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2017年5月31日 (水)

エビデンスの力~西嶋真司監督の『抗い』(2016)

 

 本年の「メイシネマ祭’17」では、最終日の最終上映作品となった西嶋真司監督の『抗い』(2016)しか観られなかった。4週間近く前の話だ。しかし、その印象はまだ生々しい。

 

 

 

 ファクト(事実)を支えるエビデンス(根拠)の力。徹底的にエビデンスに拘り、ファクトに迫り続ける記録作家―林えいだい―の姿。

 2017年はトランプ大統領就任の年でもある。トランプと取り巻きは、自分たちに都合の悪いあらゆる情報を何の根拠も示さずにフェイク・ニュース(偽ニュース)と切り捨て、自ら発信する虚偽をオルタナティブ・ファクト(代替事実)と呼ぶことで問題を処理し続けている。

 

    ファクト(事実)やエビデンス(根拠)に対する政治的攻撃が強まっているとして多くの人が不安を募らせているなか、科学者やその支持者たちのデモ「科学のための行進(March for Science)」が22日に米首都ワシントン(Washington D.C.)を中心に世界600以上の都市で初めて行われる。
     (AFP 2017/04/22 15:27)

 

 この記事(そこにある切迫した危機感)が、記録作家の林えいだいの姿を追ったドキュメンタリー作品を観る私の中に、何度も反響し続けた。

 

 作品のホームページの記述を援用すれば、林えいだいは、「徹底した聞き取り調査により、朝鮮人強制連行、差別問題、特攻隊の実相など、人々を苦しめた歴史的事実の闇を追求し続けている」記録作家である。正直に私にとっての林えいだい体験を告白すれば、そのテーマの余りな重さに、著作に目を通すことを先延ばしにしてきた作家でもある。

 

 そんな私が、メイシネマ祭の会場で、画面の中の林えいだいと対面することになったのである。

 

 『抗い』の中では、林えいだいの著作のいくつかが、そしてその取材の核心が紹介される。

 たとえば朝鮮人炭坑夫を殴り殺した日本人労務主任を探し出し、実際のその証言を引き出し、まさにその証言をエビデンスとして、ファクトとしての日本近代における朝鮮人炭坑夫の境遇を明らかにするのである。

 その徹底的な取材が、ファクト(事実)としての歴史叙述を支えることになる。「近現代史の真実」と称する代替事実(すなわち虚偽)が氾濫するのが21世紀の最初の十数年の現実である(たとえば「朝鮮人強制連行問題の基本構図」参照)。林えいだいが、その徹底的に緻密な取材を通して明らかにするのは、当事者の証言を通して明らかにされるのは、近代日本の「事実」なのである。

 

 西嶋真司監督による取材が、その林えいだいの姿―徹底してエビデンスを追い求めファクトを追求する記録作家の気迫、その背後で記録作家を突き動かす戦時期日本での父母のエピソード―を映像記録としてとどめ、私たちの前に示してくれるのである。

 

 

 

 

 

(オリジナルは、投稿日時 : 2017/05/31 18:39 → http://www.freeml.com/bl/316274/305681/

 

 

 

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