り組み、飛行試験が行われ、模擬爆弾の投下も含め様々な機器がチェックされる。

 無塗装のB-24が、まさに銀翼を輝かせ飛行する姿は印象的である(註:4)。

 

 

 

 フォード社の桁違いな航空機生産能力を見せつける(ための?)フィルムだと思うが、もちろん、フォード社の本業は自動車の大量生産であり、フォード社は大量の車両も供給している。戦時期を代表する軍用車両であるジープについてだけ見ても、総数64万台のうちフォード社は27万8千台近くを生産・供給しているのである(残りの36万台はウィリス社が生産)。米国の二正面での戦争の勝利は、このような民間企業の生産力に支えられていたことを、この機会に再確認しておきたい。

 

 

 

【註:1】
 戦時期に陸軍の統計管理局でそのマネジメント能力を発揮したハーバード・ビジネススクール出身者の一人であるロバート・マクナマラは、戦後にフォード社の一員となり、最終的にはフォード社の社長の地位を得る。更にケネディー政権の国防長官に就任するが、マクナマラを中心とした「ベスト・アンド・ブライテスト」は、そのマネジメント能力をフルに発揮することによって、米国をベトナム戦争の泥沼へと導くこととなった。

【註:2】
 ロックウェルのロージーは当時を代表する雑誌の表紙絵として、確かに戦時期米国の女性労働者のイメージ形成に影響力を持ったであろうが、ミラーのポスターはウェスティングハウスの社内用で当時から知名度が高かったわけではないし、そもそもリベット工の女性を描いたものではなかった(1980年代のフェミニズム運動の中で図像が「再発見」され、現在では非常に影響力ある視覚イメージとして流通しているが)。

 現在ではモデルも特定されている。
  J・ハワード・ミラーの「We Can Do It!」のモデルのナオミ・パーカー
   → http://www.naomiparkerfraley.com/we_can__do_it1pose.jpg
    (→ http://www.naomiparkerfraley.com/
  ノーマン・ロックウェルの「Rosie, The Riveter」のモデルのマリー・ドイル
   → http://www.trbimg.com/img-55381803/turbine/os-mary-doyle-keefe-20150422
    (→ http://www.huffingtonpost.com/2015/04/23/rosie-the-riveter-dead_n_7126782.html
  米国の国民的アイコンとして、様々なパロディーの供給源ともなっている。
   → http://www.shoptv.com/imgcache/product/resized/000/981/134/catl/donald-trump-rosie-the-riveter-2016-build-a-wall-t-shirt-945_1500.jpg?k=32094d60&pid=981134&s=catl&sn=shoptv

【註:3】
 『MANPOWER』と題された1943年の米国政府の公式フィルム(戦争情報局制作)には、保育の問題も取り上げられている(https://www.youtube.com/watch?v=eKrHfTGWxQ4)。このフィルムでは、恐慌以来の失業者、(これまで多くの職業から閉め出されていた)有色人種、女性、そして障害者が戦時下での新たな労働者として取り扱われており、それはまさにB-29の生産を担当した航空機メーカーであるベル・エアクラフト社の広報用フィルム、『B-29s Over Dixie』に登場する人々と共通する。
 松本園子氏の論文にも、戦時期になって保育所の入所申込用紙の「申込み理由」欄に「共働き(both working)」の項目が新設されたことが記されているが、フィルム中でも軍需産業での「共働き」と「保育の保障」の密接な関係が描かれている(しかも性別による区別のない同一労働同一賃金の原則が強調されている点も見逃せない)。戦時動員のプロパガンダの主体としての戦争情報局(Office of War Information)の認識が反映されてのこと―保育施設設置は「ランハム法」に基づき連邦職業庁(Federal Works Agency)が管轄した―であろうが、連邦社会保障庁(Federal Security Agency)児童局が保育所拡充に消極的であったこと(一枚岩の体制とはなっていなかったこと)も松本氏の論文には記されている。保育所の問題については、連邦としての(つまり「国策」としての)一枚岩の戦時体制が構築される前に戦争は終結したということのようである。

【註:4】
 『Women on the Warpath』の時点、すなわち1943年の生産機種であるB-24Eはオリーブドラブに塗られていたが、『STORY OF WILLOW RUN』に登場するのは無塗装の機体である。
 無塗装が採用されたのはB-24H-10-FO以降だとされるが、機体の形状からはB-24J及びMとの判別は難しい。
 『Women on the Warpath』に登場するB-24Eには1942年5月から1943年6月まで用いられた国籍マークが記され、『STORY OF WILLOW RUN』に登場する機体に記されているのは1943年9月以降に用いられたものだと思われる(http://www.bowersflybaby.com/stories/army_paint.html)。
 ちなみに、『Women on the Warpath』については1943年のフィルムとされているが、『STORY OF WILLOW RUN』については明確ではない。
 この『STORY OF WILLOW RUN』のナレーションでは、フォード社の総生産機数を「8685」と明言しており、(撮影時期はともかくとして)生産の終了した1945年6月以降の編集である可能性はある。一方でこれからも繰り返し出撃することが語られていることからすれば、戦争終結以前に編集されたフィルムであることも言えそうである。

 

 

 

 

 

 

(オリジナルは、投稿日時 : 2016/12/31 11:39 → http://www.freeml.com/bl/316274/292629/

 

 

 

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2016年11月 5日 (土)

『シン・ゴジラ』(2016)をついに観た

 

 タイトル通りの話で、11月3日に立川の映画館の「極上爆音上映」企画の上映を観たのであった。

 

 永田町、霞が関方面壊滅後の政府対策拠点となるのが、まさに立川ということで、後半のシーンではどこか臨場感のようなものが感じられたりもするのであった。

 

 

 以下、レビューというよりネタバレ前提の感想文程度の内容となってしまうだろうが、ま、とりあえずのメモ記事である。

 

 

 

 パートナーはなんとこれで4回目の上映館通いという具合(娘も少なくとも2回以上)で、家庭内の会話、ネットで眼に入ってしまう情報等から、映画の全体構成を事前に知ってしまうという理不尽な状況の中での『シン・ゴジラ』だったので、で、事前に知ってしまった通りにストーリー展開するような状況でもあって、初めて見るのに既視感に伴われるという、純粋に映画を楽しむためにはマイナス条件の中での感想文となってしまうわけだ。

 

 

 で、既に観てしまった人向けの内容として、詳しいストーリーの説明はせずに、感じたことを書き連ねておく。

 

 

 で、噂通り、映画のかなりのシーンが、政府の対策会議での政府関係者間のやり取りに費やされている。

 日本の行政システムは法令順守を基本に組み上げられているから、原因のよくわからない災害(最初は海底トンネルの崩落)対策のための対応にしても、そのために新たな組織が必要がどうか等々の検討が必要となるし、新たな組織の立ち上げには閣議決定が必要となるし、閣議決定や省令や通達で可能な対応範囲を超えれば新たな立法措置も必要となる。そのために政府閣僚を含む政治家側の関係者(決定を下す人々)と、実際に行政組織を運営する官僚(決定を実行する人々)の意思疎通が重要であり、しかも状況は時々刻々変化していくのだ。

 その都度の決定権者が誰であり、どの部局が対応に当るのかもまた、その都度の様々なレベルの会議で、法令に定められた通りに決められなければならない。

 ゴジラの登場は、そんな日本の政治行政システムを揺さぶり続けるわけであり、その間のあたふたぶりが笑いを誘うのであった。映画ではまったく描かれていなかったが、「特別立法」は立法府(国会)の審議・承認なしには成立しないわけで、映画の背後では、国会内の様々なやり取り(野党の抵抗とか)もあったはずで、そんな経緯も取り込んだヴァージョンを観たい、という無茶な個人的要望が(正直なところ)生まれたりもしている。

 

 映画ではあまり描かれていなかったと思うが、官僚組織は(そして政治家という人種も)、常に自らの権限の拡張を志向すると同時に、権限の限定により責任から逃れる方策を確保しておこうとするという、相反する傾向への際限のない努力をその習性としている。ゴジラ問題を誰の、そしてどの組織の所管とするのか?これは当事者にとって悩ましい問題となったはずである。映画冒頭からしばらくの間は、事態への楽観が支配し、その点についてはそう深刻にならずに済んでいたはずだが、事態が深刻さを増すに従い、他の部局・組織に任せ、自らは責任を負わずに済ませよう的心理が支配していくことになったであろう。

 

 

 そんな中で立ち上げられるのが主人公率いる「巨災対(巨大不明生物特設災害対策本部)」である。各部門のエキスパートを組織横断的に結集した、と言えば聞こえがいいが、実態は「霞ヶ関のはぐれ者、一匹狼、変わり者、オタク、問題児、鼻つまみ者、厄介者、学会の異端児」の集まりであると(映画の中でも)説明されている。

 要するに、高い専門能力は持つが、組織への適応能力が低く、出世とも無縁な連中という設定である。

 これは、戦争アクション映画の王道設定のひとつでもあり、『シン・ゴジラ』はその枠組みの中で進行する、「闘う行政組織アクション映画」として位置付けられる、ということだ。

 

 映画ラストあたりでの「日本はまだまだやれる」的セリフにしても、その「まだまだやれる日本」を支えたのは、民衆でもなく主流派エリートでもなく、「はぐれ者、一匹狼、変わり者、オタク、問題児、鼻つまみ者、厄介者、異端児」であったことは、この映画を評価する上で非常に重要な構図だと、私は思う。

 

 このセリフを含めて、自衛隊の活躍が描かれていること等に対し、サヨクの皆さんからの『シン・ゴジラ』の評判は悪いらしいが、サヨクの皆さんは、日本を救うのが国内の「はぐれ者、一匹狼、変わり者、オタク、問題児、鼻つまみ者、厄介者、異端児」であるという設定を見落としているのではないか、そう思わぬでもない。行政組織アクションとして、それも「はぐれ者、一匹狼、変わり者、オタク、問題児、鼻つまみ者、厄介者、異端児」が中心となった行政組織アクションとして、要するにただただエンタメとして楽しめばいい(エンタメのしてのレベルが低いというのならともかく)のに、誰でも言えそうな形式主義的批判をしていい気になっている(ように見える)のはアホくさい話である。

 

 

 

 で、問題の自衛隊だが、戦闘部隊はゴジラに歯が立たないのである。最終的にゴジラを倒す決定打となるのは工兵部隊(その中の特殊車両部隊)なのである。

 この設定の意味も、もう少し考えてもいいんじゃないかと思う。

 

 自衛隊の戦闘部隊の保有する対戦車兵器も、対航空兵器も、それぞれの(本来の)用途には有効であっても、ゴジラはあまりに巨大で堅牢であり、それらの兵器の口径(あるいはミサイルのサイズ)では太刀打ち出来ない(まったくダメージを与えられない)、ということなのだ。

 ここで気付かなければならないのは、自衛隊の保有するのは、何だかんだ言いながら、(国境線を含む)自国内での敵戦闘力への防御兵器だということで、国外での敵の殲滅には不向きな編成だということである。地中貫通型爆弾の投入でゴジラにダメージを与えたのは米空軍爆撃機なのである。米軍の国外での対敵戦闘能力の象徴のひとつが、この地中貫通型爆弾なのであり、単なる対人兵器でも対戦車兵器でも対航空兵器でもなく、敵の軍事インフラそのものを攻撃するもの(そして民間施設を「誤爆」するもの)なのだ。

 

 これも自衛隊プロパガンダ扱いをされてしまうのかも知れないが、しかし、『シン・ゴジラ』が正確に描いているのは、対外軍事作戦の主力たり得ない自衛隊の姿であり、自国防衛に特化した兵器により編成された自衛隊の姿なのである。もちろん、米軍の「お伴」として米国による対外的軍事作戦の一環を担うという選択肢は残されてはいるわけだが。

 

 で、先に指摘した通り、犠牲を出しながらもゴジラにとどめを刺すのは、同じ自衛隊の中でも工兵部隊なのであり、その際の主力となるのがコンクリート注入用の特殊車両(あの福島第一原発の顛末と同様に)なのだ。そしてその際の薬剤を短期間で供給し得た化学メーカー(その現場の人々の努力・集中力)なのである。

 

 

 

 自衛隊礼賛プロパガンダ映画として(誰でも出来るような)批判をしていい気になるよりは、エンタメとして楽しんだ上に、このようなディティールに着目して楽しむ。

 

 そういう知的余力を備えていた方が人生は楽しめる、んじゃないかと…

 

 

 

 もっとも、最終的にゴジラを倒した(というか凍結した)「ヤシオリ作戦」の経過は、あまりに上手く行き過ぎな印象もあって(あそこまで計算通りにはいかんでしょう、フツー)、リアリストである私には多少の違和感がなきにしもあらずではあるのだが、あそこで成功させないと映画が二時間の枠に納まりきらなくなるという「大人の事情」も理解するので、特に文句を言おうとも思わない(もっとも、娘は二回目の映画館で、「今度は失敗するかも知れない」的気分で見守っていたという話なので、「常にあんなに上手く行くわけはない」的気分は、私と共有されていたようである)。

 

 

 映画館を後にした私とパートナーはビデオ・レンタル店に立寄ったのだが(パートナーがゴジラの旧作チェックを思いついたため)、私が借り出したのは(ゴジラとは関係ない)「鷹の爪」シリーズのアニメDVDで、タイトルは『独立愚連広報部』。この中に、「存在するかも知れないUFOに対する自衛隊出動の法的根拠」を首相に問う石破防衛大臣(福田内閣当時)の姿があって、『シン・ゴジラ』の会議シーンと重なり(そして、『シン・ゴジラ』をめぐる石破氏当人の発言と伝わるもの―ゴジラへの自衛隊の出動は「防衛出動」じゃなくて「災害派遣」の「害獣駆除」であるべきはず―までが思い出され)、あらためて「鷹の爪」の監督フロッグマン氏への敬意も高まったのであった。

 

 

 

 

 

(オリジナルは、投稿日時 : 2016/11/05 16:41 → http://www.freeml.com/bl/316274/288765/

 

 

 

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2016年10月25日 (火)

B-29 (物量としての米国の生産力)

 

 以前に「クライスラーの戦車」と題して、米国の準戦時体制下で、民間の自動車メーカー(クライスラー社)が短期間で、戦車の設計から大量生産にまでを達成してしまうまでの記録フィルム(クライスラー社の広報用である)を紹介した。そこには、詳細な設計の進行と同時に、戦車生産のために新たな工場を建設してしまう米国の自動車メーカーの底力が記録されていた。

 

 

 

 今回は、日本国民にとって、あの「先の大戦(大東亜戦争)」における米国の圧倒的な軍事力の象徴とも位置付けられる四発重爆撃機、あの憎っくきB-29の生産工場をめぐる記録フィルムを紹介しておきたい。

 

 

 

 まず、陸軍省による『Birth Of The B-29 』である。

 

Birth of the B-29 Superfortress 1945 Documentary film movie
     
https://www.youtube.com/watch?v=_284CTOzhRk

 

 

 動画サイトのデータ(米国版のウィキペディア記事からの引用だが)によれば、1945年制作であるらしい。ただし、内容からして、日本降伏以前のものと思われる。

 フィルムの冒頭では、当時の日本が、オリエンタリズム的視点に戦時プロパガンダを重ねたような切り口で紹介される。そこでは、日本が欧米の「コピー」による近代化を成し遂げたことが語られ、英語圏諸国向けの工業製品に刻印された「Made in JAPAN」の文字が強調されると同時に、その輸出品の収益が軍事力強化に用いられ、中国大陸での軍事的進出の基盤となっていることが主張される。

 その日本による対米開戦後の米国による日本本土初空襲の際の映像に重ねて、それが「Made in America」によるものであることが強調される流れとなり、続いて日本本土攻撃の最新鋭兵器としてのB-29の工場に焦点が合わされ、米国の高い技術力と生産力の実情が視覚的に明らかにされる。

 そこで描かれるのは、工場の圧倒的な巨大さ(建屋内に、あの「重」爆撃機B-29が並んでいるのだ!)や、最新鋭の生産設備の充実ぶりと同時に、生産にあたる工場労働者の姿である。強調されるのは、肌の色の違い、経歴の違い、性別の違い、年齢の違いを超えて(それどころか障害を持つ人までもが)一丸となって生産に励む姿である。すなわち米国にとっての「総力戦」の内実である。「人種」の区別なく(その待遇に区別がなかったかどうかは疑わしいが)、男も女も、老いも若きも、障害の有無を問うことなく、団結して生産に励む姿が、陸軍省による戦時プロパガンダフィルムに記録されているのである。

 フィルムの最後の方では、そんな労働者たちの上をフライトするB-29の姿(オリーブ・ドラブの塗装が施された最初期の機体である―本格的に生産される頃には、あの銀色に輝く無塗装が標準化された)が印象的な爆音と共に映し出され、中国大陸での中国人労働者の人海戦術による飛行場建設の模様と、そこから離陸するB-29の姿でエンド・マークとなる。

 

 

 

 この陸軍省による戦時プロパガンダフィルムにも登場するベル航空機のB‐29生産ラインの詳細と周辺状況が、ベル社自身の広報用フィルムにも描かれている。

 

B-29s Over Dixie: Building the Superfortress - 1944
     https://www.youtube.com/watch?v=ybGGmjm9JZ4

 

 

 B‐29は、ボーイング社の設計になる米国の四発重爆撃機だが、その生産はボーイング社(シアトル工場、ウィチタ工場、レントン工場)だけではなく、ベル社のマリエッタ工場、マーチン社のオマハ工場でも行われており、そのマリエッタのベル社工場にまつわる記録フィルムである。

 こちらも、陸軍省版と同様に、人種、経歴、性別、年齢、障害の有無を問わずに団結して生産に集中する米国の総力戦状況、そして近代的な生産ラインの詳細が記録されているが、興味深いのは工場の福利厚生の充実ぶりまでが記録されている点である。

 充実した工場内食堂(現代からすればかなりカロリーが高そうなメニューだが―戦時下の大日本帝國臣民には夢物語である)の光景だけでなく、労働者用の運動施設、娯楽施設、電化されたキッチンまで備えた工員用住宅…とその福利厚生面での充実ぶりにはうならざるを得ない。しかも、労働者が自家用車で通勤する様子までが(当たり前のように)記録されているのである。

 米国の圧倒的な国力が、最新設備を備えた巨大な生産ラインからだけではなく、福利厚生面での労働者の待遇を通して実感されるはずである。

 ピープル・オブ・デモクラシーによるパワフル・ウェポン・オブ・デモクラシー(どちらもフィルムのナレーションにある表現)の生産ラインとその周辺状況の記録が、民間企業の広報用フィルムとして残されたわけである。

 

 

 この二本は、既に戦時下となった米国の爆撃機生産ラインの記録であるが、対比のために、参戦前(日本による対米開戦以前)の爆撃機生産ラインを記録したフィルムを紹介しておこう。

 

Building a Bomber: The Martin B-26 Marauder 1945
     https://www.youtube.com/watch?v=vnb0Ib5F9GU

 

 

 こちらは米国の「Office for Emergency Management」(「非常時緊急対策局」などと訳されるらしいが、「アメリカ合衆国大統領行政府」の所属機関である)制作による、双発爆撃機B-26の生産ラインの記録である。動画サイトの表題には「1945」とあるが、内容からして米国の参戦前に撮影・編集されたものと推測される。

 冒頭のキャプションやナレーションで強調されるのは、国家の防衛、そしてデモクラシーの擁護の重要性である。全体を通しても、戦時下であれば強調されるはずの爆撃機としての攻撃力への言及は控えめであり、プロパガンダ要素はあっても、具体的な敵への言及はない(ヨーロッパがヒトラー支配下にあることは指摘されてはいるが)。また、飛行シーンに登場する機体の国籍マークも1942年5月までしか使用されていないものであり、撮影時期は当然それ以前でなければならない。

 工場内の情景を見ても、労働者は男性のみであり、しかも若い男性工員の姿が目立つ。ここに参戦後の総力戦状況での工場(先に紹介したB-29の工場の労働者の構成)との著しい相異が見出されるように思う。このフィルムを先の二本の記録フィルムと対比することで、参戦前(ほぼ白人男性のみで、しかも多くの青年労働者を含む―つまり、まだ大量の兵士となるべき若い男性が必要とされていない状況)と参戦後(人種や性別や年齢を問わない)の労働事情の変化が、まさに「目の当たり、あるいは一目瞭然」的に理解されるだろう。そして、視覚的記録の重要性、ということも。

 

 

 

 最後に紹介するのは英国の総力戦状況が伝わる記録フィルムである。

 

Why We Fight: The Battle of Britain (Frank Capra)
     https://www.youtube.com/watch?v=cSZnFo7JORo

 

 

 米国陸軍省による「Why We Fight」と題されたシリーズの一本である。このシリーズは、当時の米国を代表する映画監督が参加しているところに特質があり、このフィルム『Why We Fight: The Battle of Britain 』の監督は、いわばアメリカン・デモクラシーの伝道者とでもいうべき、あのフランク・キャプラである。

 キャプラにより、1940年の英国の状況(まだ米国の参戦前であり、ナチスによる占領をかろうじて免れたものの、ヨーロッパで孤立した戦争を強いられていた時期)、英国がナチス・ドイツによる対英侵攻作戦の撃退に成功するまでの状況に焦点を合わせたドキュメンタリー映像である。

 これを特にここで紹介しようと思ったのには理由がある。このフィルムの7分台から9分台にかけての部分に、英国の総力戦状況が記録されているからである。ここでも、あらゆる年齢層・経歴の男達が軍事訓練に参加し、英国の防衛を志す姿に加え、軍服に身を包み様々な軍務をも担当する女性の姿が描かれるだけではなく、生産ラインでの性別を問わず年齢を問わない工場労働の情景が記録されているのである。

 特に興味深く感じたのは、当初は労働時間の延長による生産の達成が、当然のこととして実行されていたのに対し(最終的には週70時間労働までになったというが、それが現代日本の「ブラック企業」並みなところが何ともな話ではある)、その後の経験により、生産性の観点から政府の政策として長時間労働が否定されるようになったとのエピソードである。「滅私奉公」の「長時間労働」だけにしか活路を見い出せなかった(出そうとしかしなかった)戦時日本との断絶は大きい。英国人は、滅私奉公の長時間労働が生産性向上につながらず、むしろ阻害要因となることを理解し、そこに活路を求めようとはしなかった、ということなのである。

 

 

 

 米国の「物量」、そして総力戦状況の実際(中でも民間企業の福利厚生面でのあまりの充実ぶり!)。参戦前と参戦後の相異。英国の総力戦状況下での長時間労働の否定。

 記録フィルムを通して、「目の当り」にすることが可能になるというお話。

 

 

 

《背景》
 タイトルを「物量としての米国の生産力」としておきながら、本文では、その数量的側面に触れぬままになってしまったので、大内健二氏の『ドイツ本土戦略爆撃』にある「第二次大戦中の各国機種別爆撃機生産量」と題された表から、日米の爆撃機生産量の隔絶ぶりを確認しておきたい。

第二次大戦中の各国機種別爆撃機生産量(単位・機)

アメリカ
四発重爆撃機
ボーイングB17
     12677
コンソリーデッドB24
     18181
ボーイングB29
      3970
コンヴェアB32
       115
双発爆撃機
ノースアメリカンB25
      9793
マーチンB26
      5157
ダグラスA20
      7478
ダグラスA26
      1909
マーチンA30
      1575
 合計  60855

日本
双発軽爆撃機
九九式双発軽爆撃機
      1977
双発爆撃機
九七式重爆撃機
       713
百式重爆撃機「呑龍」
       796
四式重爆撃機「飛龍」
       606
九六式陸上攻撃機
      1048
一式陸上攻撃機
      2416
陸上爆撃機「銀河」
      1002
 合計   9558
大内健二 『ドイツ本土戦略爆撃』 光人社NF文庫 2006 331ページ 第15表より抜粋

 まず日本は四発重爆撃機を保有していなかった。その上で双発爆撃機の生産機数だけで比較しても、日本の双発爆撃機(陸海軍機合計して)の全生産機数は9558機。
 それに対して米国は双発爆撃機5機種を保有するだけでなく、その中のB25だけで9793機と日本の全生産機数を凌駕しているのである。
 B29は3970機と少ないように感じられるかも知れないが、それは単にその時点で戦争が終結してしまったからに過ぎない。それ以上生産する必要がなくなった、ということなのである。
 生産機数12677のB17は日本本土爆撃には用いられていないし、18181のB24も同様である(太平洋戦域での作戦活動はしているが)。
 必要であれば、つまり日本の降伏が遅れれば、より多数のB29が生産され、本土爆撃に用いられた。そう考えればわかりやすいだろう。
 もっとも、ポツダム宣言の時点で、既に日本国内の主要都市は焼け野原となっていたのも事実であり、米国が、より以上のB29を必要と考えたかどうかはわからないが、既にヨーロッパでの戦争に勝利していた米国にとって、ヨーロッパ戦域での主要重爆撃機であったB17とB24の追加生産を必要としなくなった米国にとって、生産能力には十二分な余力があったことも確かなのである。
 上の表にある生産機数に各爆撃機の爆弾搭載能力を加味すると、投下爆弾量の日米差は絶対的なものとなるだろう。

 ちなみに、英国の爆撃機生産機数の合計は36608機である。
 しかも、そのうちの四発重爆撃機だけで、

ショート・スターリング
      2371
ハンドレページ・ハリファックス
      6176
アブロ・ランカスター
      7336

 合計で15883機である。
 この圧倒的な爆弾搭載能力を備えた一万五千を超える重爆撃機群が、ドイツ本土爆撃に用いられたのである。もちろん、それに加えて米軍の四発重爆撃機も、ドイツ本土爆撃作戦を遂行していたのであり、それを考えれば、ドイツ人の空襲体験はどれだけ過酷なものであったか。
 そのドイツの降伏は、アメリカに生産余力をもたらしたのである。

 その生産余力を支えた爆撃機工場労働者が、自宅では既に電化された近代的キッチンで料理をし、自家用車で通勤していた。米国の圧倒的国力、日本との国力差、かみしめておくべきであろう。

 

 

 

 

 

 

 

(オリジナルは、投稿日時 : 2016/10/25 17:18 → http://www.freeml.com/bl/316274/288048/

 

 

 

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