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2018年4月 1日 (日)

2018年4月1日:再び「フェイクニュース」の果てに

 

 

 

Grab 'em by the Venus, @GingerPower
 https://www.forbes.com/sites/davidalm/2017/01/27/masterpieces-re-imagined-to-humiliate-trump/#40ea6119362d

 

 

 

 ドナルド・トランプ大統領の治世二年目の4月1日である。本来なら「エープリルフール」ということで、ネタを考えなくちゃいけないんだが、私にはトランプを超える想像力がない。

 

 昨年(「2017年4月1日:「フェイクニュース」の果てに」)に引き続いて、今年もホントの話である。

 

 

 

 

  【AFP=時事】全米でセクシュアルハラスメント(性的嫌がらせ)問題の議論が行われる中、自身も性的不品行を繰り返し非難されてきたドナルド・トランプ(Donald Trump)大統領は30日、2018年4月を「全米性犯罪啓発予防月間(National Sexual Assault Awareness and Prevention Month)」にすると布告した。
  
  ホワイトハウス(White House)が発表したトランプ大統領の布告は「悲しいことにわが国の社会において性犯罪はいまだに横行しており、加害者が責任を免れることがあまりにも多すぎる」「こうした許しがたい犯罪は親密な関係のなかで、公共の場で、そして職場で見境なく行われている」としている。
  「しかし被害者が沈黙を守っているケースが多すぎる。加害者からの報復を恐れていたり、司法制度を信じられなかったり、トラウマになるような経験による痛みと向き合うことが難しかったりするのだろう」
  「わが政権は性犯罪を啓発し、被害者が加害者を特定し、責任を取らせることができるよう取り組んでいく」
  少なくとも20人の女性が、大統領になる前のトランプ氏から性的暴行またはセクハラを受けたとしてトランプ氏を非難している。ホワイトハウスはこうした女性たちはうそをついているとの立場を維持している。【翻訳編集】 AFPBB News
     (AFP=時事 2018/03/31 10:43)

 

 大統領が「全米性犯罪啓発予防月間(National Sexual Assault Awareness and Prevention Month)」と布告したのは3月30日だが、「全米性犯罪啓発予防月間」は本日、まさに「エープリルフール」であるはずの日がスタートである。

 「わが政権は性犯罪を啓発し、被害者が加害者を特定し、責任を取らせることができるよう取り組んでいく」って、これがセクハラ大統領トランプのセリフなのだ。大爆笑的ネタとしか思えない。

 

 昨年の関連報道を思い出してみよう。

 

  トランプ氏は女性蔑視発言でたびたび物議を醸し、過去に「女はやらせる。何だってできる。プッシー(女性器を指す俗語)をまさぐってな」と語っていたことも明らかになっている。
     (AFP=時事 2017/01/18 09:36)

 

 このエピソード、ちゃんと録音が残されているのだ。しかし、もちろん、ホワイトハウス的には、それでも「フェイクニュース」に過ぎないということになるのだろう。

 

 

 

 

 

(オリジナルは、投稿日時 :  2018/04/01 17:43 → https://www.freeml.com/bl/316274/318049/

 

 

 

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2017年11月26日 (日)

B-29 (米国の技術開発力)

 

 いわゆる「先の大戦」(大東亜戦争、第二次世界大戦、太平洋戦争、あるいはアジア太平洋戦争等、様々に呼ばれるが)を語るに際して、「日本は米国の物量に負けた」という言い方があるが、その点については既に「クライスラーの戦車」、「B-29 (物量としての米国の生産力)」、そして「フォードの爆撃機、あるいはロージーのリベレーター」と題した記事を通して、米国の隔絶した生産力の実際を紹介してきた。

 米国の自動車産業や航空機メーカーの広報用フィルムを通して見えたのは「詳細な設計の進行と同時に、戦車生産のために新たな工場を建設してしまう米国の自動車メーカーの底力」であり、「人種、経歴、性別、年齢、障害の有無を問わずに団結して生産に集中する米国の総力戦状況、そして近代的な生産ラインの詳細に加え、工場の福利厚生の充実ぶり」を誇る航空機メーカーの姿であり、「最終的には一時間に一機のペースでの製造には成功し、最盛期には月産650機を記録するところまで到達」させてしまうフォードシステムの大量生産方式による四発重爆撃機生産の実情であり、「様々な工程が既に女性労働者によって置換されていること」及び「(その前提となる)充実した職業訓練・教育」の様相であった。

 

 

 これらのフィルムが示すのは、「日本は米国の物量に負けた」との言明の正当性であろう。彼我の間にある生産能力の絶対的な隔絶は否定し得ない。

 先の言明に加え「日本は米国の物量と技術に負けた」との認識もまた、当時の実情を理解しさえすれば正当なものとして導かれるはずであるが、「日本は米国の物量には負けたが技術力では勝っていた」との言説を目にする機会も多い。しかし、これは「負け惜しみ」以外の何物でもなく、言説としての妥当性がないことは歴史の現実(いわゆる「近現代史の真実」ではなく「現実」が)が示している。

 

 これまでは「物量」に焦点を合わせ、対米戦争時における否定し難い日米間の国力の差を明らかにしてきたが、今回は日米間の隔絶した「技術力の差」を直視しておくこととしたい。

 

 今回もまた、あの「先の大戦(大東亜戦争)」における米国の圧倒的な軍事力の象徴とも位置付けられる四発重爆撃機、あの憎っくきB-29の姿を通して、問題が生産力の差=物量だけにあるのではなく、技術力の差=技術開発力の差にもあることを明らかにしてみたい。巨大な生産力が最先端技術を物量として供給し、圧倒的な戦力の差を生み出すことで、大日本帝國を敗戦に追い込んだのである。

 

 

 

 飯山幸伸氏は、その著書『B-29恐るべし』(光人社NF文庫 2011)中の一章を「B-29に用いられた諸革新的技術」と題し、B-29に盛り込まれた技術の革新的側面を明らかにするために割いている。

 高高度を高速で飛行可能にした技術として飯山氏は、まず新たな翼面設計(モデル177翼型)と大馬力エンジン(ライトR-3350デュプレックス・サイクロン)に加えて装備された排気タービン過給機(GE製のB-11過給機)の存在を挙げている。

 続けて「与圧キャビン」と「ノルデン爆撃照準器」、そして「遠隔操作銃塔」について書いている。与圧キャビンは搭乗員への負担のない高高度飛行を可能にし(B-17やB-24もタービン式過給機を装備することでスペック的には高高度性能を獲得していたが、与圧キャビンは未開発で、高高度での搭乗員への負担は大き過ぎた)、ノルデン照準器(こちらはB-17にもB-24にも装備されていた)が高高度からの精密爆撃を可能にし(可能にするはずであった)、迎撃用火力の「遠隔操作」化は与圧キャビンには必須の技術であると同時に防御力向上に資するシステムであった。

 

 ここからは特に「遠隔操作銃塔」(The Remote Control Turret System (RCT) あるいは Central Station Fire Control System)に焦点を当て、その「革新的技術」ぶりを明らかにしていきたい。

 

 

 

 まず紹介するのはシアトルのボーイング社にある(現在の)展示の映像だが、操作の実際がわかるはずだ。

 

 

B-29 gun turret sighting system at Boeing Seattle Part 1
 
https://www.youtube.com/watch?v=nskFayhBcy0

 

Gun turret sighting system for B-29 at Boeing, Seattle
(B-29 gun turret sighting system Boeing Seattle part II)
 
https://www.youtube.com/watch?v=5h4yBxydz0E

 

 

 照準器の操作に動力銃塔が連動し、銃弾が発射されるメカニズムの実際である。

 

 

 次は当時の軍のB-29搭乗員用トレーニングフィルムからの短い抜粋(註:1)だが、ここでは機銃手の搭乗位置と遠隔操作される銃塔の関係を押えておきたい(一人の銃手による複数の銃塔の同時操作―いわば一人の銃手による集中砲火―が可能になっているのだ)。

 

 

The B-29 Superfortress Gun Turrets
 
https://www.youtube.com/watch?v=gy9uCtgcL3A

 

 

 次に続くのは装置を開発したGE(ジェネラルエレクトリック―日本語での公式表記は「ゼネラル・エレクトリック」であるらしい)作成の広報用フィルムで、アニメーションを多用した解説が興味深い(しかもカラーである)。

 

 

Central Station Fire Control System - ca. 1944
 
https://www.youtube.com/watch?v=yABTembGYhg

 

 

 (組み込まれているのは真空管であるが)当時の最先端の電子装置システム(Central Station Fire Control System)により、銃塔がリモートコントロール(遠隔操作)されるメカニズムがカラーアニメを用いて説明されている。GEという民間企業が自身の技術力のアピールのためにカラーアニメを製作してしまうのである(それだけで彼我の国力の差は明らかである)。

 

 

 しかし、B-29に装備された「遠隔操作銃塔」に盛り込まれた革新的技術の核心は、このリモコンシステムにあるわけではない。実はこのシステムにはコンピューターが組み込まれ、単に搭載機銃を動力により間接操作する(もちろんそれだけでも重い機銃と銃塔を風圧に抗して手動で操作する労力からの機銃手の解放を意味する)のみならず、弾道の補正が自動化されることで命中精度の向上もが実現されているのである(註:2)。

 

 

 高速で飛行する爆撃機に装備された機銃により、高速で飛行し攻撃してくる敵戦闘機を迎撃することがどれだけ困難であることか想像し得ているだろうか?

 ここではB-17の側面機銃手のトリガー・ジョーを主人公(声優はメル・ブランク)としたアニメ仕立ての米軍のトレーニングフィルムを通して問題の所在を確認しておこう。

 

 

B-17 Waist Gunner Mel Blanc: "Position Firing" 1944 USAAF Training Film; WWII Aerial Gunnery Cartoon
 
https://www.youtube.com/watch?v=DqoUdd9Ge4E

 

 

 アニメ中でジョーが求められるのは、頭の中で銃弾の到達位置をシミュレーションし、機銃を適切に操作する能力である。機銃手は一瞬にして爆撃機の速度、高度を把握し、敵戦闘機の速度を把握し、距離を把握し、進行方向を把握し、照準外の(照準内に捉えた敵戦闘機からは離れた)適切な位置に機銃を向け発射しなければならない(しかも高高度を高速で飛行するB-17での話であり、側面機銃の操作は酸素の薄いマイナス20~30度の機内で大きな風圧に抗して行わなくてはならず、それだけでも機銃手の負担は大きいのに→註:3)。

 当時の記録フィルムの中の機銃手の映像から、あるいは『頭上の敵機』や『メンフィス・ベル』のような映画を観る際にも、このような機銃手に求められているスキルを意識することはなかっただろう。

 B-29に搭載された遠隔操作銃塔に組み込まれたコンピューターシステムは、敵戦闘機に照準を合わせさえすれば照準外に位置する適切な掃射方向を割り出し、機銃手の負担を軽減する。ただし、敵戦闘機との距離は自身で確認し入力(ボーイング社でのデモンストレーション動画でも説明されているように)する必要は残されているが、機銃手は敵戦闘機に照準を合わせるだけで弾道の補正はGE製の「Central Station Fire Control System」に任せれば済む(しかも離れた位置にある複数の銃塔の弾道補正計算と射撃を、一人の銃手が担当するひとつの照準システムの操作で可能にしているのだ)。

 

 

 あらためて、文林堂の「世界の傑作機シリーズ」の『ボーイングB-29』(1995)にある牧英雄氏の論考「ボーイングB-29スーパーフォートレス 開発と各型」から「武装」の項の記述を引用しておこう。

 

    照準器は銃本体と分離した与圧室内にあり、見越し角計算などすべてコンピューターが管制するので、銃手は照準器に目標を捉え距離の変化を追う操作をするだけで、自動的に射線を算出する。むろん、尾翼などが射角に入れば、自動的に射撃は中止される。また操作はいずれも正副2系統用意されスイッチで切り替わるほか、一方の射手が離れた場合自動的に複数を管制するようになる。床下にある装甲付きブラックボックスに不都合が生じた場合は、マニュアル操作も可能である。
  これらの火器のすべてを管制するのが後部与圧室の回転椅子に位置するCFC手で、このほか通常の担当は前上方=爆撃手/CFC手、前下方=爆撃手/側方銃手、後上方=CFC手/側方銃手、後下方=側方銃手、尾部=尾部銃手/側方銃手 となる。
     (16~17ページ)

 

 この牧氏の論考には、B-29に搭載された「Central Station Fire Control System」について、もう一つの興味深い記述がある。試作型のXB-29に搭載されていたのはGE製ではなかったのである。

 

    このため(徹底的な空気抵抗の軽減のため―引用者)突起した銃塔は敬遠されたが、防御上の必要から装備せざるを得ず、ベンディックス、スペリー、ウェスチングハウス、ジェネラル・エレクトリック(GE)の各社が競った結果、ペリスコープ式照準器のスペリー製が採用された。
     (13ページ)

 

 XB-29に搭載されていたスペリー製のペリスコープ式照準器は結果的にジェネラル・エレクトリックのシステムに変更されることになったわけだが、その選定に際して大きな役割を演じたのがポール・ティベッツ(Paul Warfield Tibbets, Jr)とそのチームであった。あのエノラ・ゲイの機長であったティベッツである(註:4)。

 

 ティベッツは1942年2月にはB-17の部隊長(340爆撃飛行隊)としてヨーロッパで部隊を率い、25回の出撃回数を達成。1943年3月に米国本土でのB-29(初飛行は1942年9月だったが試作2号機の墜落など様々なトラブルに直面していた)の戦闘能力評価任務に就く。実戦配備へ向けてのその任務の中には武装の評価も含まれており、スペリー製のペリスコープ式照準器システム(こちらにも自動弾道補正コンピューターが組み込まれていた)とGE製システムの比較評価も行われた。その際に、射撃テスト等を行ったのは、やはり後に共にティベッツの率いる第509混成部隊(原爆投下の実施部隊)に所属することとなったジョージ・キャロン(George Robert Caron 原爆投下の際のエノラ・ゲイの尾部銃手も務めている。キャロンは投下直後の原爆の「キノコ雲」の撮影者でもある)とケネス・イードネス(Kenneth L. Eidnes)であった。両者は軍の動力銃塔操作学校(Power Operated Gun Turret School)の同期で、1943年9月に卒業し、1943年10月にB-29の武器試験担当者として配属されている(註:5)。

 彼らのスペリー製システムに対する評価は低く、GE製が採用されることになる(The GE system proved to be very good)。問題となったのはスペリーが採用したペリスコープ方式(GEは反射型光像式を採用)で、視野が限定され操作も煩雑となる潜望鏡(ペリスコープ)方式が、重爆撃機の防御武装として実際的ではないと判断されたのである(註:6)。

 

 

 ちなみに、スペリー製システムはB-29のバックアップ機として開発されたコンソリーデッド社のXB-32爆撃機にも搭載されていた。XB-32に搭載されたスペリー製システムに関する論考に掲載された解説図を引いておく。照準器の形式を除けば、GE製のシステムと同様の原理に基づいたものであり、米軍が必要と考えた(そして実際に装備した)「遠隔操作銃塔」を理解する上での参考になるはずだ。

 

 

The geometry of air-to-air gunfire control problem
 
https://m.eet.com/media/1175647/fig8.jpg
 https://www.edn.com/Home/PrintView?contentItemId=4402983

 

 ジョーの直面させられた問題がいかなるものであったかへの理解を深めらる(アニメ上のジョーの標的は静止状態想定であるのに対し、、現実の敵戦闘機は高速で運動する)と共に、「先の大戦」の時代に米国が実際に開発し配備した「遠隔操作銃塔」のシステム(Central Station Fire Control System)の技術的卓越性も再確認し得るであろう。

 

 この装置を組み込んだ四発重爆撃機B-29の生産機数は3970機に及ぶ(生産機数が3970なのは、その時点で戦争が終結してしまったからである―生産能力の限界を意味するわけではない)。我が大日本帝國の爆撃機の生産機数で最大を記録しているのは海軍の一式陸上攻撃機だが、双発に過ぎない爆撃機の生産機数は2416機にとどまる(生産期間も一式陸攻の方が長いにもかかわらず)。もちろん、与圧キャビンもなければ、「Central Station Fire Control System」もない(しかも一式陸攻の爆弾搭載量はB-29の十分の一でしかない―B-29の一機は十機の一式陸攻に相当する)。物量、技術、そのどちらを見ても彼我の国力の絶対的隔絶は明らかであろう。

 それでも「日本は米国の物量には負けたが技術力では勝っていた」などと主張し得ると考えるのであろうか?

 

 

 

【註:1】
 全編は、B-29 Flight Procedure and Combat Crew Functioning 1944 US Army Air Forces
 → https://www.youtube.com/watch?v=RsOUXqSh2xs

【註:2】
 Central Station Fire Control AND THE B-29 REMOTE CONTROL TURRET SYSTEM
 (→ http://www.twinbeech.com/CFCsystem.htm
 The Cannons on the B-29 Bomber Were a Mid-Century Engineering Masterpiece
 (→ http://www.popularmechanics.com/military/weapons/a18343/the-cannons-on-the-b-29-bomber-were-a-mid-century-engineering-masterpiece/
 Engineering the B-29's Armament
 (→ http://legendsintheirowntime.com/LiTOT/Content/1945/B29_IA_4503_armament.html

【註:3】
 アニメのジョーも軽装で身軽だが、高高度では機銃を操作する前に死んでしまう(与圧キャビンの装備されていないB-17の場合、搭乗員は外気にさらされた状態同様―特に側面機銃手は―なのである)。

  機体を敵戦闘機の攻撃から守るため、銃手が機関銃を撃ちまくるシーンは劇映画『メンフィス・ベル』などでお馴染みだろうが、映画だと一般に軽装なのが気になる。この撮影用ポーズをとった写真にしても、実戦では考えられない軽装だ。まず、高度6,000~7,000mというところを飛ぶのだから、酸素マスクは必ずしなければならない。それに真夏でもそういう高度では零下20~30℃なのだから、暖房があるにしても側面窓を空けて射撃するには手袋も必需品。高射砲に直撃されたらどうしようもないが、負傷の多くは爆発による破片が原因だから、それらを防ぐフラックヘルメットやフラックベストもつけたいところだ。
     側面機銃手の写真へのキャプション(『ボーイングB-17フライングフォートレス』 文林堂 2007 105ページ)
 

 ジョーの搭乗しているのはB-17のG型であるが、後には側面機銃用にも照準の補正計算機能を持つK-13サイトが採用され(同書47ページ、115ページ)、「後部側面銃座の位置を左右でずらして銃手が動きやすいようにするとともに、それまで戦闘時には開け放して(ママ)部分に、中央に機関銃のソケットを設けたガラス窓をはめ込み、銃手を寒気から守る改造も途中から採用された(同書117ページ)」と仕様が変更されている。ジョーの負担も軽減されたことになる。

 与圧キャビンの装備された機密性の高いB-29の場合、酸素マスクは必要ないし、寒さに凍えることもない。牧英雄氏の論考の「与圧室」の項には以下のようにある。

  3分割で尾部は直径6in(152㎜)のパイプで後部与圧室と結合。通常8,000ft(2,400m)で与圧開始。空気圧は8,000~30,000ft(9,145m)まで8,000ftの30,000ft以上は30,000ft時の圧力差を維持する。コンプレッサーで圧縮された空気は、内側エンジンのターボ過給機を通ることにより冷暖房を調整でき、機関士の操作で送管装置を通じ与圧各室に送られる。このため乗員は高度30,000ftでも特別装備なしに行動可能。
     (15ページ)

 (「遠隔操作銃塔」は、気密性の維持の必要を満たすためのシステムでもあった)

【註:4】
 Tibbets, Paul Warfield, Jr.
 (→ http://www.nationalaviation.org/our-enshrinees/tibbets-paul-warfield-jr/

【註:5】
 KENNETH L. EIDNES AND THE 509TH COMPOSITE
 (→  http://b-29.org/509th/509th-history/509th-history.html
 George R. Caron
 (→ https://www.findagrave.com/memorial/467015

【註:6】
 Design hindsight from the tail-gunner position of a WWII bomber, Part one
 (→ https://www.edn.com/Home/PrintView?contentItemId=4402983

 

 

 

 

 

(オリジナルは、投稿日時 : 2017/11/25 21:54 → https://www.freeml.com/bl/316274/314468/

 

 

 

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2017年10月15日 (日)

総統閣下vsオペラ対訳プロジェクト、そしてパーキンソン病

 

 いわゆる「総統閣下シリーズ」の最新作ということになる(2017/10/12 に公開)だろうか? 映画『ヒトラー ~最期の12日間~』(2004)のドイツ語のセリフに原語と異なる字幕をつけて楽しむお遊びだが、英語圏の「YOUTUBE」で様々な英語字幕バージョンが作成され、日本語圏でも「ニコニコ動画」に様々な日本語字幕バージョンがアップされている。

 今回の「総統閣下は「オペラ対訳プロジェクト」にお怒りのようです」は、私も利用させてもらうことのある「オペラ対訳プロジェクト」による日本語字幕で、時事ネタ込みの(「総統閣下シリーズ」モノの中でも)秀逸なパロディー作品として仕上がっているように思う。

 せっかくの秀逸作を忘れてしまわないように、ブログ記事としてアップして何時でもアクセス可能にしておく作戦を採用した次第である。

 

 

 

総統閣下は「オペラ対訳プロジェクト」にお怒りのようです
 
https://www.youtube.com/watch?v=fnW1TpHZeyo

 

 

 「オペラ対訳プロジェクト」は、オペラ作品を中心とした(オペラだけではなく、バッハの『マタイ受難曲』なども含む)過去の名盤の録音に日本語対訳をつけてアップするという、手元に輸入盤しかない際にとても役立つプロジェクトで、私もチャンネル登録してしまっていたりするのだが、その「中の人」が実はこの手のお遊びにも手を抜かないことを知って、ますます同志的気分を味わったりしているのである。

 

 中身そのものを解説したりするのは野暮な話だと思うので、ここで触れることはしない。

 

 

 ただ、せっかくの機会なので、そもそもヒトラーの実像を描くことを目指した映画作品であった『ヒトラー ~最期の12日間~』にちなみ、小長谷正明『ヒトラーの震え 毛沢東の摺り足 神経内科からみた20世紀』(中公新書 1999)から、神経内科的背景を抜き書きしておきたい。

 

 

  筆者は神経内科医である。脳や脊髄、末梢神経、筋肉などのはたらきの異常を診るのが専門だ。精神科ではない。シビレなどの感覚障害、ふるえやマヒなどが主な症状だ。だから、目にする人の立ち居ふるまいや、表情、声の調子などが気になる。そして、二〇世紀は科学技術の世紀であり、映像の世紀でもある。会えるはずのない、海の向こうや歴史の彼方の政治家、それに雲の上の人の歩き方や動作をテレビで見ることができ、ついプロ意識で病気かどうかを診断することがある。いわば神経内科医の本能で、ヒトラーのふるえや毛沢東のすり足もブラウン管を通して視診した。そこで、二〇世紀のリーダーたちの神経疾患を調べてみて、歴史に投げかけた影を考えてみた。
          同書「まえがき」より

 

 これが同書における小長谷氏の問題意識・基本姿勢である。小長谷氏は、同じく「まえがき」の中で、

 

  もちろん、筆者はこの書物の中の独裁者やリーダーたちの主治医でもないし、カルテなどの第一次資料などをみることも出来ないので、文献にたよらざるをえない。病気の解釈については、単なるうわさやしろうと判断の推測は、書きすすめる上でなるべく排除するようにした。症状の目撃談などはべつとして、基本的にはきちんとした学術雑誌に載った医学論文、あるいは主治医ないしはその場にいた医師の回想録により、医学的客観性をたもつように心がけた。

 

このように書いているが、実際に読み進めてみると、原則としてその姿勢に貫かれていることも確認出来る。

 

 

 映画の『ヒトラー ~最期の12日間~』の方は、同名(邦訳タイトルは原題とは異なるようだが)のヨアヒム・フェストの著作とヒトラーの個人秘書であったトラウドゥル・ユンゲによる回想録を基にドラマ化したものだが、時系列的には、どちらも小長谷氏の著作より遅れての出版物であり映像作品である。出版物はドキュメントであり、映画はドキュメント作品に基くドラマである。

 時系列上、どちらも小長谷氏が依拠するわけにはいかなかったが、

  二〇世紀は科学技術の世紀であり、映像の世紀でもある。会えるはずのない、海の向こうや歴史の彼方の政治家、それに雲の上の人の歩き方や動作をテレビで見ることができ、ついプロ意識で病気かどうかを診断することがある。いわば神経内科医の本能で、ヒトラーのふるえや毛沢東のすり足もブラウン管を通して視診した。

 

20世紀ならではのドキュメント映像が、「視診」を可能にし、加えて「学術雑誌に載った医学論文、あるいは主治医ないしはその場にいた医師の回想録」等のドキュメントが、小長谷氏の判断を支えているのである。

 

 

 テレビでドキュメンタリー番組(番組中では第二次大戦末期のドイツのニュース映画が紹介されていた)を見ていた小長谷氏は、「厚く重苦しい外套を着たアドルフ・ヒトラーが硬い表情で肩を丸め、ぎこちない動作で足をはこん」でいる姿を前にする。

 

  が、次の瞬間、筆者の目は画面に釘づけになった。ヒトラーの左手がふるえているのである。神経内科医のプロ意識がわきあがってきた。診察する目で観察した。そのふるえは、見なれたパターンである。パーキンソン病のそれであった。
     同書「震える総統――ヒトラー」より

 

 もちろん、小長谷氏は、映像を通した自身の視診に加え、「学術雑誌に載った医学論文、あるいは主治医ないしはその場にいた医師の回想録」等に目を通すことを怠らない。

 

  調べてみると、ヒトラーの病気についてのいくつかの医学論文と学術的な単行本がドイツから出版されていた。エレン・ギッベルスという女性の神経学者は一五年間にわたって『ドイツ週刊ニュース』という映画に映っているヒトラーの動作を検討し、医学的考察を行っている。
  それによると、ごくわずかながらも動作が鈍くなったのは一九四一年であり、左手の症状も出てきている。四三年からは、自動車から降りたり、腰をおろしたりするような動作シーンがニュース映画からなくなっている。左手はいつもからだの後ろに回したり、ポケットに入れたりして映らなくなった。
  表情の動きは四四年から少なくなり、顔つきは陰気になっている。笑っているときでも、顔の動きが少なく、「凍り付いた」笑いとなっていた。また、このころから左足を引きずって歩くようになっている。
  ギッベルスは、ニュース映画の中のヒトラーの左右の手の動きやぎこちなさ、表情、歩行、姿勢などの症状の程度によって、〇点から四点までの点数をつけて定量的な分析をしている。パーキンソン病の症状は一九四一年の中ごろにはあらわれており、左側から発症し、やがて右側にも症状が出現した。四五年の戦争末期にはホーン=ヤールの重症度分類二度くらいの障害度だったという。

 

 

  ある秘書はヒトラーのふるえについて書いている。
「日報に目を通すときには、ヒトラーはいつも左手で眼鏡を握っていましたが、その手がふるえるたびに眼鏡が机の表面に当って、カタカタと音をたてていました。唇は干からび、パンくずで覆われ、衣服はたべもので汚れていました」

 

 

  ある記録によると、四二年の東部戦線の大本営地下壕では、イスから立ち上がるにも人の手を借り、支えられて歩いていた。声はぼそぼそとして聞きとりにくく、口もとからよだれを垂らしていたとある。これは二度のパーキンソンではない。少なくとも三度の障害度である。

 

 

  ヒトラーに長いあいだ仕えた参謀将校によると、最後のころの様子は次のようなものだ。
「総統はみるからに恐ろしげな様子であり、苦しそうに、ぎこちなく足を引きずって歩きまわっていた。地下壕の自分の居間から会議室へ行くときには、上半身を前方に投げ出すようにして、足を引きずって歩いていた。バランス感覚はなくなり、ごく短い距離(たかだか二〇~三〇メートル)を歩く途中で、立ち止まらなければならないときは、壁の両側に置かれた総統専用のベンチに腰を下したり、話し相手にしがみついたりした。目は充血していたし、提出された書類はみな特製の『総統専用タイプライター』で普通サイズより三倍も大きな字で打ってあったが、それでも拡大鏡を使ってやっと読めるようだった。しょっちゅう、口の両端からよだれが垂れていた」
  目のことは別として、総統とか地下壕という言葉がなければ、そのまま教科書に載せてもよいような、中等度以上に進んだパーキンソン病の典型的な症例報告である。

 

 

  一九四三年二月、スターリングラードの第六軍が赤軍に降伏した直後、ヒトラーはソ連前面の東部戦線、マンシュタイン元帥の司令部を訪れた。そこにいた元帥の伝令将校シュタールベルクの、昼の作戦会議でのヒトラーの印象はさえないものだった。総統の頭は肩から前に垂れ、制服は食べ物かすで汚れ、無表情のままで地図をみていた。くたびれはてていた。そして顎がふるえつづけていた。夕方の会議になると、それが激変していた。
「……そのわたしの目に、ヒトラーが会議室に入ってきたとき、まったく予期せぬものが映った。今日の昼や昨日とはうって変わった別人のヒトラーが部屋に入ってきたのである。姿勢のたるんだ落ちぶれたような男は、突如として、背筋をのばし、ヴァイタリティのあるひきしまった姿になっていた。……ヒトラーが朝遅くまで寝ているのを好み、夜明け方近くになってから就寝するということは、われわれも知っていた。しかし、これほどまでの体調の変化が、生活リズム上の原因のみで生じるとは思われなかった。なんらかの薬物の効果があったにちがいない」

 

 

 小長谷氏によれば、「ヒトラーは主治医から七七種類もの薬を処方されていた」ということであり、特にシュタールベルクの「薬物の効果」については、

 

  ヒトラーの飲んでいた覚醒剤はメタンフェタミンである。これはヒロポン、つまりアンフェタミンと同じく、ドパミンによく似た化学構造をしている。もともとこれらの覚醒剤は脳の中ではつくられていないが、外から入ると、ドパミンが作用する細胞に、似たような効果をあらわす。またコカインは、化学構造式は似ていないが脳のかなのドパミン量を増やしたり、効果を強める作用がある。
  ドパミンは運動をスムースにするだけではなく、精神活動を活発にする神経伝達物質である。だから、覚醒剤やコカインは、脳の中のドパミン作動系というシステムにはたらいて、気分を高めているのだ。ドパミン不足のパーキンソン病は、精神的には抑うつ状態である。きっとヒトラーは、負け戦でなくともブルーな気分であっただろう。今日の治療では、ふるえやトボトボ歩きへの効果ほどではないにしても、Lドパでうつ症状も多少はよくなっていく。
  パーキンソン病の患者にコカインや覚醒剤を投与したらどうなるかという論文を読んだことはないが、薬理作用からみて、鈍い動作やふるえなどの症状が改善されるのはまちがいない。こう考えると、ヒトラーの覚醒剤・コカイン常用はパーキンソン病と関係していたとも推定できる。覚醒剤やコカインなどの処方は、病気や薬理作用などをふまえてのことではなく、ヒトラーが経験的に自分に必要なのを知っていて要求したのかもしれない。
  東部戦線の司令部で目撃された、ヒトラーの症状のドラマティックな変わりようも、その間にモレルたち主治医が到着していたことを考え合わせると、覚醒剤などが使われたと推定できる。
  もう一つ、ヒトラーへの処方でパーキンソン病と関係がありそうなのは、アンチガスという薬だ。これの主成分は、アセチルコリンの作用を抑えるアトロピンである。アセチルコリンは胃腸のはたらきを活発にしたり、汗を分泌させるはたらきがある。ヒトラーはよくおならをしていて、またひどい汗かきでいつも臭かったという。彼の前では、悪臭の話題を持ち出してはいけないことになっていた。アセチルコリンのシステムがはたらき過ぎているので、それを抑えるためにアトロピンを飲んでいた。
  アトロピンは目にも作用して、瞳孔を広げる。戦争末期のヒトラーが、異様に輝く目をしているのは、アンチガスの成分のアトロピンのためだという。

 

このように記されている。

 小長谷氏によれば、パーキンソン病患者は、ドパミンが不足する一方で、アセチルコリン過剰な状態となる。ドパミン不足に対応するのが覚醒剤やコカインであり、アセチルコリンの過剰に対応するのがアトロピンを主成分とするアンチガス投与ということらしい。

 

 

 いずれにせよ、「総統閣下シリーズ」の総統の姿、その下敷きとなった『ヒトラー ~最期の12日間~』の中でのブルーノ・ガンツ演じるヒトラーの姿に、この小長谷氏の描く神経内科的ヒトラー像を重ねると、よりリアルに映像を(どちらの映像をも)味わうことが出来るようになるはずだ。

 

 

 

  日報に目を通すときには、ヒトラーはいつも左手で眼鏡を握っていましたが、その手がふるえるたびに眼鏡が机の表面に当って、カタカタと音をたてていました。唇は干からび、パンくずで覆われ、衣服はたべもので汚れていました。

 

  イスから立ち上がるにも人の手を借り、支えられて歩いていた。声はぼそぼそとして聞きとりにくく、口もとからよだれを垂らしていた

 

  総統はみるからに恐ろしげな様子であり、苦しそうに、ぎこちなく足を引きずって歩きまわっていた。地下壕の自分の居間から会議室へ行くときには、上半身を前方に投げ出すようにして、足を引きずって歩いていた。バランス感覚はなくなり、ごく短い距離(たかだか二〇~三〇メートル)を歩く途中で、立ち止まらなければならないときは、壁の両側に置かれた総統専用のベンチに腰を下したり、話し相手にしがみついたりした。目は充血していたし、提出された書類はみな特製の『総統専用タイプライター』で普通サイズより三倍も大きな字で打ってあったが、それでも拡大鏡を使ってやっと読めるようだった。しょっちゅう、口の両端からよだれが垂れていた

 

  昼の作戦会議でのヒトラーの印象はさえないものだった。総統の頭は肩から前に垂れ、制服は食べ物かすで汚れ、無表情のままで地図をみていた。くたびれはてていた。そして顎がふるえつづけていた。

 

  ヒトラーはよくおならをしていて、またひどい汗かきでいつも臭かったという。彼の前では、悪臭の話題を持ち出してはいけないことになっていた。

 

 

 

 これが、あの独裁者の現実の姿と考えるとどこか滑稽な印象も抱いてしまうが、しかしヒトラーのエピソードの背後に見えるのはパーキンソン病患者の日常である。自分の身体が自分の思い通りにならないというのは、誰にとっても辛い話である。

 

 

 

 

 

 最後にオマケ的に、かつて英語圏で作成された「総統閣下シリーズ」作品を紹介しておこう。

 私が初めて接した作品(2008/12/29 に公開)であると同時に、その秀逸さに感心させられた作品でもある。

 

 

 

Adolf Hitler - Vista Problems!
 
https://www.youtube.com/watch?v=JSF39LmpxCY 

 

 

 

 当時、私も総統同様に「Vista Problems」に悩まされていたことを、久しぶりに思い出した。

 

 

 

 

 

(オリジナルは、投稿日時 :  2017/10/15 07:57 → http://www.freeml.com/bl/316274/312781/

 

 

 

 

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2017年4月15日 (土)

トランプ、スターリン、プーチン、ブレジネフ、そして聖マティスの肖像

 

 前回は、「ロシア構成主義的ドナルド・トランプ・イメージ」と題して、数あるドナルド・トランプ大統領ネタ画像の中でもソヴィエト・ロシアのプロパガンダ・アート・パロディとして秀逸だと思われるものを紹介した。

 特に、「ロシア構成主義」として知られる、当時の最先端スタイルによる作品(のパロディ)を取り上げたが、それはまさにソヴィエト・ロシアのプロパガンダ・アートが芸術(美術)の前衛であった時代のポスター・デザインである。「革命」は政治の問題であるだけでなく、芸術もまた「革命」を経験していたのだ。

 しかし、そんな時代は長続きすることなく、「社会主義リアリズム」と呼ばれる表現形式が政治的に推奨され、芸術は政治の従属物に成り下がり、芸術上の革命の時代は終焉を迎える。

 

 

 しかし、古典的な表現形式で描かれたスターリンの肖像に代表される「社会主義リアリズム」の絵画もまた、パロディ作家にとっては良い素材となり、例えばスターリンの肖像がトランプの肖像として蘇るのを楽しむことが出来る。

 

 

 

alternative facts - pravda comrade !
  
https://1.bp.blogspot.com/-eDDGOX_e3xY/WLh7kMc0ctI/AAAAAAABLkk/eWeOIWPOLP8D3UEUj-87yJjyalSj7JLGQCLcB/s1600/Trump-Alternative-Facts-Pravda-Comrade.jpg

 

 

 このパロディー作品の下敷きとなっているスターリンの肖像でも、執務机に重ねられた郵便物の下に描かれているのが御用新聞の『プラウダ』であることに気付くであろうが、パロディー作品ではその『プラウダ』の存在が生かされ、笑いの源泉へと転化している。

 

 

   stalin with pravda
   
https://zibbet.s3.amazonaws.com/uploads/photo/file/8734527/gallery_hero_il_fullxfull.409219358_ofmi.jpg

 

 

 「プラウダ」はロシア語で「真実」を意味するが、御用新聞としての『プラウダ』の紙面は「真実」の報道とは遠いものとなっていた。

 その事実が、自身に都合の悪い報道を全て「fake news(嘘ニュース)」と呼び、自身の主張の誤りが明らかとなっても「alternative fact(代替的事実)」と言い張る、ドナルド・トランプ自身とその取り巻きの姿に見事に重なるのである。

 トランプが求めるのは『ニューヨークタイムス』の報道スタイルでもなければ『CNN』の報道でもなく、まさに『プラウダ』の報道スタイルに違いない、と多くの者は考えるであろうところに、このパロディー作品が成立するわけだ。

 

 

 実際、そんなトランプ政権による合衆国の政治は、内政でも外政でも混乱続きである。いまだに特筆すべき成果は見られない。

 

 

 トランプとその取り巻きによる政権運営に混乱の続く中、政権内で内外からの信頼を獲得しているのは、国防長官に就任したジェームス・ノーマン・マティス元海兵隊大将その人であろう。

 

 早速、20世紀の美術をはるかに遡る16世紀の祭壇画を思わせる様式で描かれた、マティス国防長官の肖像画を鑑賞することとしよう。

 

 

saint mattis of quantico
  
http://www.catholic.org/files/images/media/14806999051961_700.jpg

 

 

 右手に手榴弾、左手にナイフを持つ元海兵隊司令官の頭の背後には、金色に輝く中に「M A D D O G」の文字が刻まれている。

 「クアンティコの聖マティス」とされていることが興味を引くかも知れないが、「クアンティコ」は海兵隊基地の存在で知られている土地である。そして、更に画面を見ることで「クアンティコの聖マティス」が「カオス(大混乱)」の「守護聖人」であることにも気付くであろう。マティス国防長官は(少なくとも今のところ)、大混乱の続くトランプ政権内で、平静を保ち続けている数少ない人物の一人(もう一人であろうマクマスター安全保障担当補佐官もまた軍出身者であるが)であると、多くの人に思われているはずだ。まさに大混乱を続ける政権の守護聖人の役割である。

 

 

 

 

 続くのは、画像検索の際に見つけた(2024年のものとされる)プーチンの肖像画である。下敷きとなっているのは、長く政権に居座り続け、ソ連を停滞に導いたブレジネフの肖像である。

 大量の勲章で飾り立てた軍服に身を包んだ傲慢そうな老人。スターリンの肖像以来の重厚なスタイルで描かれた、まさにブレジネフとしてのプーチンだ。

 

 

putin-brezhnev-2024
  
http://www.irishmanabroad.com/wp-content/uploads/2011/10/Putin-Brezhnev.jpg

 

 

 

 最後は、ソヴィエト・ロシアの様式で描かれたトランプ及びプーチンの姿から一転して、米国を代表するプロパガンダ・デザインのパロディとして描かれたプーチンの姿である。

 

 

 

i want ukraine
  
https://s-media-cache-ak0.pinimg.com/736x/6f/16/ec/6f16ec0e0e3417cc9ab0d81ed3170adf.jpg

 

 

 

 プーチンには、アンクルサムの衣装もよく似合うのであった。

 

 

 

 

 

(オリジナルは、投稿日時 : 2017/04/15 19:20 → http://www.freeml.com/bl/316274/302483/

 

 

 

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ロシア構成主義的ドナルド・トランプ・イメージ

 

 今回は、いわば「「偉大な指導者」としてのドナルド・トランプ・イメージ」の続きとなる、ネタの源泉としてのドナルド・トランプ大統領をめぐる記事である。

 

 

 

 紹介するのは「soviet propaganda poster trump」とか「russian constructivism trump」といった検索語での画像探索時の発見物だが、ソ連時代のプロパガンダ・ポスターのパロディとして実にに秀逸なものだと感じた。

 

 


Photo Illustration by Cristiana Couceiro.
  
http://media.vanityfair.com/photos/58d974523753ee611fd2475e/master/h_606,c_limit/russian-fake-news-04-17.jpg

 

 

 いわゆる「ロシア構成主義」デザインの典型的構図である。バックには赤地に白が斜め右上に向けて下方から放射状に広がり、中心に大統領トランプとその主席戦略官バノン、その下にロシアのプーチンとその顧問格のスルコフ、そしてホワイトハウスの写真がコラージュされ、加えてメディア記事の文字による画面構成となっている。

 下敷きとなったのが、以下の作品に代表されるロシア構成主義の構図である。

 

 

 Left: Gustav Klutsis – Workers, Everyone must vote in the Election of Soviets! Image via arthistoryarchive.com / Right: Russian Propaganda Poster.Image via posterwire.com
   
http://d2jv9003bew7ag.cloudfront.net/uploads/Left-Gustav-Klutsis-Workers-Everyone-must-vote-in-the-Election-of-Soviets-Image-via-arthistoryarchive.com-Right-Russian-Propaganda-Poster.Image-via-posterwire.com_.jpg

 

 配色、斜めが強調された躍動的な構成、写真によるコラージュ、デザインの一部となった文字。

 左画面にあるグスタフ・クルーツィスの手の平による構成は、パロディ作品ではバノンが掲げる右の手の平の並びとして再現されている。

 パロディ作品に登場するキャラクターの中で、あまり有名ではないであろうプーチン大統領の補佐官ウラジスラフ・ソルコフの画像も参考として添えておこう。

 

 
 Vladislav Surkov - Wikipedia
   
https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/0/03/Vladislav_Surkov_7_May_2013.jpeg/220px-Vladislav_Surkov_7_May_2013.jpeg

 

 

 偉大なドナルド・トランプ大統領と上級顧問のバノンの関係が、画面中央でバスト・ショットで大きく示されるトランプと右下方に小さくはあるが上半身像+掲げる右手が三連化されることで存在感が強調されるバノンの姿として示され、ホワイトハウスの上のプーチンとソルコフの関係に反復されてイメージに刻み込まれる。(少なくともシリア攻撃までは維持された)ロシアとトランプの親密な関係が画面構成の中でも暗示され、それがロシア構成主義デザインのパロディとして示されることで、より強化される。実に秀逸なものだと感心した次第。

 

 

 

 続いて…

 


Trump Poster No. 1: Hate Speech
  
http://68.media.tumblr.com/53bb2c46d456e45aa8d29ac5d6da0c31/tumblr_o5h1h3IVhM1v1fk2co1_1280.jpg

 

 

 このパロディ・デザインから連想させられるのは、ロシア構成主義を代表するアレクサンドル・ロトチェンコのポスターであろう。

 

 
 Alexandr Rodchenko, Poster for a Moscow publisher (1924)
   
http://www.brandandbrand.co.uk/blog/wp-content/uploads/2014/12/constructivist.jpg

 

 ただしこのパロディでは、ロトチェンコの有名な構図を下敷きとしながらも、ソ連時代のスターリニズム的全体主義に重ねて、もう一つの全体主義であるナチス体制の標語と画像を用いることで、トランプの強権的志向への批判が強化されている。

 「HATE!」と叫ぶトランプに重ねられているのはナチスの反ユダヤ主義が煽った民族主義的な「憎悪」であるし、ナチスの有名なスローガンであった「一つの民族、一つの国家、一人の総統(Ein Volk, Ein Reich, Ein Führer)」もほとんどそのまま用いられている(ONE PEOPLE/ONE EMPIRE/ONE LEADER!)。

 

 
 Plakat: "Ein Volk, Ein Reich, Ein Führer.
  
https://s-media-cache-ak0.pinimg.com/564x/0c/24/10/0c241093d8ecf8bb026a449b2b63ff6e.jpg

 

 
 hitlerjugend
  
http://visit-heidelberg.org/wp-content/uploads/imgp/hitlerjugend-frisur-3-8231.jpg

 

 右半分の画面のナチス的スローガンの背景には、ソ連の青年組織のピオニールではなく、ナチスのヒトラー・ユーゲントの画像が引用され、画面左上方の「LONG LIVE FASCISM !」の文字と共に、ドナルド・トランプの言動とファシズム世界の親和性の強調に効果を発揮している(見る側が気付く限りにおいての話だが)。

 

 

 

 

《オマケ》

 トランプ関連画像ではないが、検索中に見つけたソ連プロパガンダ・ポスター・デザインのパロディ作品の中から、お気に入りを2点ほど紹介しておこう。ロシア構成主義を代表するエル・リシツキー作品風のウォッカの広告と、有名なドミトリー・ムーアの志願を募る軍人ポスターをマリオ化したお遊び(残念なことに出典となるリンク先を見失ってしまった)と。

 

  

 we call it vodka
  
https://files1.coloribus.com/preview/x600/files/adsarchive/part_972/9729455/file/stolichnaya-vodka-we-call-it-small-51408.jpg

 

 

  

 

 

 

 

 

(オリジナルは、投稿日時 : 2017/04/15 00:45 → http://www.freeml.com/bl/316274/302435/

 

 

 

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2017年4月 1日 (土)

2017年4月1日:「フェイクニュース」の果てに

 

 

 4月1日ではあるが、以下に記すのはすべてホントの話である。

 

 

 

  ドナルド・トランプ米大統領の大統領顧問ケリーアン・コンウェイは先週末、「カメラに変わる電子レンジ」があるとトランプを擁護する仰天発言をし、またも世を沸かせた。
  ニュージャージー州のメディア「North Jersey.com」に出演したコンウェイは、レコード紙コラムニストのマイク・ケリーと対談した。オバマ前政権による盗聴は実際にあったのかと聞かれたのに対し「お互いを監視する方法はたくさんある、残念ながら」と答えた。
  続けて、「今週読んだ記事には、電話やテレビなどを使った監視の手段がたくさん出てきた。カメラになる電子レンジもある。つまり、これは現代社会における一つの事実にすぎません」と言った。
     (ニューズウィーク日本版 2017/03/14 16:18)

 

同記事によれば、更に、

 

  コンウェイは月曜の朝、CNNの情報番組「New Day」に出演、「カメラに変わる電子レンジ」について説明した。司会のクリス・クオモのインタビューに、コンウェイはこう言った。「私はインスペクター・ガジェット(ガジェット警部)ではない。スパイが電子レンジを使うなんて信じないが、証拠を集めるのは私の仕事ではない。それは捜査官の仕事だ。」

 

記事を書いたルーシー・ウェストコット曰く、

 

  自分のボスが盗聴されたと主張しているのだから、その証拠を出すのはコンウェイの仕事だと思うのだが。

 

私もルーシーに同意する。

 

 今やオルトファクトの女王となったコンウェイの言う「今週読んだ記事には、電話やテレビなどを使った監視の手段がたくさん出てきた」という元ネタは(多分)、

 

  内部告発サイト「ウィキリークス」は7日、米中央情報局(CIA)によるハッキング技術に関する内部資料の公開を始めたと発表した。
  文書によるとCIAは、基本ソフトのウィンドウズやアンドロイド、iOS、OSX、リナックスを使うコンピューターやルーターに侵入するマルウェア(悪意のあるソフト)を武器化している。
  マルウェアは内部作成のものもあるが、韓国・サムスン製テレビのハッキングに使うマルウェアについては、英国の英情報局保安部(MI5)の手助けも得ていたという。

  2014年6月付の文書によると、CIAは、サムスン製スマートテレビ「F8000」シリーズに侵入する技術の開発を「ウィーピング・エンジェル」というコードネームの下で進めた。
  ハッキングされたテレビは、電源がオフになっているように見えるものの、室内の音を録音しており、使用者が再度テレビの電源を入れWi-Fiがつながった際に、インターネットを通じて録音をCIAのコンピューターに送る。
     (BBC News 2017/03/08 12:56)

 

コンウェイ女王様も(大統領本人同様に)他人の話をよく聞いていないタイプなのであろう。CIAの新たな「盗聴」テクニックの技術的側面を理解することなく、「なんかこんな話」程度の理解のまま吹聴したらしい(ま、確かにカメラが仕込まれた電子レンジは古典的スパイ道具のイメージではあるが、コンウェイ女王様のしているのは―文脈からして―古典的スパイ道具の話ではないだろう)。現在ここに記しているのは4月1日付けのブログ記事ではあるが、ネタ元の記事の日付が示すように、ホントの話である。

 

 

 お次の記事もまた、エイプリルフールネタではない。

 

 

  一部の国では、自分の名前や好きな言葉を車のナンバープレートにすることができる。カナダもそのひとつだが、自分の名字をナンバープレートにしていた男性が、名前に問題がありすぎると使用を禁止されてしまった。
  ノバスコシア州に住むローン・グラバー(Grabher)さんは、名字をナンバープレートにして25年前から使っていた。しかし更新を申請したところ、昨年12月にいきなり却下の手紙を州運輸局から受け取った。
  同州運輸局は、カナダ放送協会(CBC)の取材に対して、グラブハーさんのナンバープレートが「女性への暴力」を象徴するものと誤解されかねないからだと説明した。

Bbc_news

  グラバーさんによると、自分の姓はドイツ系で、父親の65歳の誕生日に名前入りのナンバープレートを購入した。父親が亡くなった後、自分でプレートを使い始めたという。
  「GRABHER」は「GRAB HER」、つまり「彼女をつかめ」、女性の体を無理やりつかめという意味にも読める。
     (BBC News 2017/03/28 16:38)

 

記事の日付の通り、エイプリルフールのホンモノのフェイクニュースではなく、実際にグラバー氏の身の上に起きた話なのだ。

 記事には、

 

  グラバーさんは、州当局がいきなりナンバープレートを使用禁止にしたのは、ドナルド・トランプ米大統領のわいせつ発言のせいだと考えている。
  昨年の米大統領選の終盤で、トランプ氏がかつてわいせつな表現を使って女性器を「つかむ」と発言したビデオが浮上。女性の権利団体をはじめ大勢が強く非難し、トランプ氏は謝罪した。

 

このような説明も付されている(起源となるのは以下のように報道されていたエピソードである)。

 

  トランプ氏は女性蔑視発言でたびたび物議を醸し、過去に「女はやらせる。何だってできる。プッシー(女性器を指す俗語)をまさぐってな」と語っていたことも明らかになっている。
     (AFP=時事 2017/01/18 09:36)

 

ドナルド・トランプの実際の発言は「grab them by the pussy」であったらしい(ネット上では「grab her right in the pussy」あるいは「grab her by pussy」との表現でも流通している)。

 この機会なのでネット上の関連画像を紹介しておこう。

 そんなトランプ閣下を怖がって見つからないようにしているのは、こんなプッシー(子猫)ちゃんである。

 

Poor Little Kitty Kat
  
https://onmyfrontporch.files.wordpress.com/2016/10/cat-hiding-from-trump.jpg?w=552&h=414&crop=1

 

 

 

 

 そしてついに米国大統領の周辺から「alternative facts」が量産され続けられる現実は、エイプリールフールの伝統を危機に陥れるまでに至ったのである。

 

  スウェーデンとノルウェーの新聞が3月31日、「偽ニュース」として拡散してしまう恐れを考慮して、伝統になっている紙面でのエープリルフールのジョークを今年は自粛すると発表した。
  スウェーデンの日刊紙スモーランドポステン(Smalandsposten)のマグナス・カールソン(Magnus Karlsson)編集長は同紙のウェブサイトで、ネットで拡散する恐れがある間違った記事を掲載するメディアとして同紙のブランドが知られるようになることは望まないと語り、「本紙は本物のニュースを扱う。4月1日といえども」と述べた。
  「偽ニュース」現象は2016年の米大統領選のさなかに発生し、ドナルド・トランプ(Donald Trump)氏が大統領選当選後初の記者会見でCNNテレビの記者に対し「君たちは偽ニュースだ!」と大声で言い放ったことでさらに勢いづいた。
     (AFP=時事 2017/04/01 10:55)

 

 この「AFP=時事」の記事は、多分、フェイクニュースではない。

 

 

 

 

《オマケ》

 

  共産党の機関紙「しんぶん赤旗」が1日付紙面で、1989年以来、28年ぶりに元号表記を復活させた。天皇制と関係が深い元号を国民に強制すべきではないとの立場だったが、「西暦を平成に換算するのが煩わしい」という読者の声が増え、柔軟路線に転じた。
     (毎日新聞 2017/04/01 10:29)

 
これも、多分、フェイクニュースではない。記事の後半では、

 

  長く党を支えてきた赤旗購読者や党員の減少に悩む共産党は、保守層への支持拡大をうかがっている。元号の使用にはそうした思惑もあるようだ。
  党によると、赤旗の発行部数は日刊紙と日曜版を合わせて約113万部。党関係者は1日、「元号の慣習的な使用には反対しない。読者の要望に応えた」と説明した。

 

このように記されていた。4月1日のタイミングでの方針転換ではあるが、エイプリルフールのネタではなさそうだ。

 

 

 

 

 

(オリジナルは、投稿日時 : 2017/04/01 20:40 → http://www.freeml.com/bl/316274/301309/

 

 

 

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2017年2月10日 (金)

アメリカ人を雇え(トランプと雇用、あるいはワシントンの末裔)

 

 

  ドナルド・トランプ米大統領の上級顧問、ケリーアン・コンウェイ氏は9日、ホワイトハウス記者室から米フォックス・テレビに出演し、トランプ氏の娘イバンカさんのファッションブランドを「買って」と発言を繰り返した。ホワイトハウス職員が民間企業や製品を推奨することを禁じる、連邦倫理規定違反だと批判されている。
  コンウェイ氏は「お店に行ってイバンカのものを買って」、「自分もきょう、買いにくつもり。ここで無料コマーシャルをしますね。みんな、きょう買いに行って」と視聴者に呼びかけた。
     (BBC News 2017/02/10 15:12)

 

 

 ご存じの通り、そもそもの発端は大統領自身で、その間の事情は「イバンカさんの名前を掲げるファッション・ブランドについては、高級百貨店ノードストロムが今月初めに売り上げ低迷を理由に販売中止を発表。それを受けてトランプ大統領自ら、同社を自分のツイッター・アカウントで批判し、大統領公式アカウントがこれをリツイートした」と報じられている。それに加えての今回の「上級顧問」の言動で、あらためて「連邦政府の倫理規定は、ホワイトハウス職員が「いかなる商品、サービス、事業活動の推奨」もしてはならないと定めている」原則的問題と「トランプ政権において、ホワイトハウス関係者が営利活動と関与し利益相反状態に陥る可能性」があることが生み出すであろう倫理的問題が指摘され、その点について既に下院監査政府改革委員会のジェイソン・チェイフェッツ委員長(共和党!)からも批判されていることが報じられている。

 

 で、現政権の突出した公私混同ぶり、倫理観の欠落があらためて明らかになってるわけだが、当人達(大統領本人及び取り巻きの人々)には問題の所在すら理解されていないようである。

 

 

 

 …という問題はさておいて、「イバンカさんの名前を掲げるファッション・ブランド」をめぐるネット上の画像検索から見えてきた話題である。

 

 

 

Do you see it now?
  
http://images.gawker.com/gcqiun8jsyr7ptgwrjq9/c_scale,fl_progressive,q_80,w_800.jpg

 

 

 「イバンカ(イヴァンカ)・トランプ」ブランドの入った段ボール箱が積み上げられている画像だが、そこには「Made in China」と明記されているのだ。

 

ivanka trump made in china
  
https://2.bp.blogspot.com/-MjzP88mM48M/VuN1Eke27OI/AAAAAAAAMIQ/Upxb9BFzeVkwuqq2rvCL_e2ayp9WtjVig/s1600/ivankatrump_dress_china_rossdressforless.jpg

 

 

 製品のタグにも「made in china」の文字が。

 

 

 

 

 大統領となったドナルド・トランプが就任演説で強調したことの一つが「雇用」の問題であった(以下に雇用に関連した部分を抜き書きしておく)。

 

 

  For many decades, we’ve enriched foreign industry at the expense of American industry;
  何十年もの間、我々アメリカの産業を犠牲にして外国の産業を豊かにしてきた。

  One by one, the factories shuttered and left our shores, with not even a thought about the millions upon millions of American workers left behind.
  一つ一つ、工場は閉ざされ、我々の国から遠ざかっていった。何万のアメリカ労働者が取り残されたことなど、見向きもされない

  But that is the past.
  しかし、それは過去のものになった。
  And now we are looking only to the future.
  今、我々は未来だけを見つめるのだ。

  From this day forward, a new vision will govern our land.
  この日を境にして、わが国は新しいビジョンで治められることになる。
  From this moment on, it’s going to be America First. America First.
  まさにこの瞬間からだ。それは、アメリカファースト。アメリカファースト。
  Every decision on trade, on taxes, on immigration, on foreign affairs, will be made to benefit American workers and American families.
  全ての決定は、貿易、税金、移民、外交に関しても、アメリカの家族、労働者にとって有利なものでなければいけない。
  We must protect our borders from the ravages of other countries making our products, stealing our companies, and destroying our jobs.
  他国の犯罪者から私たちの国境を護らなければならない。我々の生産物をつくり、我々の企業と雇用を壊そうとする者から護らなければならない。

  We will bring back our jobs.
  我々は雇用を取り戻す。
  We will bring back our borders.
  国境を取り戻す。
  We will bring back our wealth.
  富を取り戻す。
  And we will bring back our dreams.
  そして我々の夢を取り戻す。

  We will get our people off of welfare and back to work  rebuilding our country with American hands and American labor.
  我が国の国民を豊かにし、雇用を取り戻す。我々の国をアメリカの労働とアメリカの手でつくり直すのだ。
  We will follow two simple rules: Buy American and Hire American.
  我々は二つの単純な原則に従う。「アメリカのものを買え。アメリカ人を雇え
     (
http://www.johoseiri.net/entry/2017/01/21/073326

 

 

 「イバンカ・ブランドの商品を買え」とアメリカの消費者に迫るのはトランプ大統領と「上級顧問」だが、しかし、そこには「made in china」と記されているのだ。

 

 

 

 今回、あらためて調べてみると、「ドナルド・J・トランプ」ブランドの衣料も存在するのだ。しかし…

 

 

our jobs are being taken away from us by china
  
http://undead-earth.com/wordpress/wp-content/uploads/2015/06/2015_Trump_Idiot_1.jpg

 

 

 こちらも「MADE IN CHINA」なのである。「The best social program, by far, is a JOB!  Our jobs are being taken away from us by china」とツイートする当人のブランドが「MADE IN CHINA」なのだ。

 

 

A Donald Trump tie made in China.
  
https://pbs.twimg.com/media/CN8J_vvUAAA5iLV.jpg

 

 

 ネクタイだってこの通り、紛うことなき「Made in China」。

 確認してみても…

 

 

Trump Ties are Made in China or Listed As 'Imported'
  
https://heavyeditorial.files.wordpress.com/2016/09/trump-tie.jpg?quality=65&strip=all&strip=all

 

 

 間違いなく、アメリカ製ではなく、メイド・イン・チャイナ(中国製)なのだ。

 

 

 

 トランプのホテルの備品だって…

 

 

trump hotel classy gold lamp made in china
  
https://i1.wp.com/4fc.7d2.myftpupload.com/wp-content/uploads/2016/09/7.jpg

 

 

 由緒正しき「MADE IN CHINA」なのであった(われらがアパホテルは大丈夫か?)。

 

 

 

 

 もちろん、ちゃんと「MADE IN MEXICO」だってあるし…

 

 


DONALD J. TRUMP MADE IN MEXICO
  
http://i.imgur.com/IqoLuNZ.jpg

 

 

 「ドナルド・J・トランプ」ブランドのスーツは、なんと「国境」の向こうで製造されていたのだ(もちろんメキシコ人の手で)。「他国の犯罪者から私たちの国境を護らなければならない。我々の生産物をつくり、我々の企業と雇用を壊そうとする者から護らなければならない」と大統領就任演説でも主張していたトランプ自身が、自社製品を国境の向こう側、そして海の向こう側で製造させていたのである(大統領ドナルド・トランプは経営者ドナルド・トランプと闘うつもりか?)。

 

 

 

 

 これが「正直」の教科書的存在であったジョージ・ワシントンの末裔の姿なのである。

 

 

 

 

 

(オリジナルは、投稿日時 : 2017/02/10 17:20 → http://www.freeml.com/bl/316274/296314/

 

 

 

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2017年2月 5日 (日)

「偉大な指導者」としてのドナルド・トランプ・イメージ

 

 (驚いたことに)ドナルド・トランプ氏が米国大統領に就任してしまったのは「代替的事実(alternative facts)」などではなく(あるいはハリウッド映画の中の話ではなく)、世界にとっての現実だということを受け入れなければならないわけだが、日曜の午後くらいは逃避的行動の時間としたい。

 画像検索をすると、ドナルド・トランプ大統領はネタの宝庫的存在として、既にその「偉大さ」を示していることがわかる。

 

 

 

 

putin holding trump baby
 
https://i2.wp.com/www.watchthecircus.com/wp-content/uploads/2016/12/putin-holding-trump-baby.jpg

 

 

 言うまでもなく、プーチンの手玉に取られるトランプのイメージである。

 

 

  1月初めに米国から来た人物は、「2013年にトランプがモスクワを訪れたとき、ホテルで不適切な動画を撮影され、ロシア政府が握っているという噂がワシントンで出回っている」と話していた。まもなく同旨の報道が米国で行われるようになり、それを裏付けるとされる文書が出回っていることが分かった。そしてその35ページの文書はネット上で全文暴露されてしまった。
  今週11日、当選後初めて、トランプ次期大統領は記者会見を開き、文書の内容を全面否定する。文書について報道したメディアには質問を許さず、報道しなかったメディアを賞賛するという露骨な差別待遇を行った。
     (ニューズウィーク日本版 2017/01/14 11:00)

 

 この土屋大洋氏の署名記事には、「ただし、これはまだ真偽が確かめられていない」との但し書きが付けられている。トランプ大統領がロシア情報機関に弱みを握られているという話が「事実」であるのか、それとも「代替的事実」(もちろん虚偽の別名だが)であるのかについては、現時点ではいずれとも判断し難いが、当人のキャラクターからすると「ありそうな話」を思われてしまうのも仕方がないだろう。

 

 

 

 で、こちらが画像の元ネタである。

 

 

Stalin loves the little children
 
http://userscontent2.emaze.com/images/3423ec78-209e-4297-929f-761d7c59bb5f/eb4111ba-30e1-4dce-a7d6-7cb19dd5dfe0.jpg

 

 

 かの偉大な書記長が幼児を抱きかかえるスターリニズムど真ん中時代のプロパガンダポスターである。

 

 

 ネット上には、強権的傾向を隠さないトランプ大統領をスターリンになぞらえる画像も多いが、トランプ氏の視覚イメージからすると、イタリアを再び偉大な国とした(MAKE ITALIA GREAT AGAIN !)ファシスト・イタリアの陽気で偉大な首領(ドゥーチェ)であったムッソリーニの方が、よりふさわしい気がしないでもない。

 

 

Trumpolini
 
https://4.bp.blogspot.com/-I-eUEEBc7GM/Vr6a8NvhSAI/AAAAAAAAjNI/A1cQ99QXkWU/s1600/Trump_Dux.jpg

 

 

 顔立ち、表情が似ているのだ。口をへの字に結んでアゴを突き出す尊大なポーズ。

 

 

 で、傑作なのがお次。

 

 

Donald Trump: American Mussolini
 
https://jeffwinbush.files.wordpress.com/2015/12/fascist.jpg

 
 

 「IL DOCE」は「首領」の称号だが、「ILL DOUCHE」はドナルド・トランプという人物の女性蔑視的姿勢(あるいは好色ジジイ・イメージ)と重なるネーミングである。日本語では「ビョーキの膣洗浄器」、だ。思わず人間膣洗浄器と化したドナルド・トランプ氏が「ホテルで不適切な動画を撮影され」たというストーリーを妄想させる。

 ちなみに、ムッソリーニの死が1945年で、トランプは翌年の1946年に生まれていることから、トランプ=ムッソリーニの「生まれ変わり説」もネット上のネタ化されているようである(いずれ、あの大川総裁による守護霊インタビューが公開されるかもしれない)。

 

 

 

 

 最後にこちら、シュピーゲル誌の表紙。「世界の終り」である。

 

 

das ende der welt
 
http://www.zerohedge.com/sites/default/files/images/user3303/imageroot/2016/11/09/20161111_trump1_0.jpg

 

 
 見た通り。説明するのも野暮というものだろう。

 

 

 

 

 

(オリジナルは、投稿日時 : 2017/02/05 15:16 → http://www.freeml.com/bl/316274/295726/

 

 

 

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2017年2月 3日 (金)

トランプのカード(マッカーシー vs トランプ)

 

 ドナルド・トランプとその取り巻きは「代替的事実(alternative facts)」というカードを切ることで、マッカーシーの時代に「多重虚偽」のために費やされに労力を軽減し、手続きを簡略化した。

 

  マッカーシーが国務省への攻撃を始めて間もない頃、私は『ニューヨーカー』誌の「ワシントン便り」の中で、マッカーシーを取り上げた際、そのもっとも注目すべき新手法の一つを「多重虚偽」と呼び、多くの点でヒトラーの大うそに比すべき技術だと書いた。私は次のように書いた。「「多重虚偽」は特に大きな虚偽である必要はなく、一連の相互に余り関係のない虚偽、あるいは多くの側面を持つ一個の虚偽であったりする。いずれの場合にも、全体が多くの部分で構成されているために、真実を明らかにしたいと思う人は虚偽の全要素を頭の中に入れて置くことが全く不可能ということになってしまう。真実を明らかにしようとしても、人はその中の二、三の言明を取り出して、それがうそだということを証明するかもしれないが、こういうやり方は、取り出された声明だけがうそであって、残りは本当なのだという印象を残すだろう。「多重虚偽」の更に大きな利点は、うそと証明された声明をその後も平然と何べんでもくり返しうるということである。というのは、どの声明が否定され、どれが否定されていないかを誰も覚えていないからである。」……
     R.H.ロービア 『マッカーシズム』 岩波文庫 1984 145~146頁

 

 ローピアはジョセフ・マッカーシー上院議員の用いた手法を「多重虚偽」と名付け、「真実を明らかにしようとしても、人はその中の二、三の言明を取り出して、それがうそだということを証明するかもしれないが、こういうやり方は、取り出された声明だけがうそであって、残りは本当なのだという印象を残すだろう」と問題を整理した(ちなみにドナルド・トランプは、上院でのマッカーシーの最大の協力者であったロイ・コーンの弁護士時代の顧客の一人であったと言われており、マッカーシーとトランプはコーンを通して結ばれていることになる―コーンは弁護士としての非倫理的行為を問われ最終的に法曹資格を剥奪された人物でもある―マッカーシーもコーンも知的誠実さとは無縁な人物であったが、この両者とのトランプの「縁」には、どこか納得させられるものを感じてしまう)。

 マッカーシーに対し「二、三の言明を取り出して、それがうそだということを証明する」ことは可能であるが、マッカーシーは新たな虚偽を一瞬のうちに生産するので、「二、三の言明を取り出して、それがうそだということを証明」しても簡単に無効化されてしまうのである。しかし、それはまだ虚偽の生産が手作業であった二十世紀の手法であって、ドナルド・トランプとその取り巻きは「それがうそだということを証明」されようが、新たな虚偽を思いつく手間をかけることもなく「代替的事実(alternative facts)」の一言で、ジャーナリストによって費やされた事実の検証・証明の努力を一瞬にして無意味なものにしてしまう(しかもどのように精緻な「証明」も「偽ニュース(fake news)」として一瞬で切り捨てられる)。もちろん、虚偽の大量生産についてのトランプとその取り巻きの能力がゲッベルスやマッカーシーに劣るというものではないが、ヒトラーやマッカーシーの時代には「代替的事実(alternative facts)」という無敵のカードの存在は知られていなかった、ということなのだ。

 

  ドナルド・トランプ米大統領の上級顧問を務めるケリーアン・コンウェイ氏は22日に米NBCテレビ「ミート・ザ・プレス」に出演した際、「代替的事実(alternative facts)」という表現を使った。この言葉は米政治が事実を重視しない「脱真実」の新時代にあることを象徴するとの見方もある。
  コンウェイ氏はホワイトハウスのショーン・スパイサー報道官による一連の誤った発言に関して番組内でコメント。報道官がトランプ氏の就任式に集まった人数について事実より多く話した点について、コンウェイ氏は番組司会者のチャック・トッド氏に「あなたはそれをうそだと言うが、われわれの報道官であるショーン・スパイサー氏は代替的事実を述べたにすぎない」と釈明。トッド氏はそれに対し、「代替的事実は事実ではない。誤っている事実だ」と応じた。
  コンウェイ氏は翌日、FOXニュースの番組にも出演。司会のショーン・ハニティ氏は、代替的事実とは単純に「異なる視点」を提供しているだけだと語り、より寛容な受け止め方を示した。だが、時すでに遅し。「代替的事実」はソーシャルメディア(SNS)上で瞬く間に広まり、ツイッターでは「おまわりさん、私は酔っていません。代替的にはしらふです#alternativefacts」といったハッシュタグがつく投稿も見られるなど、冷やかしも拡散している状況だ。
     (ウォール・ストリート・ジャーナル 2017/01/27 13:27)

 

 ドナルド・トランプ大統領の上級顧問を務めるケリーアン・コンウェイ氏の「代替的事実(alternative facts)」という用語法(註:1)に対し、NBCテレビ「ミート・ザ・プレス」番組司会者のチャック・トッド氏は「代替的事実は事実ではない。誤っている事実だ」と指摘したわけだが、(トランプ支持の「視点」に立つであろう)FOXニュースの番組司会者のショーン・ハニティ氏は「代替的事実」を「異なる視点」と位置付けることでコンウェイ氏の用語法の擁護・正当化を試みている(註:2)。しかし、「事実」は「事実」であって「虚偽」ではなく、「虚偽」は「虚偽」であって「事実」に対する「異なる視点」ではない。

 「報道官がトランプ氏の就任式に集まった人数について事実より多く話した」かどうかは「視点」の相異によって判断されるべき問題ではなく、実際に集まった人数=事実の検証によってのみ判断されるべき問題なのである。

 

 「代替的事実」なんてものを通用させてしまえば、

 

  事実を無視する「ポスト真実」、あるいは「オルタナファクト(別の真実)」は、根拠と客観性を重視する科学とは相容れないものだが、まさにこれらが科学者に襲いかかっているといえるだろう。
     榎木英介 (Yahoo!ニュース 個人 2017/01/31 12:00)

 

「科学」はその方法論的基盤を喪失するのである。ドナルド・トランプとその取り巻きの思考法が、女性(あるいは様々なマイノリティーの構成員)だけではなく、科学者にとっても大きな脅威と感じられつつあるのも当然のことであろう。

 

 

 マッカーシーは結局、蒔いた種が芽を出して年貢を納めることになるが、その間、米国の外交政策は大きく停滞することとなった。マッカーシーのターゲットとされたのが国務省だったからである。冷戦初期の米国外交は、マッカーシズムという大きな障害のために、理性的な判断から遠ざけられてしまったのだ。朝鮮戦争の最中にもかかわらず、マッカーシーの関心は、戦争の行方にではなく、国務省内にいるとマッカーシーの主張する共産主義者の排除にのみ向けられていた。マッカーシーは証拠(=事実)を握っていると主張していたが、その証拠(=事実)が提出されることはなかった。しかし、その間、国務省内の人間は、外交の行方を論じることよりは自分が共産主義者ではないことを証明することに没頭させられたのである。

 ヴェトナム戦争へと帰結する冷戦時の米国外交を考える上で、マッカーシズムによる損失の大きさを無視することは出来ない。まさに「多重虚偽」の恐ろしい帰結である。事実と虚偽の判別への努力から人々の関心が失われれば、別の言い方をすれば情報の正確さへの関心が失われれば、最終的に痛い目に遭うのは人々自身であり、個々の私なのである。大日本帝國の対米開戦の判断の背後には情報の軽視があり、ブッシュのイラク戦争を主導した国防総省もまた開戦の正当化に役立つ情報のみを採用し、不利な情報を積極的に無視した。

 

 

 現在、ドナルド・トランプとその取り巻きが示しているのは正確な情報(すなわち「事実」)への関心の無さである。

 実際に、

 

  ドナルド・トランプ(Donald Trump)米大統領は28日、スティーブ・バノン(Steve Bannon)首席戦略官・上級顧問(63)を、国家安全保障会議(NSC)の常任メンバーに加える大統領令に署名した。トランプ氏の最側近の一人として知られるバノン氏はこれにより、政策面でも一段と影響力を強めることになりそうだ。
  トランプ氏は大統領令の一つである「大統領指示書」で、NSCの閣僚級委員会について、バノン氏を常任に引き上げる一方、情報機関を統括する国家情報長官(DNI)と、米軍制服組トップの統合参謀本部議長(Joint Chiefs of Staff)を非常任に格下げした。
     (AFP=時事 2017/01/30 09:32)

 

大統領としてのトランプは、国家安全保障会議(NSC)の常任メンバーから専門家としての国家情報長官(DNI)と統合参謀本部議長(Joint Chiefs of Staff)を排除し、情報と軍事の(そもそもが「政治の」でもあるが)シロートであるバノン氏を重用することで、正確な情報取得への関心の低さを示したのである。

 

 今回の「入国禁止」の大統領令の顛末にも、トランプ政権の正確な情報、情報の正確さへの無関心が示されている(自動車産業をめぐる対日批判もその典型的な事例であろう)。

 

  スパイサー米大統領報道官は31日の記者会見で、トランプ大統領が27日に署名したイスラム圏7カ国の出身者を一時入国禁止にした大統領令について「これは入国禁止ではない。米国の安全を維持する(入国)審査の制度だ」と強弁した。
  スパイサー氏は「『禁止』は人々が入国できないことを意味する。(7カ国以外の)別の国から数十万人が入国しているのは明白だ」と強調。入国禁止の対象となったシリアやイランなど7カ国に関しても「オバマ前政権が入国者の必要な情報が得られない国と特定した」と主張した。
     (時事通信 2017/02/01 07:57)

 

 「入国禁止令」の正式名称は「テロリストの入国からアメリカ合衆国を守る大統領令(Protecting the Nation from Foreign Terrorist Entry into the United States)」だが、一般的には「Trump Bans Travel to U.S. for Citizens of 7 Muslim-Majority Nations」のように理解されている(「ban」は「禁止」を意味する語)。

 しかも、時事通信の記事の続きには、

 

  一方、トランプ大統領は30日、ツイッターに「入国禁止が(実施の)1週間前に告知されていたら、『悪者』がその間、急いで入国していた」と投稿。スパイサー報道官もCNNテレビのインタビューで、大統領令を「入国禁止」と何度も呼んでいた。

 

このように記されている。大統領も報道官も問題の大統領令を実際に「入国禁止」と呼んでいた、ということなのである。当人たちが「入国禁止」という文言を用いていた以上(そのような文言を用いて情報発信をしてしまった以上)、メディアが「入国禁止」として報道したことを非難することは出来ない相談であるし、人々が「入国禁止」の大統領令として理解してしまうことも非難しようがなくなる。で、どうしたかというと、

 

  イスラム圏7カ国からのアメリカ入国を一時的に禁止する大統領令について、トランプ大統領はこれまで「入国禁止令ではない」としていましたが、「好きなように呼べばいい」と改めて正当性を主張しました。
  トランプ大統領は、ツイッターに「大統領令が『入国禁止令』なのかどうかで騒いでいるが、好きなように呼べばいい。悪意を持った悪者を国に入れないためだ」と書き込みました。また、ホワイトハウスでの会合で「私はCNNは見ない、嘘のニュースを見るのは嫌いだ」と述べ、入国禁止を批判しているアメリカのメディアのなかから一部メディアの名前を挙げて非難しました。
     (テレビ朝日系(ANN) 2017/02/02 11:46)

 

 情報発信に際しての不用意さは無視した上で、「好きなように呼べばいい」と居直ったのである。

 

 そもそも「テロリストの入国からアメリカ合衆国を守る」(悪意を持った悪者を国に入れない)ための大統領令について言えば、対象とされた「イスラム圏7カ国」の出身者が米国内でテロを実行した実績はないという問題があり、対象国の選定の適切性からして疑問が持たれているものでもある(示されているのは事前の情報分析の不足である)。

 

  米ジャーナリストや学識関係者が参加するシンクタンク「ニュー・アメリカ財団」によると、イスラム聖戦主義攻撃に関与した、あるいはそうした攻撃の実行者として死亡したテロ犯の米国在住資格は次の通り――。

 ・全体の82%は米国籍か永住権を保有

 ・188人は米国生まれ

 ・83人は米国籍に帰化した市民

 ・43人は永住権を持つ市民

 ・13人は難民

 ・12人は在住資格不明

 ・11人は非移民ビザで入国

 ・8人は不法移民

 ・38人は不明

  近年の米国内で起きた重大な無差別大量殺人事件の犯人はいずれも、入国制限対象の7カ国の市民ではなかった。
     (BBC News 2017/02/01 16:30)

 

 「不法移民」及び「難民」が含まれることも確か(21人)ではあるにせよ、詳細に分析するまでもなく今回の「大統領令」があまり役に立つものとなりそうもないことも確かであろう。

 

 末端の行政の窓口対応の細則の作成という重要な問題を抜きにして、つまり実施に際して起るであろう問題のシミュレーション抜きに、性急に大統領令が発せられたことが無用な混乱を招いてしまった側面もある。加えて、国際的にどのように受け取られてしまうかについてもあまりに準備不足(シミュレーションの不在を示す)であった。「テロリストの入国からアメリカ合衆国を守る大統領令」の実効性が事前に注意深く検討されていた形跡もない。要するにトランプ政権が、行政のシロート、外交のシロートによるものであることを示した「大統領令」であった(註:3)が、しかし「嘘のニュースを見るのは嫌い」なトランプ大統領にとっては、混乱の事実も準備不足の指摘も国内外からの様々な批判も「嘘のニュース」以上のものではなく、意に介す必要など感じていないように見える。

 今回の大統領令を主導したのもスティーブ・バノン首席戦略官・上級顧問とされているが、

 

  国土安全保障省(DHS)高官は当初、大統領令の制限に該当するイスラム圏7カ国の出身であっても米永住権保持者には適用されないという解釈だった。しかし、複数の当局者は、バノン氏と同氏に近いスティーブン・ミラー大統領補佐官がこれを却下したと明かした。
  DHS関係者は、今回の移民政策転換を巡って移民、関税、国境管理の関連機関とホワイトハウスとの協議はほとんどまたは全くなく、それが大統領令適用を巡り混乱拡大につながったと明かす。
  ある政府高官は、大統領令がDHSと国家安全保障会議(NSC)の主要な関係者の目を通り、連邦議会の移民関連職員らも関与したと説明したが、複数の当局者によると、バノン氏が終始作成を主導したという。
     (ロイター 2017/01/31 12:56 最終更新:2/1 15:55)

 

このロイターの記事の後半では、「批評家らはバノン氏を反ユダヤ主義で白人至上主義だと批判する。同氏の保守派ニュースサイト「ブライトバート」は、昨年の大統領選で敗れた民主党のクリントン候補に関する陰謀説を多数掲載した」と紹介されているように、そもそもが「陰謀説を多数掲載した」と指摘されるニュースサイトの代表であった人物である。批判する側からは「陰謀説=嘘のニュース」の生産者との位置付けとなるだろう。バノン首席戦略官・上級顧問に、正確な情報に興味を持ち、情報の正確さを優先する習慣を期待するのは実際的ではない。トランプ政権の「主席戦略間・上級顧問」として、冷静な情報評価ではなく偏見に基づいた政策決定の中心となる可能性を考えておくべきであろう。

 

 

 いずれにせよ、正確な情報の正確な把握が必須となる政治の場において、情報の正確さにまったく重きを置こうとしない人物とその取り巻きに権力が与えられてしまったことだけは確かである。

 米国民にとっても、米国以外の国々の国民にとっても大きな災厄を覚悟しなければならない展開となってしまったことも確かであろう。

 

 

 ちなみに大統領令の対象とされた国々の反応は以下の通り。

 

  トランプ大統領は27日、イスラム教徒が多数を占めるイラン、イラク、リビア、ソマリア、スーダン、シリア、イエメンからの難民と旅行者の入国を一時禁止しビザ(査証)発給を停止する大統領令に署名した。
  これについてザリフ外相はツイッター(Twitter)への投稿のなかで、ハッシュタグ「#MuslimBan(イスラム教徒の入国禁止)」を用いて「過激派とその支持者たちへの偉大な贈り物として歴史に記録されるだろう」と皮肉り、「集団的な差別はテロリストの勧誘活動を支援するものだ。深まる断絶を、支援者らを増やそうとする過激派の扇動家らに悪用されるだろう」と述べた。
     (AFP=時事 2017/01/29 19:37)

 

  イラク連邦議会は30日、米国のトランプ政権がイラクなど7カ国の国民の米入国を一時禁止したことに関して、イラク政府に報復措置をとるよう求める決議を賛成多数で採択した。衛星テレビ局アルアラビーヤが報じた。議会内には米国民の一時入国禁止を求める声もあるが、イラク政府は過激派組織「イスラム国」(IS)掃討作戦で連携する米国との関係悪化を避けたい思惑があり、どの程度の報復措置をとるかは不透明だ。
     (毎日新聞 2017/01/30 22:02)

 

  アメリカの支援を受けてきたシリアの反政府勢力がトランプ大統領によるイスラム圏7カ国からの入国禁止措置を厳しく批判しました。
  30日にモスクワで会見した反政府勢力は、トランプ大統領によるシリア国民らの入国禁止措置について「移民に差別的であり、人権を尊重すべき」だと訴えました。     (テレビ朝日系(ANN) 2017/01/31 5:52)

 

  イエメン外務省スポークスマンは30日、トランプ米大統領による入国規制は世界中で過激主義を助長することになると批判した。
  イエメン人が入国一時禁止の対象になったことから、スポークスマンは「不満を表明する」と強調。「テロに勝つ唯一の手段は対話であり、障壁をつくることではない」と語った。
     (時事通信 2017/01/31 14:26)

 

 

 それぞれに耳を傾けるべき内容だと思われるが、それをドナルド・トランプという人物に求めることは現実的ではない。

 

  「経営不振の偽ニュース、ニューヨーク・タイムズ紙は誰かが買収し、正しく経営するか、廃刊にすべきだ」。
  トランプ米大統領は29日、ツイッターでこうつぶやいた。自身に批判的なメディアへの攻撃をエスカレートさせた形だ。
  タイムズ紙は28日の社説でシリア難民受け入れ停止を柱とする大統領令を「臆病で危険」と非難するなど、大統領への批判を連日続けている。大統領は28日も「タイムズ紙とワシントン・ポスト紙は最初から間違っているのに、方向を変えようとしない。不誠実だ」とツイートした。
     (時事通信 2017/01/30 7:35)

 

 自分にとって都合の悪い情報は無視し、排斥する。それが米国の大統領となってしまった人物の現実への対処法なのである。

 

 

 

 しかも、マジョリティもまた「事実」の追求には興味を失いつつあり、自分にとって都合がよいと感じられる情報にのみアクセスする時代となっている。それぞれに都合よく感じられる「代替的事実(alternative facts)」が、ネットを通して簡単に手に入られる時代となったのである。

 

 「ウォール・ストリート・ジャーナル」のBEN ZIMMER氏の記事の最後は、

 

  コンウェイ氏が使った「代替的事実」は、SNS上で「alt-facts」と省略されるケースも見られる。ニューヨークを拠点とするジャーナリストのアンドレア・チャルパ氏は揚げ物など不健康な食事の写真を撮影し、「この代替サラダを今から楽しむところだ」とツイッター上に投稿している。

 

このように結ばれている。「揚げ物」が「サラダ」ではないことを「事実」と呼ぶのであり、その「事実」が自分にとって都合が良かろうが悪かろうが、その「事実」を「事実」として尊重しようとする態度によってのみ情報の正確さが保たれ、適切な判断が可能になる。これが当たり前でなくなりつつある現実を事実として噛みしめねばならない。代替品など存在しないのである。

 

 

 

【註:1】
 早くも新たな「代替的事実(alternative facts)」が当のコーンウェイ氏によって追加された(追記:2017/02/04)。

  昨年の米大統領選ではトランプ陣営の選対本部長を務めたコンウェー氏は、米ケーブル局MSNBC(MSNBC)の番組に出演し、イスラム圏7か国の市民の入国を一時禁止したトランプ氏の大統領令について、バラク・オバマ(Barack Obama)前大統領が取った策と同様のものであると擁護。
  「イラク人2人がこの国に入国し、過激思想に染まってボーリンググリーン虐殺事件の首謀者になった後、オバマ大統領がイラク難民プログラムを6か月間禁止した事実を、今まで知らなかった人は多いはず。これは報道されなかった」と発言した。
  だが、この「虐殺事件」は実際には存在していなかった。コンウェー氏は後にツイッター(Twitter)への投稿で「ボーリンググリーンのテロリストと言うつもりだった」と釈明している。
  2011年、ケンタッキー(Kentucky)州ボーリンググリーン(Bowling Green)在住のイラク人の男2人が有罪判決を受けたが、罪状は国際テロ組織アルカイダ(Al-Qaeda)に資金と武器の供与を試み、駐イラク米軍の兵士に対し簡易爆弾装置を使用したことだった。2人は長期の禁錮刑を受け、現在も収監されている。
  また米紙ワシントン・ポスト(Washington Post)によると、事件を受けオバマ前大統領はイラク難民の審査手続きの厳格化を指示したが、難民受け入れ中止や禁止を命じた事実はなかった。
     (AFP=時事 2017/02/04 07:49)

【註:2】
 FOXニュースの名誉のために付け加えておくと、キャスターのシェパード・スミス氏が自身のFOXニュース番組内で、以下の発言を通してトランプ大統領による非難からCNNを擁護した事実もある(追記:2017/02/07)。

  「トランプ次期大統領は本日、CNNのジム・アコスタ記者に、お前の社は嘘ニュースだ、と述べました。ロシア関係のCNNの特ダネは、オンラインニュースメディアが(精査することなく)出したメモ類とは、根本的に別物です。我々はフォックスニュースでCNNの報道(の正否を)を確認することはできませんが、我々の見解は以下の通りです。CNNの記者はジャーナリストの規範に従っており、彼らだけでなく、他のどんなジャーナリストも、米国の次期大統領による誹謗中傷に屈してはなりません」
     (江川詔子 Yahoo!ニュース 個人 2017/01/12 19:17)

【註:3】
 大統領令の正当性をめぐる裁判の過程でも、「入国禁止」の対象国選定に際しての事前検討の不十分さと施行に際しての準備不足が明らかになっている(追記:2017/02/09)。

  中東・アフリカ7カ国からの入国を一時禁止する米大統領令の即時停止を命じたシアトル連邦地裁の仮処分を巡り、西部カリフォルニア州サンフランシスコの連邦控訴裁判所は7日、電話による口頭弁論を開いた。控訴裁は今週中に判断を下す見通し。
  各35分の弁論で、3人の判事が原告の西部ワシントン、中西部ミネソタ両州と、被告のトランプ政権側の双方の弁護士から主張を聞いた。
  トランプ大統領はテロリストの入国阻止を大統領令署名の理由に挙げている。しかし、判事が政権側に7カ国とテロを結びつける証拠を尋ねると「裁判の進行が早すぎて準備できなかった」と答えた。判事は「進行が早いと言うが、控訴裁に訴えたのはそちらだ」と追及。政権側はテロに関連するソマリア人がいたなどと述べ、地裁決定の取り消しを求めた。「裁判所を説得できているか自信がない」と政権側弁護士が漏らす場面もあり、政権側の拙速ぶりが浮き彫りになった。
  大統領令については共和党幹部らも1月27日の発令後に初めて知ったとされる。ケリー米国土安全保障長官は7日、米下院委員会で「もう少し遅らせて出すべきだった」と述べ、非を認めた。
     (毎日新聞 2017/02/08 21:24)

 

 

 

 

 

(オリジナルは、
 投稿日時 : 2017/01/31 19:47 → http://www.freeml.com/bl/316274/295176/
 投稿日時 : 2017/02/02 19:14 → http://www.freeml.com/bl/316274/295448/

 

 

 

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2017年1月26日 (木)

2017年のロージー(トランプ vs ロージー・ザ・リベッター)

 

 

 

"We Can Do It !" image from Kiara Nelson's tweet
  https://twitter.com/KiaraLynne__/status/822838399275044865/photo/1?ref_src=twsrc%5Etfw

 

 

 ドナルド・トランプの米国大統領就任式の翌日に、反トランプの意思表示も込めて開催された「女性の大行進(Women’s March)」の一シーンである。

 「女性大行進に舞った抗議のプラカード 共感を呼んだ英語表現20選」と題された「バズフィード・ジャパン」の記事(註:1)の中で紹介されていたキアラ・ネルソンさんによるツイート画像だ(ネルソンさんは「Little black girls, you warm my heart」との言葉を添え、この画像をツイートしている)。

 画像の中の少女の一人は、「私たちにはできる!(We Can Do It !)」の言葉と共に腕の力こぶを示す赤いバンダナに青い作業服姿の若い女性が描かれたプラカードを抱えている。

 少女がプラカード化したこのイメージこそは、前回の記事「フォードの爆撃機、あるいはロージーのリベレーター」の中で取り上げた、ロージー・ザ・リベッター(リベット打ちのロージー)の姿そのものである。

 

 

 トランプを相手にしたロージーの姿としては、もっと強烈なものもネット上には存在する。

 

 

"Choking Trump" by Kevin Karstens
  https://onsizzle.com/i/we-can-do-it-www-kevinkarstens-blogspot-com-yes-we-can-via-2848873

 

 

 こちらはポッドキャスト・サイトにあった「女性の大行進(Women’s March)」に関連した投稿(註:2)に添えられていた画像だが、ケヴィン・カーステンス氏(註:3)のイラストがオリジナル(註:4)らしい。

 トランプを締め上げるロージー! (このイメージは個人的に「大受け」で、実際、プリント・アウトまでして飾ってしまったくらいだ―襟のロバのバッジは民主党支持者を示しているのだとも思われるが、しかし、個人的にはヒラリーを支持する気もない)

 

 

 

 

 ここで、ロージー・ザ・リベッター(Rosie the Riveter)について復習をしておくと、レッド・エヴァンスとジョン・ジャコブ・ローブによる1942年の曲のタイトルで、戦時下の米国での女性労働者の姿を歌ったものである。様々なミュージシャンにより取り上げられ、リベット工のロージーの名は、戦時下の女性労働者の象徴となったようである(既に「フォードの爆撃機、あるいはロージーのリベレーター」の中で紹介した動画だが、登場する女性労働者のイメージが秀逸なので参考のために再録しておく)。

 

 

Rosie, The Riveter ~ Allen Miller & His Orchestra (1943)
  https://www.youtube.com/watch?v=XJxe3vQRMuY

 

 

 

 現在、「Rosie the Riveter」で画像検索をするとまず大量にヒットするのが、件の「We Can Do It !」のポスターとそれをアレンジしたイメージである。

 

 

 "We Can Do It!" by J. Howard Miller
https://en.wikipedia.org/wiki/Rosie_the_Riveter#/media/File:We_Can_Do_It!.jpg

 

 これがJ・ハワード・ミラーによってウェスティングハウス社のためにデザインされたオリジナルのポスターで、1943年2月にウェスティングハウスの工場内に掲示されたものである。

 当時は、ウェスティングハウス社の社内用ポスターとして期間限定(二週間という話だ)で工場内に掲示されただけで、一般的には知られることのなかったポスター(戦時期米国の生産増強プロパガンダ・ポスターの一枚、ということである)であった。「ロージー・ザ・リベッター」を視覚化した画像ではなかった(そもそもウェスティングハウスの工場で製造されていたのは樹脂製ヘルメットであり、リベット工の活躍する製品かどうかという問題もある)にもかかわらず、1980年代のフェミニズム運動の中で再発見され、リベッターとしてのロージーのイメージと重ねられて流通し、現在に至ったものである(註:5)。

 

 当時、実際にロージーの視覚的イメージとして流通したのは、ノーマン・ロックウェルにより「サタデー・イブニング・ポスト」誌の表紙のために描かれたものである。こちらはリベット打ち機を膝に載せた姿で描かれており(ポーズはミケランジェロの描く預言者イザヤの姿を模したものである)、ロックウェルは確かに「リベッター」としてのロージーを視覚化している。

 

 

 Norman Rockwell's Saturday Evening Post cover
https://en.wikipedia.org/wiki/Rosie_the_Riveter#/media/File:RosieTheRiveter.jpg

 

 

 戦時期アメリカの戦時動員プロパガンダの代表的イメージとして、雑誌の表紙絵としてだけでなく、戦時公債のキャンペーンにも用いられ、当時、広く流通していたのはこちらである(著作権が戦後の流通を阻んだと言われている)。

 いずれにせよ、現在ではミラーの「We Can Do It !」のイメージの方がロージーの姿として定着しており、実際、画像検索の結果にも反映されている通りである。

 

 

 

 

 冒頭に紹介したのは、「女性の大行進(Women’s March)」に際して、反トランプの意思表示のために用いられたロージー(We Can Do It !)のイメージだが、ロージーの姿はフェミニズムの独占物というわけでもない。

 戦時期米国の女性労働者の姿は、愛国的イメージとしても流通しており、実際、昨年の大統領選挙に際しては、ヒラリーだけでなくトランプの選挙キャンペーンでも用いられていたのである(それだけ 米国民に共有されたイメージだということだ―両者共に「We Can Do It !」のミラーのデザインだが、「rosie-the-riveter-t-shirt」と記されている)。

 

 まずは、ヒラリーの選挙キャンペーン用Tシャツ。

 

 

rosie-the-riveter-hillary-clinton-for-president-2016-t-shirt
http://images.prod.meredith.com/product/c8007931a3f02f0458a1492076692c41/00629b16e6468da24b2022adf8d7946b09eb51938155591a72fa53dd4fd50245/l/rosie-the-riveter-hillary-clinton-for-president-2016-t-shirt

 

 

 ヒラリー・クリントンがミラーのポスターの女性労働者のポーズをしている。

 このデザインが呼び起こすのは「We Can Do It !」の言葉であり、ヒラリーにとっての「I Can Do It !」(私には大統領の職務をこなす自信がある)であろう。

 フェミニズムとの親和性の文脈での共感(初の女性大統領の誕生!)が期待されたデザインと言うべきか?

 

 

 

 一方でトランプ陣営でも「We Can Do It !」のイメージは人気のようである。

 トランプ支持者の女性用に製作されたTシャツには、ミラーの描いた女性労働者の姿がそのまま用いられている。

 

 

Rosie Riveter For Trump Women's T-Shirts
  https://image.spreadshirtmedia.com/image-server/v1/compositions/1007445004/views/1,width=300,height=300,version=1478262588/rosie-riveter-for-trump-women-s-t-shirts-women-s-t-shirt.jpg 

 

 

 こちらの選択はフェミニズムの文脈というより、戦時期米国の生産を支えた女性労働者の姿を通した愛国主義的共感獲得への期待であろう。

 

 極めつけは「壁を築く」の言葉と共に力こぶを誇示するトランプの姿であろうか?

 

 

donald-trump-rosie-the-riveter-2016-build-a-wall-t-shirt
  http://www.shoptv.com/imgcache/product/resized/000/981/134/catl/donald-trump-rosie-the-riveter-2016-build-a-wall-t-shirt-945_1500.jpg?k=32094d60&pid=981134&s=catl&sn=shoptv

 

 

 トランプの主張するメキシコとの間の「壁」は、米国内の自動車産業労働者の期待の象徴と言えるだろう。米国自動車産業の白人労働者の雇用の確保の手段として、「壁」は象徴的意味を与えられている。「BUILD A WALL」も、そして「MAKE AMERICA GREAT AGAIN !」もまた、トランプにとっての「We Can Do It !」であり「I Can Do It !」なのである。

 

 米国自動車産業の中心地であるデトロイト、そしてミシガン州はトランプ支持者の中心となる地域でもある。しかも、ロージーとも無縁ではない。むしろロージーの故郷というべき土地でもあるのだ。あのクライスラー社の戦車工場もフォード社の爆撃機工場も、デトロイト周辺、ミシガン州に建設されたものであった(「クライスラーの戦車」及び「フォードの爆撃機、あるいはロージーのリベレーター」参照)。

 ルーズベルトは1940年12月の有名な演説の中で、参戦前の米国を「民主主義の大兵器廠(The Great Arsenal of Democracy)」として位置付けた(註:6)が、まさにその中心としてイメージされていたのがデトロイトでありミシガンであった(註:7)。参戦後の米国、戦時下の米国で、その「民主主義の兵器廠」の生産を支えたのが女性労働者であり、すなわちロージー・ザ・リベッターのイメージと自身を重ねて時代を生きた女たちであった。

 それまで「男の仕事」とされていたものも戦時下の米国では「We Can Do It !」となった。大統領の職務だってヒラリーにとっては「I Can Do It !」となるだろう。

 米国の雇用環境の防衛のためなら「壁」を築くのも「We Can Do It !」であり、大統領となったトランプにとっては「I Can Do It !」となる。

 ロージーのイメージはフェミニズムとの親和性も高いが、愛国主義との親和性も高いのである。ロージーに締め上げられるトランプが力こぶを誇示しながら壁を築く。

 ミラーのポスターのイメージは米国の人々に深く浸透するものとなり(註:8)、トランプ支持者にも反トランプ派にも共に用いられる人気のアイコンにまで成長したことが、ネットで採集した画像を通して理解出来るはずだ。

 

 

 

【註:1】
 溝呂木佐季 BuzzFeed News 「女性大行進に舞った抗議のプラカード 共感を呼んだ英語表現20選」
  https://www.buzzfeed.com/sakimizoroki/wm-e?utm_term=.pwe0dyOvN#.qsqqzW4YN

【註:2】
 http://inmyroom.podbean.com/e/womens-march-on-washington-special/

【註:3】
 https://www.facebook.com/Kevin.Karstens

【註:4】
 https://onsizzle.com/i/we-can-do-it-www-kevinkarstens-blogspot-com-yes-we-can-via-2848873

【註:5】
 We Can Do It!
  https://en.wikipedia.org/wiki/We_Can_Do_It!
  
https://ja.wikipedia.org/wiki/We_Can_Do_It!
 Rosie the Riveter
  https://en.wikipedia.org/wiki/Rosie_the_Riveter

 日本語の『ウィキペディア』には「We Can Do It!」のページはあるが「ロージー・ザ・リベッター(Rosie the Riveter)」のページはない(2017/01/27 の時点では)。ちなみに『ウィキペディア』の日本語版の「We Can Do It!」の冒頭は以下の通り。

  "We Can Do It!" とは、戦時中のアメリカ合衆国でプロパガンダに使われたポスター・イメージのことである。J・ハワード・ミラーが1942年にウェスティングハウス・エレクトリックの依頼を受けて製作したもので、労働者を鼓舞して勤労意欲を高めることを目的としていた。このポスターは一般に通信社がミシガン州の工場労働者を撮影したモノクロ写真がもとになっていると考えられており、被写体となったその女性の名はジェラルディーン・ホフという。
  第二次世界大戦中にこのポスターが人目に触れる機会はほとんど無かった。それが1980年代の初めに再発見され、様々な形で広く再生産された。しばしば「We Can Do It!」と呼ばれたこのデザインは、軍需工場の労働者の力強い、しかし女性的な姿のアイコンとなってからは「ロージー・ザ・リベッター」とも呼ばれた。そして「We Can Do It!」のイメージは1980年代に始まるフェミニズムなどの政治的問題を唱道するために利用されていった。1984年には「スミソニアン・マガジン」の表紙を飾り、1999年のアメリカでは普通郵便の切手のデザインにも採用された。さらに2008年の選挙戦では、サラ・ペイリン、ロン・ポール、ヒラリー・クリントンといった政治家までこのイメージをキャンペーンの道具として利用するのである。
  今日ではこのポスター・イメージが戦争を呼びかけ、女性労働者を駆り立てるものとしてだけ利用されたという考えがしばしば議論の前提となっている。しかし戦争中、このポスターはウェスティングハウスの内部に向けてのみ展示されたのであり、掲載も1943年2月の間だけだった。そしてそもそも募集広告ではなく、すでに雇用された女性にさらなる労働を説くものとして使われたのだ。フェミニストを始めとして多くの人々がこの啓発的な姿やメッセージに飛びつき、イメージを様々な形に改変し、自己実現や勧誘、扇動、広告、パロディなどに使用した。

 ここには「被写体となったその女性の名はジェラルディーン・ホフ」とあるが、現在ではそれが誤りであったことが知られている。実際に被写体となったのはナオミ・パーカーであった。

   Miller is thought to have based his "We Can Do It!" poster on a United Press International wire service photograph taken of a young female war worker, widely but erroneously reported as being a photo of Michigan war worker Geraldine Hoff (later Doyle.) More recent evidence indicates that the formerly mis-identified photo is actually of war worker Naomi Parker (later Fraley) taken at Alameda Naval Air Station in California.
     (
https://en.wikipedia.org/wiki/Rosie_the_Riveter

【註:6】
 http://www.americanrhetoric.com/speeches/fdrarsenalofdemocracy.html

【註:7】
 http://detroithistorical.org/learn/encyclopedia-of-detroit/arsenal-democracy

【註:8】
 現在では、ハロウィンの仮装のキャラクターとしても人気があるらしい。
  https://jp.pinterest.com/explore/rosie-the-riveter-costume/

   Rosie The Riveter Costume.jpg
Rosie The Riveter Costume
  
https://s-media-cache-ak0.pinimg.com/736x/6d/c7/29/6dc7290fbc0ff2300e55180cabd0ec57.jpg

 

 

 

 

 

(オリジナルは、投稿日時 : 2017/01/26 22:07 → http://www.freeml.com/bl/316274/294613/

 

 

 

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