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2017年2月 3日 (金)

トランプのカード(マッカーシー vs トランプ)

 

 ドナルド・トランプとその取り巻きは「代替的事実(alternative facts)」というカードを切ることで、マッカーシーの時代に「多重虚偽」のために費やされに労力を軽減し、手続きを簡略化した。

 

  マッカーシーが国務省への攻撃を始めて間もない頃、私は『ニューヨーカー』誌の「ワシントン便り」の中で、マッカーシーを取り上げた際、そのもっとも注目すべき新手法の一つを「多重虚偽」と呼び、多くの点でヒトラーの大うそに比すべき技術だと書いた。私は次のように書いた。「「多重虚偽」は特に大きな虚偽である必要はなく、一連の相互に余り関係のない虚偽、あるいは多くの側面を持つ一個の虚偽であったりする。いずれの場合にも、全体が多くの部分で構成されているために、真実を明らかにしたいと思う人は虚偽の全要素を頭の中に入れて置くことが全く不可能ということになってしまう。真実を明らかにしようとしても、人はその中の二、三の言明を取り出して、それがうそだということを証明するかもしれないが、こういうやり方は、取り出された声明だけがうそであって、残りは本当なのだという印象を残すだろう。「多重虚偽」の更に大きな利点は、うそと証明された声明をその後も平然と何べんでもくり返しうるということである。というのは、どの声明が否定され、どれが否定されていないかを誰も覚えていないからである。」……
     R.H.ロービア 『マッカーシズム』 岩波文庫 1984 145~146頁

 

 ローピアはジョセフ・マッカーシー上院議員の用いた手法を「多重虚偽」と名付け、「真実を明らかにしようとしても、人はその中の二、三の言明を取り出して、それがうそだということを証明するかもしれないが、こういうやり方は、取り出された声明だけがうそであって、残りは本当なのだという印象を残すだろう」と問題を整理した(ちなみにドナルド・トランプは、上院でのマッカーシーの最大の協力者であったロイ・コーンの弁護士時代の顧客の一人であったと言われており、マッカーシーとトランプはコーンを通して結ばれていることになる―コーンは弁護士としての非倫理的行為を問われ最終的に法曹資格を剥奪された人物でもある―マッカーシーもコーンも知的誠実さとは無縁な人物であったが、この両者とのトランプの「縁」には、どこか納得させられるものを感じてしまう)。

 マッカーシーに対し「二、三の言明を取り出して、それがうそだということを証明する」ことは可能であるが、マッカーシーは新たな虚偽を一瞬のうちに生産するので、「二、三の言明を取り出して、それがうそだということを証明」しても簡単に無効化されてしまうのである。しかし、それはまだ虚偽の生産が手作業であった二十世紀の手法であって、ドナルド・トランプとその取り巻きは「それがうそだということを証明」されようが、新たな虚偽を思いつく手間をかけることもなく「代替的事実(alternative facts)」の一言で、ジャーナリストによって費やされた事実の検証・証明の努力を一瞬にして無意味なものにしてしまう(しかもどのように精緻な「証明」も「偽ニュース(fake news)」として一瞬で切り捨てられる)。もちろん、虚偽の大量生産についてのトランプとその取り巻きの能力がゲッベルスやマッカーシーに劣るというものではないが、ヒトラーやマッカーシーの時代には「代替的事実(alternative facts)」という無敵のカードの存在は知られていなかった、ということなのだ。

 

  ドナルド・トランプ米大統領の上級顧問を務めるケリーアン・コンウェイ氏は22日に米NBCテレビ「ミート・ザ・プレス」に出演した際、「代替的事実(alternative facts)」という表現を使った。この言葉は米政治が事実を重視しない「脱真実」の新時代にあることを象徴するとの見方もある。
  コンウェイ氏はホワイトハウスのショーン・スパイサー報道官による一連の誤った発言に関して番組内でコメント。報道官がトランプ氏の就任式に集まった人数について事実より多く話した点について、コンウェイ氏は番組司会者のチャック・トッド氏に「あなたはそれをうそだと言うが、われわれの報道官であるショーン・スパイサー氏は代替的事実を述べたにすぎない」と釈明。トッド氏はそれに対し、「代替的事実は事実ではない。誤っている事実だ」と応じた。
  コンウェイ氏は翌日、FOXニュースの番組にも出演。司会のショーン・ハニティ氏は、代替的事実とは単純に「異なる視点」を提供しているだけだと語り、より寛容な受け止め方を示した。だが、時すでに遅し。「代替的事実」はソーシャルメディア(SNS)上で瞬く間に広まり、ツイッターでは「おまわりさん、私は酔っていません。代替的にはしらふです#alternativefacts」といったハッシュタグがつく投稿も見られるなど、冷やかしも拡散している状況だ。
     (ウォール・ストリート・ジャーナル 2017/01/27 13:27)

 

 ドナルド・トランプ大統領の上級顧問を務めるケリーアン・コンウェイ氏の「代替的事実(alternative facts)」という用語法(註:1)に対し、NBCテレビ「ミート・ザ・プレス」番組司会者のチャック・トッド氏は「代替的事実は事実ではない。誤っている事実だ」と指摘したわけだが、(トランプ支持の「視点」に立つであろう)FOXニュースの番組司会者のショーン・ハニティ氏は「代替的事実」を「異なる視点」と位置付けることでコンウェイ氏の用語法の擁護・正当化を試みている(註:2)。しかし、「事実」は「事実」であって「虚偽」ではなく、「虚偽」は「虚偽」であって「事実」に対する「異なる視点」ではない。

 「報道官がトランプ氏の就任式に集まった人数について事実より多く話した」かどうかは「視点」の相異によって判断されるべき問題ではなく、実際に集まった人数=事実の検証によってのみ判断されるべき問題なのである。

 

 「代替的事実」なんてものを通用させてしまえば、

 

  事実を無視する「ポスト真実」、あるいは「オルタナファクト(別の真実)」は、根拠と客観性を重視する科学とは相容れないものだが、まさにこれらが科学者に襲いかかっているといえるだろう。
     榎木英介 (Yahoo!ニュース 個人 2017/01/31 12:00)

 

「科学」はその方法論的基盤を喪失するのである。ドナルド・トランプとその取り巻きの思考法が、女性(あるいは様々なマイノリティーの構成員)だけではなく、科学者にとっても大きな脅威と感じられつつあるのも当然のことであろう。

 

 

 マッカーシーは結局、蒔いた種が芽を出して年貢を納めることになるが、その間、米国の外交政策は大きく停滞することとなった。マッカーシーのターゲットとされたのが国務省だったからである。冷戦初期の米国外交は、マッカーシズムという大きな障害のために、理性的な判断から遠ざけられてしまったのだ。朝鮮戦争の最中にもかかわらず、マッカーシーの関心は、戦争の行方にではなく、国務省内にいるとマッカーシーの主張する共産主義者の排除にのみ向けられていた。マッカーシーは証拠(=事実)を握っていると主張していたが、その証拠(=事実)が提出されることはなかった。しかし、その間、国務省内の人間は、外交の行方を論じることよりは自分が共産主義者ではないことを証明することに没頭させられたのである。

 ヴェトナム戦争へと帰結する冷戦時の米国外交を考える上で、マッカーシズムによる損失の大きさを無視することは出来ない。まさに「多重虚偽」の恐ろしい帰結である。事実と虚偽の判別への努力から人々の関心が失われれば、別の言い方をすれば情報の正確さへの関心が失われれば、最終的に痛い目に遭うのは人々自身であり、個々の私なのである。大日本帝國の対米開戦の判断の背後には情報の軽視があり、ブッシュのイラク戦争を主導した国防総省もまた開戦の正当化に役立つ情報のみを採用し、不利な情報を積極的に無視した。

 

 

 現在、ドナルド・トランプとその取り巻きが示しているのは正確な情報(すなわち「事実」)への関心の無さである。

 実際に、

 

  ドナルド・トランプ(Donald Trump)米大統領は28日、スティーブ・バノン(Steve Bannon)首席戦略官・上級顧問(63)を、国家安全保障会議(NSC)の常任メンバーに加える大統領令に署名した。トランプ氏の最側近の一人として知られるバノン氏はこれにより、政策面でも一段と影響力を強めることになりそうだ。
  トランプ氏は大統領令の一つである「大統領指示書」で、NSCの閣僚級委員会について、バノン氏を常任に引き上げる一方、情報機関を統括する国家情報長官(DNI)と、米軍制服組トップの統合参謀本部議長(Joint Chiefs of Staff)を非常任に格下げした。
     (AFP=時事 2017/01/30 09:32)

 

大統領としてのトランプは、国家安全保障会議(NSC)の常任メンバーから専門家としての国家情報長官(DNI)と統合参謀本部議長(Joint Chiefs of Staff)を排除し、情報と軍事の(そもそもが「政治の」でもあるが)シロートであるバノン氏を重用することで、正確な情報取得への関心の低さを示したのである。

 

 今回の「入国禁止」の大統領令の顛末にも、トランプ政権の正確な情報、情報の正確さへの無関心が示されている(自動車産業をめぐる対日批判もその典型的な事例であろう)。

 

  スパイサー米大統領報道官は31日の記者会見で、トランプ大統領が27日に署名したイスラム圏7カ国の出身者を一時入国禁止にした大統領令について「これは入国禁止ではない。米国の安全を維持する(入国)審査の制度だ」と強弁した。
  スパイサー氏は「『禁止』は人々が入国できないことを意味する。(7カ国以外の)別の国から数十万人が入国しているのは明白だ」と強調。入国禁止の対象となったシリアやイランなど7カ国に関しても「オバマ前政権が入国者の必要な情報が得られない国と特定した」と主張した。
     (時事通信 2017/02/01 07:57)

 

 「入国禁止令」の正式名称は「テロリストの入国からアメリカ合衆国を守る大統領令(Protecting the Nation from Foreign Terrorist Entry into the United States)」だが、一般的には「Trump Bans Travel to U.S. for Citizens of 7 Muslim-Majority Nations」のように理解されている(「ban」は「禁止」を意味する語)。

 しかも、時事通信の記事の続きには、

 

  一方、トランプ大統領は30日、ツイッターに「入国禁止が(実施の)1週間前に告知されていたら、『悪者』がその間、急いで入国していた」と投稿。スパイサー報道官もCNNテレビのインタビューで、大統領令を「入国禁止」と何度も呼んでいた。

 

このように記されている。大統領も報道官も問題の大統領令を実際に「入国禁止」と呼んでいた、ということなのである。当人たちが「入国禁止」という文言を用いていた以上(そのような文言を用いて情報発信をしてしまった以上)、メディアが「入国禁止」として報道したことを非難することは出来ない相談であるし、人々が「入国禁止」の大統領令として理解してしまうことも非難しようがなくなる。で、どうしたかというと、

 

  イスラム圏7カ国からのアメリカ入国を一時的に禁止する大統領令について、トランプ大統領はこれまで「入国禁止令ではない」としていましたが、「好きなように呼べばいい」と改めて正当性を主張しました。
  トランプ大統領は、ツイッターに「大統領令が『入国禁止令』なのかどうかで騒いでいるが、好きなように呼べばいい。悪意を持った悪者を国に入れないためだ」と書き込みました。また、ホワイトハウスでの会合で「私はCNNは見ない、嘘のニュースを見るのは嫌いだ」と述べ、入国禁止を批判しているアメリカのメディアのなかから一部メディアの名前を挙げて非難しました。
     (テレビ朝日系(ANN) 2017/02/02 11:46)

 

 情報発信に際しての不用意さは無視した上で、「好きなように呼べばいい」と居直ったのである。

 

 そもそも「テロリストの入国からアメリカ合衆国を守る」(悪意を持った悪者を国に入れない)ための大統領令について言えば、対象とされた「イスラム圏7カ国」の出身者が米国内でテロを実行した実績はないという問題があり、対象国の選定の適切性からして疑問が持たれているものでもある(示されているのは事前の情報分析の不足である)。

 

  米ジャーナリストや学識関係者が参加するシンクタンク「ニュー・アメリカ財団」によると、イスラム聖戦主義攻撃に関与した、あるいはそうした攻撃の実行者として死亡したテロ犯の米国在住資格は次の通り――。

 ・全体の82%は米国籍か永住権を保有

 ・188人は米国生まれ

 ・83人は米国籍に帰化した市民

 ・43人は永住権を持つ市民

 ・13人は難民

 ・12人は在住資格不明

 ・11人は非移民ビザで入国

 ・8人は不法移民

 ・38人は不明

  近年の米国内で起きた重大な無差別大量殺人事件の犯人はいずれも、入国制限対象の7カ国の市民ではなかった。
     (BBC News 2017/02/01 16:30)

 

 「不法移民」及び「難民」が含まれることも確か(21人)ではあるにせよ、詳細に分析するまでもなく今回の「大統領令」があまり役に立つものとなりそうもないことも確かであろう。

 

 末端の行政の窓口対応の細則の作成という重要な問題を抜きにして、つまり実施に際して起るであろう問題のシミュレーション抜きに、性急に大統領令が発せられたことが無用な混乱を招いてしまった側面もある。加えて、国際的にどのように受け取られてしまうかについてもあまりに準備不足(シミュレーションの不在を示す)であった。「テロリストの入国からアメリカ合衆国を守る大統領令」の実効性が事前に注意深く検討されていた形跡もない。要するにトランプ政権が、行政のシロート、外交のシロートによるものであることを示した「大統領令」であった(註:3)が、しかし「嘘のニュースを見るのは嫌い」なトランプ大統領にとっては、混乱の事実も準備不足の指摘も国内外からの様々な批判も「嘘のニュース」以上のものではなく、意に介す必要など感じていないように見える。

 今回の大統領令を主導したのもスティーブ・バノン首席戦略官・上級顧問とされているが、

 

  国土安全保障省(DHS)高官は当初、大統領令の制限に該当するイスラム圏7カ国の出身であっても米永住権保持者には適用されないという解釈だった。しかし、複数の当局者は、バノン氏と同氏に近いスティーブン・ミラー大統領補佐官がこれを却下したと明かした。
  DHS関係者は、今回の移民政策転換を巡って移民、関税、国境管理の関連機関とホワイトハウスとの協議はほとんどまたは全くなく、それが大統領令適用を巡り混乱拡大につながったと明かす。
  ある政府高官は、大統領令がDHSと国家安全保障会議(NSC)の主要な関係者の目を通り、連邦議会の移民関連職員らも関与したと説明したが、複数の当局者によると、バノン氏が終始作成を主導したという。
     (ロイター 2017/01/31 12:56 最終更新:2/1 15:55)

 

このロイターの記事の後半では、「批評家らはバノン氏を反ユダヤ主義で白人至上主義だと批判する。同氏の保守派ニュースサイト「ブライトバート」は、昨年の大統領選で敗れた民主党のクリントン候補に関する陰謀説を多数掲載した」と紹介されているように、そもそもが「陰謀説を多数掲載した」と指摘されるニュースサイトの代表であった人物である。批判する側からは「陰謀説=嘘のニュース」の生産者との位置付けとなるだろう。バノン首席戦略官・上級顧問に、正確な情報に興味を持ち、情報の正確さを優先する習慣を期待するのは実際的ではない。トランプ政権の「主席戦略間・上級顧問」として、冷静な情報評価ではなく偏見に基づいた政策決定の中心となる可能性を考えておくべきであろう。

 

 

 いずれにせよ、正確な情報の正確な把握が必須となる政治の場において、情報の正確さにまったく重きを置こうとしない人物とその取り巻きに権力が与えられてしまったことだけは確かである。

 米国民にとっても、米国以外の国々の国民にとっても大きな災厄を覚悟しなければならない展開となってしまったことも確かであろう。

 

 

 ちなみに大統領令の対象とされた国々の反応は以下の通り。

 

  トランプ大統領は27日、イスラム教徒が多数を占めるイラン、イラク、リビア、ソマリア、スーダン、シリア、イエメンからの難民と旅行者の入国を一時禁止しビザ(査証)発給を停止する大統領令に署名した。
  これについてザリフ外相はツイッター(Twitter)への投稿のなかで、ハッシュタグ「#MuslimBan(イスラム教徒の入国禁止)」を用いて「過激派とその支持者たちへの偉大な贈り物として歴史に記録されるだろう」と皮肉り、「集団的な差別はテロリストの勧誘活動を支援するものだ。深まる断絶を、支援者らを増やそうとする過激派の扇動家らに悪用されるだろう」と述べた。
     (AFP=時事 2017/01/29 19:37)

 

  イラク連邦議会は30日、米国のトランプ政権がイラクなど7カ国の国民の米入国を一時禁止したことに関して、イラク政府に報復措置をとるよう求める決議を賛成多数で採択した。衛星テレビ局アルアラビーヤが報じた。議会内には米国民の一時入国禁止を求める声もあるが、イラク政府は過激派組織「イスラム国」(IS)掃討作戦で連携する米国との関係悪化を避けたい思惑があり、どの程度の報復措置をとるかは不透明だ。
     (毎日新聞 2017/01/30 22:02)

 

  アメリカの支援を受けてきたシリアの反政府勢力がトランプ大統領によるイスラム圏7カ国からの入国禁止措置を厳しく批判しました。
  30日にモスクワで会見した反政府勢力は、トランプ大統領によるシリア国民らの入国禁止措置について「移民に差別的であり、人権を尊重すべき」だと訴えました。     (テレビ朝日系(ANN) 2017/01/31 5:52)

 

  イエメン外務省スポークスマンは30日、トランプ米大統領による入国規制は世界中で過激主義を助長することになると批判した。
  イエメン人が入国一時禁止の対象になったことから、スポークスマンは「不満を表明する」と強調。「テロに勝つ唯一の手段は対話であり、障壁をつくることではない」と語った。
     (時事通信 2017/01/31 14:26)

 

 

 それぞれに耳を傾けるべき内容だと思われるが、それをドナルド・トランプという人物に求めることは現実的ではない。

 

  「経営不振の偽ニュース、ニューヨーク・タイムズ紙は誰かが買収し、正しく経営するか、廃刊にすべきだ」。
  トランプ米大統領は29日、ツイッターでこうつぶやいた。自身に批判的なメディアへの攻撃をエスカレートさせた形だ。
  タイムズ紙は28日の社説でシリア難民受け入れ停止を柱とする大統領令を「臆病で危険」と非難するなど、大統領への批判を連日続けている。大統領は28日も「タイムズ紙とワシントン・ポスト紙は最初から間違っているのに、方向を変えようとしない。不誠実だ」とツイートした。
     (時事通信 2017/01/30 7:35)

 

 自分にとって都合の悪い情報は無視し、排斥する。それが米国の大統領となってしまった人物の現実への対処法なのである。

 

 

 

 しかも、マジョリティもまた「事実」の追求には興味を失いつつあり、自分にとって都合がよいと感じられる情報にのみアクセスする時代となっている。それぞれに都合よく感じられる「代替的事実(alternative facts)」が、ネットを通して簡単に手に入られる時代となったのである。

 

 「ウォール・ストリート・ジャーナル」のBEN ZIMMER氏の記事の最後は、

 

  コンウェイ氏が使った「代替的事実」は、SNS上で「alt-facts」と省略されるケースも見られる。ニューヨークを拠点とするジャーナリストのアンドレア・チャルパ氏は揚げ物など不健康な食事の写真を撮影し、「この代替サラダを今から楽しむところだ」とツイッター上に投稿している。

 

このように結ばれている。「揚げ物」が「サラダ」ではないことを「事実」と呼ぶのであり、その「事実」が自分にとって都合が良かろうが悪かろうが、その「事実」を「事実」として尊重しようとする態度によってのみ情報の正確さが保たれ、適切な判断が可能になる。これが当たり前でなくなりつつある現実を事実として噛みしめねばならない。代替品など存在しないのである。

 

 

 

【註:1】
 早くも新たな「代替的事実(alternative facts)」が当のコーンウェイ氏によって追加された(追記:2017/02/04)。

  昨年の米大統領選ではトランプ陣営の選対本部長を務めたコンウェー氏は、米ケーブル局MSNBC(MSNBC)の番組に出演し、イスラム圏7か国の市民の入国を一時禁止したトランプ氏の大統領令について、バラク・オバマ(Barack Obama)前大統領が取った策と同様のものであると擁護。
  「イラク人2人がこの国に入国し、過激思想に染まってボーリンググリーン虐殺事件の首謀者になった後、オバマ大統領がイラク難民プログラムを6か月間禁止した事実を、今まで知らなかった人は多いはず。これは報道されなかった」と発言した。
  だが、この「虐殺事件」は実際には存在していなかった。コンウェー氏は後にツイッター(Twitter)への投稿で「ボーリンググリーンのテロリストと言うつもりだった」と釈明している。
  2011年、ケンタッキー(Kentucky)州ボーリンググリーン(Bowling Green)在住のイラク人の男2人が有罪判決を受けたが、罪状は国際テロ組織アルカイダ(Al-Qaeda)に資金と武器の供与を試み、駐イラク米軍の兵士に対し簡易爆弾装置を使用したことだった。2人は長期の禁錮刑を受け、現在も収監されている。
  また米紙ワシントン・ポスト(Washington Post)によると、事件を受けオバマ前大統領はイラク難民の審査手続きの厳格化を指示したが、難民受け入れ中止や禁止を命じた事実はなかった。
     (AFP=時事 2017/02/04 07:49)

【註:2】
 FOXニュースの名誉のために付け加えておくと、キャスターのシェパード・スミス氏が自身のFOXニュース番組内で、以下の発言を通してトランプ大統領による非難からCNNを擁護した事実もある(追記:2017/02/07)。

  「トランプ次期大統領は本日、CNNのジム・アコスタ記者に、お前の社は嘘ニュースだ、と述べました。ロシア関係のCNNの特ダネは、オンラインニュースメディアが(精査することなく)出したメモ類とは、根本的に別物です。我々はフォックスニュースでCNNの報道(の正否を)を確認することはできませんが、我々の見解は以下の通りです。CNNの記者はジャーナリストの規範に従っており、彼らだけでなく、他のどんなジャーナリストも、米国の次期大統領による誹謗中傷に屈してはなりません」
     (江川詔子 Yahoo!ニュース 個人 2017/01/12 19:17)

【註:3】
 大統領令の正当性をめぐる裁判の過程でも、「入国禁止」の対象国選定に際しての事前検討の不十分さと施行に際しての準備不足が明らかになっている(追記:2017/02/09)。

  中東・アフリカ7カ国からの入国を一時禁止する米大統領令の即時停止を命じたシアトル連邦地裁の仮処分を巡り、西部カリフォルニア州サンフランシスコの連邦控訴裁判所は7日、電話による口頭弁論を開いた。控訴裁は今週中に判断を下す見通し。
  各35分の弁論で、3人の判事が原告の西部ワシントン、中西部ミネソタ両州と、被告のトランプ政権側の双方の弁護士から主張を聞いた。
  トランプ大統領はテロリストの入国阻止を大統領令署名の理由に挙げている。しかし、判事が政権側に7カ国とテロを結びつける証拠を尋ねると「裁判の進行が早すぎて準備できなかった」と答えた。判事は「進行が早いと言うが、控訴裁に訴えたのはそちらだ」と追及。政権側はテロに関連するソマリア人がいたなどと述べ、地裁決定の取り消しを求めた。「裁判所を説得できているか自信がない」と政権側弁護士が漏らす場面もあり、政権側の拙速ぶりが浮き彫りになった。
  大統領令については共和党幹部らも1月27日の発令後に初めて知ったとされる。ケリー米国土安全保障長官は7日、米下院委員会で「もう少し遅らせて出すべきだった」と述べ、非を認めた。
     (毎日新聞 2017/02/08 21:24)

 

 

 

 

 

(オリジナルは、
 投稿日時 : 2017/01/31 19:47 → http://www.freeml.com/bl/316274/295176/
 投稿日時 : 2017/02/02 19:14 → http://www.freeml.com/bl/316274/295448/

 

 

 

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