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2017年1月26日 (木)

2017年のロージー(トランプ vs ロージー・ザ・リベッター)

 

 

 

"We Can Do It !" image from Kiara Nelson's tweet
  https://twitter.com/KiaraLynne__/status/822838399275044865/photo/1?ref_src=twsrc%5Etfw

 

 

 ドナルド・トランプの米国大統領就任式の翌日に、反トランプの意思表示も込めて開催された「女性の大行進(Women’s March)」の一シーンである。

 「女性大行進に舞った抗議のプラカード 共感を呼んだ英語表現20選」と題された「バズフィード・ジャパン」の記事(註:1)の中で紹介されていたキアラ・ネルソンさんによるツイート画像だ(ネルソンさんは「Little black girls, you warm my heart」との言葉を添え、この画像をツイートしている)。

 画像の中の少女の一人は、「私たちにはできる!(We Can Do It !)」の言葉と共に腕の力こぶを示す赤いバンダナに青い作業服姿の若い女性が描かれたプラカードを抱えている。

 少女がプラカード化したこのイメージこそは、前回の記事「フォードの爆撃機、あるいはロージーのリベレーター」の中で取り上げた、ロージー・ザ・リベッター(リベット打ちのロージー)の姿そのものである。

 

 

 トランプを相手にしたロージーの姿としては、もっと強烈なものもネット上には存在する。

 

 

"Choking Trump" by Kevin Karstens
  https://onsizzle.com/i/we-can-do-it-www-kevinkarstens-blogspot-com-yes-we-can-via-2848873

 

 

 こちらはポッドキャスト・サイトにあった「女性の大行進(Women’s March)」に関連した投稿(註:2)に添えられていた画像だが、ケヴィン・カーステンス氏(註:3)のイラストがオリジナル(註:4)らしい。

 トランプを締め上げるロージー! (このイメージは個人的に「大受け」で、実際、プリント・アウトまでして飾ってしまったくらいだ―襟のロバのバッジは民主党支持者を示しているのだとも思われるが、しかし、個人的にはヒラリーを支持する気もない)

 

 

 

 

 ここで、ロージー・ザ・リベッター(Rosie the Riveter)について復習をしておくと、レッド・エヴァンスとジョン・ジャコブ・ローブによる1942年の曲のタイトルで、戦時下の米国での女性労働者の姿を歌ったものである。様々なミュージシャンにより取り上げられ、リベット工のロージーの名は、戦時下の女性労働者の象徴となったようである(既に「フォードの爆撃機、あるいはロージーのリベレーター」の中で紹介した動画だが、登場する女性労働者のイメージが秀逸なので参考のために再録しておく)。

 

 

Rosie, The Riveter ~ Allen Miller & His Orchestra (1943)
  https://www.youtube.com/watch?v=XJxe3vQRMuY

 

 

 

 現在、「Rosie the Riveter」で画像検索をするとまず大量にヒットするのが、件の「We Can Do It !」のポスターとそれをアレンジしたイメージである。

 

 

 "We Can Do It!" by J. Howard Miller
https://en.wikipedia.org/wiki/Rosie_the_Riveter#/media/File:We_Can_Do_It!.jpg

 

 これがJ・ハワード・ミラーによってウェスティングハウス社のためにデザインされたオリジナルのポスターで、1943年2月にウェスティングハウスの工場内に掲示されたものである。

 当時は、ウェスティングハウス社の社内用ポスターとして期間限定(二週間という話だ)で工場内に掲示されただけで、一般的には知られることのなかったポスター(戦時期米国の生産増強プロパガンダ・ポスターの一枚、ということである)であった。「ロージー・ザ・リベッター」を視覚化した画像ではなかった(そもそもウェスティングハウスの工場で製造されていたのは樹脂製ヘルメットであり、リベット工の活躍する製品かどうかという問題もある)にもかかわらず、1980年代のフェミニズム運動の中で再発見され、リベッターとしてのロージーのイメージと重ねられて流通し、現在に至ったものである(註:5)。

 

 当時、実際にロージーの視覚的イメージとして流通したのは、ノーマン・ロックウェルにより「サタデー・イブニング・ポスト」誌の表紙のために描かれたものである。こちらはリベット打ち機を膝に載せた姿で描かれており(ポーズはミケランジェロの描く預言者イザヤの姿を模したものである)、ロックウェルは確かに「リベッター」としてのロージーを視覚化している。

 

 

 Norman Rockwell's Saturday Evening Post cover
https://en.wikipedia.org/wiki/Rosie_the_Riveter#/media/File:RosieTheRiveter.jpg

 

 

 戦時期アメリカの戦時動員プロパガンダの代表的イメージとして、雑誌の表紙絵としてだけでなく、戦時公債のキャンペーンにも用いられ、当時、広く流通していたのはこちらである(著作権が戦後の流通を阻んだと言われている)。

 いずれにせよ、現在ではミラーの「We Can Do It !」のイメージの方がロージーの姿として定着しており、実際、画像検索の結果にも反映されている通りである。

 

 

 

 

 冒頭に紹介したのは、「女性の大行進(Women’s March)」に際して、反トランプの意思表示のために用いられたロージー(We Can Do It !)のイメージだが、ロージーの姿はフェミニズムの独占物というわけでもない。

 戦時期米国の女性労働者の姿は、愛国的イメージとしても流通しており、実際、昨年の大統領選挙に際しては、ヒラリーだけでなくトランプの選挙キャンペーンでも用いられていたのである(それだけ 米国民に共有されたイメージだということだ―両者共に「We Can Do It !」のミラーのデザインだが、「rosie-the-riveter-t-shirt」と記されている)。

 

 まずは、ヒラリーの選挙キャンペーン用Tシャツ。

 

 

rosie-the-riveter-hillary-clinton-for-president-2016-t-shirt
http://images.prod.meredith.com/product/c8007931a3f02f0458a1492076692c41/00629b16e6468da24b2022adf8d7946b09eb51938155591a72fa53dd4fd50245/l/rosie-the-riveter-hillary-clinton-for-president-2016-t-shirt

 

 

 ヒラリー・クリントンがミラーのポスターの女性労働者のポーズをしている。

 このデザインが呼び起こすのは「We Can Do It !」の言葉であり、ヒラリーにとっての「I Can Do It !」(私には大統領の職務をこなす自信がある)であろう。

 フェミニズムとの親和性の文脈での共感(初の女性大統領の誕生!)が期待されたデザインと言うべきか?

 

 

 

 一方でトランプ陣営でも「We Can Do It !」のイメージは人気のようである。

 トランプ支持者の女性用に製作されたTシャツには、ミラーの描いた女性労働者の姿がそのまま用いられている。

 

 

Rosie Riveter For Trump Women's T-Shirts
  https://image.spreadshirtmedia.com/image-server/v1/compositions/1007445004/views/1,width=300,height=300,version=1478262588/rosie-riveter-for-trump-women-s-t-shirts-women-s-t-shirt.jpg 

 

 

 こちらの選択はフェミニズムの文脈というより、戦時期米国の生産を支えた女性労働者の姿を通した愛国主義的共感獲得への期待であろう。

 

 極めつけは「壁を築く」の言葉と共に力こぶを誇示するトランプの姿であろうか?

 

 

donald-trump-rosie-the-riveter-2016-build-a-wall-t-shirt
  http://www.shoptv.com/imgcache/product/resized/000/981/134/catl/donald-trump-rosie-the-riveter-2016-build-a-wall-t-shirt-945_1500.jpg?k=32094d60&pid=981134&s=catl&sn=shoptv

 

 

 トランプの主張するメキシコとの間の「壁」は、米国内の自動車産業労働者の期待の象徴と言えるだろう。米国自動車産業の白人労働者の雇用の確保の手段として、「壁」は象徴的意味を与えられている。「BUILD A WALL」も、そして「MAKE AMERICA GREAT AGAIN !」もまた、トランプにとっての「We Can Do It !」であり「I Can Do It !」なのである。

 

 米国自動車産業の中心地であるデトロイト、そしてミシガン州はトランプ支持者の中心となる地域でもある。しかも、ロージーとも無縁ではない。むしろロージーの故郷というべき土地でもあるのだ。あのクライスラー社の戦車工場もフォード社の爆撃機工場も、デトロイト周辺、ミシガン州に建設されたものであった(「クライスラーの戦車」及び「フォードの爆撃機、あるいはロージーのリベレーター」参照)。

 ルーズベルトは1940年12月の有名な演説の中で、参戦前の米国を「民主主義の大兵器廠(The Great Arsenal of Democracy)」として位置付けた(註:6)が、まさにその中心としてイメージされていたのがデトロイトでありミシガンであった(註:7)。参戦後の米国、戦時下の米国で、その「民主主義の兵器廠」の生産を支えたのが女性労働者であり、すなわちロージー・ザ・リベッターのイメージと自身を重ねて時代を生きた女たちであった。

 それまで「男の仕事」とされていたものも戦時下の米国では「We Can Do It !」となった。大統領の職務だってヒラリーにとっては「I Can Do It !」となるだろう。

 米国の雇用環境の防衛のためなら「壁」を築くのも「We Can Do It !」であり、大統領となったトランプにとっては「I Can Do It !」となる。

 ロージーのイメージはフェミニズムとの親和性も高いが、愛国主義との親和性も高いのである。ロージーに締め上げられるトランプが力こぶを誇示しながら壁を築く。

 ミラーのポスターのイメージは米国の人々に深く浸透するものとなり(註:8)、トランプ支持者にも反トランプ派にも共に用いられる人気のアイコンにまで成長したことが、ネットで採集した画像を通して理解出来るはずだ。

 

 

 

【註:1】
 溝呂木佐季 BuzzFeed News 「女性大行進に舞った抗議のプラカード 共感を呼んだ英語表現20選」
  https://www.buzzfeed.com/sakimizoroki/wm-e?utm_term=.pwe0dyOvN#.qsqqzW4YN

【註:2】
 http://inmyroom.podbean.com/e/womens-march-on-washington-special/

【註:3】
 https://www.facebook.com/Kevin.Karstens

【註:4】
 https://onsizzle.com/i/we-can-do-it-www-kevinkarstens-blogspot-com-yes-we-can-via-2848873

【註:5】
 We Can Do It!
  https://en.wikipedia.org/wiki/We_Can_Do_It!
  
https://ja.wikipedia.org/wiki/We_Can_Do_It!
 Rosie the Riveter
  https://en.wikipedia.org/wiki/Rosie_the_Riveter

 日本語の『ウィキペディア』には「We Can Do It!」のページはあるが「ロージー・ザ・リベッター(Rosie the Riveter)」のページはない(2017/01/27 の時点では)。ちなみに『ウィキペディア』の日本語版の「We Can Do It!」の冒頭は以下の通り。

  "We Can Do It!" とは、戦時中のアメリカ合衆国でプロパガンダに使われたポスター・イメージのことである。J・ハワード・ミラーが1942年にウェスティングハウス・エレクトリックの依頼を受けて製作したもので、労働者を鼓舞して勤労意欲を高めることを目的としていた。このポスターは一般に通信社がミシガン州の工場労働者を撮影したモノクロ写真がもとになっていると考えられており、被写体となったその女性の名はジェラルディーン・ホフという。
  第二次世界大戦中にこのポスターが人目に触れる機会はほとんど無かった。それが1980年代の初めに再発見され、様々な形で広く再生産された。しばしば「We Can Do It!」と呼ばれたこのデザインは、軍需工場の労働者の力強い、しかし女性的な姿のアイコンとなってからは「ロージー・ザ・リベッター」とも呼ばれた。そして「We Can Do It!」のイメージは1980年代に始まるフェミニズムなどの政治的問題を唱道するために利用されていった。1984年には「スミソニアン・マガジン」の表紙を飾り、1999年のアメリカでは普通郵便の切手のデザインにも採用された。さらに2008年の選挙戦では、サラ・ペイリン、ロン・ポール、ヒラリー・クリントンといった政治家までこのイメージをキャンペーンの道具として利用するのである。
  今日ではこのポスター・イメージが戦争を呼びかけ、女性労働者を駆り立てるものとしてだけ利用されたという考えがしばしば議論の前提となっている。しかし戦争中、このポスターはウェスティングハウスの内部に向けてのみ展示されたのであり、掲載も1943年2月の間だけだった。そしてそもそも募集広告ではなく、すでに雇用された女性にさらなる労働を説くものとして使われたのだ。フェミニストを始めとして多くの人々がこの啓発的な姿やメッセージに飛びつき、イメージを様々な形に改変し、自己実現や勧誘、扇動、広告、パロディなどに使用した。

 ここには「被写体となったその女性の名はジェラルディーン・ホフ」とあるが、現在ではそれが誤りであったことが知られている。実際に被写体となったのはナオミ・パーカーであった。

   Miller is thought to have based his "We Can Do It!" poster on a United Press International wire service photograph taken of a young female war worker, widely but erroneously reported as being a photo of Michigan war worker Geraldine Hoff (later Doyle.) More recent evidence indicates that the formerly mis-identified photo is actually of war worker Naomi Parker (later Fraley) taken at Alameda Naval Air Station in California.
     (
https://en.wikipedia.org/wiki/Rosie_the_Riveter

【註:6】
 http://www.americanrhetoric.com/speeches/fdrarsenalofdemocracy.html

【註:7】
 http://detroithistorical.org/learn/encyclopedia-of-detroit/arsenal-democracy

【註:8】
 現在では、ハロウィンの仮装のキャラクターとしても人気があるらしい。
  https://jp.pinterest.com/explore/rosie-the-riveter-costume/

   Rosie The Riveter Costume.jpg
Rosie The Riveter Costume
  
https://s-media-cache-ak0.pinimg.com/736x/6d/c7/29/6dc7290fbc0ff2300e55180cabd0ec57.jpg

 

 

 

 

 

(オリジナルは、投稿日時 : 2017/01/26 22:07 → http://www.freeml.com/bl/316274/294613/

 

 

 

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