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2016年9月 9日 (金)

二重国籍の幻

 

 このところのネトウヨ系(あるいは自称保守系)大興奮ニュースとして、党内選挙で民進党の代表になっちゃうかも知れない蓮舫先生をめぐる「二重国籍疑惑問題」があったりする。

 

 蓮舫先生については、ニュース・キャスター時代の彼女を、故ナンシー関が見事に「社会派バカ」の一言で斬って捨てたのを今でも忘れ難く思う私ではあるが、そしてその印象が今に至るまで変更されることもなく来た―もちろんささやかな私の偏見に過ぎないのであろう―のであるが、つまり現在の政治家としての蓮舫先生を支持する気にもまったくならない私なのではあるが、今般の(産経新聞と百田尚樹先生とを含む)ネトウヨ系(あるいは自称保守系)の盛り上がりには冷ややかな視線を送らざるを得ないのもまた現実なのであった。

 

 

 

 戸籍簿上の国籍表記に関しては、昭和39年の時点で、台湾出身者については国籍を「中国」と表記するようにとの法務省からの通達がある(註:1)。

 1967年(昭和42年)生まれの蓮舫先生は、出生当時の国籍法上、(日本国民である母の持つ日本国籍ではなく)父の出身地である台湾を意味する「中国」を自身の国籍として日本の公文書に記載することを求められていたことになる。

 

 言うまでもないことであるとは思うが、そもそも「台湾」は地域名であるが国名ではない。「台湾」は、かつては大日本帝國の支配領域であったが、「先の大戦(つまり大東亞戦争)」での大日本帝國の敗戦後は、大陸を追われた国民党政権の支配領域として「中華民国」を国名として名乗ることとなった。昭和39年(1964年)の法務省通達にある「中国」は、この「中華民国」の略称(あるいは通称)ということになる。その後、1972年の「日中国交正常化」により、日本国は大陸に本拠を置く中国共産党政権下の「中華人民共和国」を「中国」の正統な国家として承認し、国民党政権下の台湾の「中華民国」とは断交した(その時点で台湾の正統的な支配者は、台湾の国民党政府ではなく大陸の中国共産党政府と見做されることとなった)。

 しかしそこで台湾出身者の国籍表記はどうなったかというと「中国」のまま! つまり、日中国交正常化後、日本国内公文書上の「中国」は、従来の「中華民国」としてではなく、「中華人民共和国」として読み替えられ取り扱われることで済まされてしまったのである(註:2)。

 

 蓮舫先生は、出生時は当時の国籍法の規定と法務省通達に従い、台湾出身である父の国籍表記である「中国」(ただし中華民国を意味する)の国籍保有者として取り扱われ、「日中国交正常化後」には「中国」の正統な国家として日本政府に承認された(台湾をも領域とすることとされている)中華人民共和国(もちろんこちらも略称は「中国」である―ちなみに日本国の外務省も、そして中華人民共和国の外務省も、この表記を認めている 註:3)の国籍保有者として取り扱われるようになってしまったわけである。

 

 再確認しておくと、1967年の出生時は台湾を領域的に実効支配する国民党政権下の中華民国国籍を意味する「中国」の国籍保有者として取り扱われ、「日中国交正常化」後は台湾をも含む「中華人民共和国」の国籍保有者であることを意味する「中国」籍の保有者として、日本の国内法上の取り扱いを受けていたのである(註:4)。

 日常語の世界の話としてはともかく、日本国の公文書(少なくとも法務省民事局管轄の戸籍簿)上は、「台湾籍」である「蓮舫」なる人物が存在したことはない、ということになる。

 

 で、1984年の国籍法の改正(母が日本国籍保有者であれば、その子に日本国籍が認められるようになった)により、当時の若き蓮舫嬢は、あらためて国籍の選択を迫られることになる。そこで彼女は(父のアドバイスもあったらしいが)日本国籍をあらためて選択したのであった。

 で、ネットで騒がれているのは、その際に「台湾籍を離脱していないのではないのか?」との「疑惑」であるわけだが、先に説明したように、そもそも日本の戸籍簿上には、国籍(帰属先の国家)を「台湾」とする台湾出身者は存在しない。

 その事実を再確認した上で、実際に国籍欄に記載されていた「中国」(ここでは中華人民共和国を意味する―蓮舫嬢が日本国籍を取得した時期が日中国交正常化後なので)の国籍からの離脱の手続きの実行の有無は問われ得る話ではあるだろう。

 ここで焦点となるのは、中華人民共和国の国籍法上の他国の国籍取得者への対応である。中華人民共和国の国籍法上では二重国籍の保有は認められず、他国の国籍を取得した時点で「中華人民共和国」の国籍は失われる。つまり、若き蓮舫嬢が日本の国内法の規定に基づき日本国籍の取得を選択した時点で、中華人民共和国の国内法に基づき、中華人民共和国の国籍は自動的に失われていることになるのである(註:5)。当人による中国籍離脱の手続きは(中華人民共和国の法制度上は)必要とされていないのだ(註:6)。

 実際問題として考えれば、かつて彼女が北京大学に留学した際には、彼女は日本国のパスポートを使用していた―つまり日本国民として「渡航」した―のであり、中華人民共和国の国籍保有者として「帰国」したのではない(そのようなことは中華人民共和国の法制度上あり得ない話なのである)。

 ただし、台湾の公文書上の問題としては、戸籍上の「籍」は残されている可能性は残る―しかし、台湾は日本国から国家として認められていないので、日本の法理上は蓮舫先生の台湾「国籍」なるものは存在しないわけでもあるし、中華人民共和国の法理上も既に中国の国籍を喪失している人物の籍が地方行政文書(台湾は中華人民共和国政府からすれば国内の一地方に過ぎない)に残されているのは国内行政上の瑕疵でしかない(戸籍記載の訂正は、既に国籍を喪失した人物の責に帰するものではなく、行政官の職務に属する問題である―もっとも、あくまでもこれは形式的な話であって、現実の中華人民共和国政府は、現地台湾の行政官に指示命令する手段を持たないのであるが)し、そもそも台湾の住民の多くは自身の帰属先を「中華民国」と考えているのであって、必ずしも台湾なる国家の国籍の保有者などとは考えていない―もちろん、「台湾」を自身の帰属先と考え、大陸から独立した領域としての「台湾」を希求する台湾ナショナリストも存在する(註:7)事実を無視するべきではないが―はずである。

 安易に「台湾籍」という語を用いて問題を論じようとする風潮には、(公文書上の用語法に象徴される)問題の法理的側面への無理解を感じさせられる。本質的に法理上の問題であるにもかかわらず、排外主義的心情の上に築かれた妄想の拡大再生産に議論(蓮舫先生への批判)が終始している印象である。いずれにせよ、日本国の国内法的にも、中華人民共和国の国内法の上でも、蓮舫先生の二重国籍問題なるものは最初から存在しないのである(註:8)(この点に関しては、更に「続・二重国籍の幻」の中で、蓮舫先生の所持していた「台湾籍」の「旅券」の国内法的位置付けに焦点を合わせ論じてみたのでそちらも参考にしていただきたい)。

 

 

 

【註:1】

   戸籍における台湾出身者の国籍表記に関する質問主意書
第177回国会(参議院) 質問第二五六号 平成二十三年八月九日 大江康弘(自由民主党)

 現在、台湾人女性が日本人男性の妻となる場合、台湾出身者が日本に帰化する場合、又は台湾出身者が日本人の養子となる場合など、台湾出身者の身分に変動があった場合、戸籍における国籍や出生地は「中国」あるいは「中国台湾省」と表記される。
 戸籍において、台湾出身者の国籍を「中国」と表記しているのは、実に今をさかのぼること四十七年も前の昭和三十九年六月十九日付で出された法務省民事局長による「中華民国の国籍の表示を「中国」と記載することについて」という通達が根拠になっていると思われる。

 昭和三十九年といえば、東海道新幹線が開業し、東京オリンピックが開催された年で、日本が中華民国と国交を結んでいた時代である。しかしその後、日本は中華民国と断交して中国(中華人民共和国)と国交を結ぶなど、日本と台湾・中国との関係は大きく変わっている。
 このような中、東京都は平成二十年五月、住民基本台帳の表記について昭和六十二年の通知が現状に即さず、正確ではないとの判断から、台湾からの転入・台湾への転出の際には「台湾」の表記を認めるという通知を出している。また、平成二十一年七月の法改正による外国人登録証明書の在留カード化措置において、台湾出身者の「国籍・地域」表記は「中国」から「台湾」に改められることになる。
 現実的にも、中国が台湾を統治したことは一度もない。また、日本政府は観光客に対するノービザや運転免許証について台湾とは相互承認を行い、中国とは行っていないなど、明確に台湾と中国とを区別している。さらに、台湾では天皇誕生日祝賀会が開催されたり叙勲を復活させたりするなど、中国とは状況が異なっている事例には事欠かない。
 従って、五十年前とは様変わりしている事情や現実を踏まえ、戸籍における台湾出身者の国籍表記を早急に改めるべき状況にあると認識している。
 そこで、以下のとおり質問する。

一 戸籍において、台湾出身者の国籍や出生地を「中国」や「中国台湾省」と表記するのは、昭和三十九年六月十九日付で出された法務省民事局長による「中華民国の国籍の表示を「中国」と記載することについて」という通達が根拠になっていると思われるが、それで相違ないか。もし違うというのであれば、根拠となっている法律や通達などを明らかにされたい。

二 戸籍において、台湾出身者の国籍を「中国」と表記することは、現状に即し正確だと認識しているか、政府の認識を明らかにされたい。

三(略)
http://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/syuisyo/177/syuh/s177256.htm
 http://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/syuisyo/177/toup/t177256.pdf

   参議院議員大江康弘君提出戸籍における台湾出身者の国籍表記に関する質問に対する答弁書
答弁書第二五六号 平成二十三年八月十九日 内閣総理大臣(菅直人)

一について

 御指摘のとおりである。

二について

 お尋ねの「現状」の意味が必ずしも明らかではないが、現在の戸籍において国籍として表示される「中国」は、我が国が国家として承認しているところの「中国」を指すものであり、このような取扱いに問題があるとは考えていない。

三について(略)  
http://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/syuisyo/177/touh/t177256.htm
 http://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/syuisyo/177/toup/t177256.pdf

 

 もちろん、この内閣総理大臣の答弁内容は、民主党政権での独自見解などではなく、歴代の自民党政権下でも受け継がれてきた認識と考えるべきものである(大江議員は、「五十年前」から修正されることなく続く戸籍記載上の問題を指摘しているのであり、その五十年間のほとんどの時期に政権を担当し続けたのは他ならぬ自由民主党なのであるから)。

 

〔追記:2016/09/11〕
 自由民主党政権下での森山真弓法務大臣が以下の答弁をしてるようである。

 04月23日(2002年・平成14年)
 外登証問題で、西村眞悟・衆院議員が法務委員会において質疑。森山真弓法相は「外国人登録法を昭和27年に制定して以来、台湾出身者は『中国』と表記。これは昭和47年9月の日中国交正常化の前も後も変わっていない」と答弁。
http://freeasia2011.org/japan/archives/1510

 この通りだとすれば、大江議員に対する菅首相の答弁は、大枠として、明らかに自民党政権の姿勢を引き継いだものと位置付けられるだろう。
 「外国人登録法を昭和27年に制定して以来、台湾出身者は『中国』と表記。これは昭和47年9月の日中国交正常化の前も後も変わっていない」との森山法相の答弁からは、「昭和三十九年六月十九日付で出された法務省民事局長による「中華民国の国籍の表示を「中国」と記載することについて」という通達」に先立ち、外国人登録法については昭和27年の制定以来、「台湾出身者は『中国』と表記」していたことがわかる(そしてそれが「昭和47年9月の日中国交正常化の前も後も変わっていない」ということも)。
 また、昭和39年の「戸籍」上の表記をめぐる「通達」は、あらためて国籍に関する戸籍上の記載と外国人登録に際しての記載の整合を図ろうとしたものと推測し得る(縦割りの行政の中で、横断的に運用上の細部の整合を図るためには多大な労力が必要とされるという一事例にも見える)。

 

【註:2】
 当事者である台湾出身者の帰属意識に関係なく、それまでの中華民国国籍保有者が中華人民共和国籍保有者として見做されるという書類処理上の解釈変更により、「日中国交正常化」という(厄介な)事態への対応が図られたわけである。
 この、台湾出身者の戸籍上の法的身分の解釈変更(帰属する国家―国籍―の変更)という対応策は、日本国の行政官の負担の軽減には役立つものであっただろう。しかし、日本国の行政組織からそれを求められた際に、台湾出身者の出身地における身分の公的証明を発行するのは中華人民共和国政府の行政窓口ではなく、出身地である台湾で依然として実際の行政組織を運用する中華民国政府に属する行政官なのである。
 法的身分については中華人民共和国の国籍保有者とされた台湾出身者は、しかし同時に中華人民共和国のコントロールの及ばない台湾現地の(もちろん、日本国内の出先機関も含むものだが)行政組織、すなわち中華民国を名乗る行政組織によって台湾における法的身分の証明を受けることとなったのである。
 日本の行政官の負担の軽減の結果、台湾出身者には、より複雑な状況がもたらされ、ある種の行政手続きに際し、より大きな負担(当事者の帰属意識の無視は、それだけで当事者には心理的負担となる)が必要となってしまったわけである。
 いずれにせよ、当事者の帰属意識が完全に無視された中で、「日中国交正常化」を受けての行政処理の変更が行われ、様々な意味において台湾出身者の負担を増大させた事実には気付いておくべきだろう。
 今回の「二重国籍疑惑問題」も、このような歴史的背景の中で理解しなければならない。

 

【註:3】
 たとえば日本の外務省の報道発表において「中国」の名称が使用されている。

 → 第11回日中韓高級事務レベル協議(結果)(報道発表)(平成28年8月21日)
   (http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/press4_003612.html

 中華人民共和国の外務省も、自国を指すのに「中国」の名称を使用している。

 → 日本に慎重な行動を望む 参院選改憲派勝利で中国外交部(2016-07-12)
   (http://www.china-embassy.or.jp/jpn/fyrth/t1379421.htm

 ちなみに、台湾すなわち中華民国の国籍法の条文中でも、自称として「中国(中國)」が併用されている(特に、昭和39年の法務省通達から「日中国交正常化」、そして蓮舫嬢の日本国籍取得に至る時期に施行されていた条文を示してみた)。

 → 國籍法 (民國18年)
   (https://zh.wikisource.org/wiki/%E5%9C%8B%E7%B1%8D%E6%B3%95_(%E6%B0%91%E5%9C%8B89%E5%B9%B4)

 

【註:4】
 先に示した通り、この件に関しての日本政府見解は、

  現在の戸籍において国籍として表示される「中国」は、我が国が国家として承認しているところの「中国」を指すものであり、このような取扱いに問題があるとは考えていない。
     (答弁書第二五六号 平成二十三年八月十九日 内閣総理大臣)

 

【註:5】

     中華人民共和国国籍法
第1条
中華人民共和国国籍の取得、喪失及び回復は、すべて本法を適用するものとする。
第2条
中華人民共和頃は多民族による統一国家で、各民族に属する者は、すべて中国の国籍を有する。
第3条
中華人民共和国は中国の公民が2重国籍をもつことを認めない。

第4条
父母の双方又は一方が中国の公民で、本人が中国で生まれた場合は、中国の国籍を有する。
第5条
父母の双方又は一方が中国の公民で、本人が外国で生まれた場合は、中国の国籍を有する。ただし、父母の双方又は一万が中国の公民であるとともに外国に定住し、本人が出生と同時に外国の国籍を取得している場合には、中国の国籍を有しない。
第6条
父母が無国籍又は国籍不明で、中国に定住し、本人が中国で生まれた場合は、中国の国籍を有する。
第7条
外国人又は無国籍者は、中国の憲法と法律を遵守する意思を表示し、次の条件の1つを備えた場合には、申請、許可を経て中国国籍に入籍することができる。
 1 中国人の近親であること。
 2 中国に定住していること。
 3 その他の正当な理由があること。
第8条
中国国希への入考を申請して許可された者は、中国の国籍を取得する。中国の国籍入籍を許可された者は、もはや外国の国籍を留保することができない。
第9条
外国に定住している中国公民で、自己の意思によって外国の国籍に入籍し、若しくはこれを取得した者は、中国国籍を自動的に失う。

第10条
中国の公民は、次の条件の1つを備えた場合には、申請許可を経て、中国国籍を離脱することができる。
1 外国人の近親であること。
2 外国に定住していること。
3 その他の正当な理由があること。
第11条
中国の国籍離脱を申請して許可された者は、中国の国籍を失う。
第12条
国家の公務員と現役の軍人は、中国の国籍を離脱することができない。
第13条
かって中国の国籍を有したことがある外国人は、正当な理由がある場合には、中国国籍の回復を申請することができる。中国国籍の回復を許可された者は、もはや外国の国籍を留保することができない。
第14条
中国の国籍の取得、離脱及び回復については、第9条に規定した場合を除き、必ず申請の手続きを踏まなければならない。18歳末満の者は、その父母又はその他の法定代理人が代わって申請する。
第15条
国籍の申請を受理する機関は、国内では地元の市・県の公安局であり、外国では中国の外交代表機関と領事機関である。
第16条
中国国籍の入籍、離脱及び回復に関する申請は、中華人民共和国公安部がこれを審査し、許可する。許可された者には、公安部が証明書を交付する。
第17条
本法の公布される前に中国の国籍を取得し、又は中国の国籍を失つた場合には、それは引き続き有効である。
第18条
本法は、公布の日から施行する。
http://www011.upp.so-net.ne.jp/cnf/kakkoku_kokusekihou/china.html

 

【註:6】
 ただし、中華民国の国籍法では、他国籍取得による国籍離脱(国籍喪失)には内政部の許可が必要とされ、しかも年齢の制限があった。

      中華民国国籍法
第10条
中国人で、左の各号の1に該当する者は、中華民国の国籍を喪失する。
 (1) 外国人の妻となつた者で、国籍の離脱を申請し、内政部の許可を経た者。
 (2) 父が外国人であって、その父が認知した者。
 (3) 父が知れないか、または認知しない者であって、母が外国人であり、その母が認知した者。
② 前項第2号および第3号の規定により、国籍を喪失する者は、中国法により未成年であるか、または中国人でない者の妻である者に限る。
第11条
自己の志望により外国の国籍を取得する者は、内政部の許可を得て中華民国の国籍を喪失することができる。ただし、満20歳以上であって、中国法により能力を有する者に限る。

http://www011.upp.so-net.ne.jp/cnf/kakkoku_kokusekihou/china.html

 ちなみにこの日本語訳は「子どもの国籍を考える会」のサイトにあるものだが、どのような理由によるのかは不明だが、現行法(國籍法 (民國95年))の文言によるものではない。ただし、幸いなことに蓮舫嬢が日本国籍を取得した当時( 國籍法 (民國18年))の条文の文言の翻訳となっており、今回の問題の理解にはとても役に立つ。
  蓮舫先生当人がインタビュー(http://news.yahoo.co.jp/feature/349)で明らかにしているところによれば、蓮舫嬢の日本国籍選択・取得手続きは、日本の国籍法改正施行(1985年1月1日)の直後の同年同月21日であり、一方で当時の中華民国の出先機関である亜東関係協会に「国籍喪失」の手続きのために出向いている。
 「台湾語」での手続きは父が代行し、台湾語の理解出来なかった蓮舫嬢にはやりとりの内容はわからなかったという。しかし当時(17歳の高校生)の蓮舫嬢は、それで国籍喪失の手続きは終了したものと考えていた。
 いわゆる「台湾籍」が残存し現在に至っているのだとすれば、「自己の志望により外国の国籍を取得する者は、内政部の許可を得て中華民国の国籍を喪失することができる。ただし、満20歳以上であって、中国法により能力を有する者に限る」との国籍法の規定(満20歳以上)が、当時17歳の高校生であった蓮舫嬢を阻んだのだと推測される。成人後の「国籍喪失」の再申請がないままに現在に至り、いわゆる「台湾籍」が残されている可能性はある。
 蓮舫嬢の当時の年齢を考えれば、日本国籍の取得・中華民国国籍の喪失という二つの法的手続きの詳細を把握していなかったことは、声高に非難されるような話でもないように思われる。

 もっとも、日本国の戸籍簿上は、「日中国交正常化」の時点より中華民国の国籍保有者は中華人民共和国の国籍保有者として取り扱われており、国内法的に既に中華民国の国籍保有者と見做されていない蓮舫嬢に中華民国の国籍喪失手続が必要なものなのかどうかには議論の余地が残る(本文で明らかにしているように、私はその必要性を疑っている)。

 参考のために、中華民国の国籍法の当時の条文と現行の条文を原文で示しておく。

当時の国籍法条文(國籍法 (民國18年)
第十條
  中國人有左列各款情形之一者,喪失中華民國國籍:  
  一、為外國人妻,自請脫離國籍,經內政部許可者。  
  二、父為外國人,經其父認知者。  
  三、父無可考或未認知,母為外國人經其母認知者。  
  依前項第二、第三款規定喪失國籍者,以依中國法未成年或非中國人之妻為限。
第十一條
  自願取得外國國籍者,經內政部之許可,得喪失中華民國國籍。但以年滿二十歲以上,依中國法有能力者為限。

現行法条文( 國籍法 (民國95年)
第十一條 (喪失國籍之情形)
  中華民國國民有下列各款情形之一者,經內政部許可,喪失中華民國國籍:  
  一、生父為外國人,經其生父認領者。  
  二、父無可考或生父未認領,母為外國人者。  
  三、為外國人之配偶者。  
  四、為外國人之養子女者。  
  五、年滿二十歲,依中華民國法律有行為能力人,自願取得外國國籍者。  
  依前項規定喪失中華民國國籍者,其未成年子女,經內政部許可,隨同喪失中華民國國籍。

 

【註:7】
 固有名としての「台湾」は、行政上の地域名であると同時に、住民自身の出自・アイデンティティー構築の基盤としても機能する。
 まず台湾には先住民が存在し、その上に大陸系の人々が存在する。大陸系の人々にしても、清朝期からの住人の子孫もいれば、日本による植民地統治期の移住者(戦前からの住民は本省人と呼ばれる)、そして「戦後」に支配者として振る舞った国民党政府に連なる人々(いわゆる外省人)の子孫も存在する。それぞれに帰属意識の在り方は異なり、国民党系の外省人にとっては台湾は「中華民国」であっても、戦後の長い時期に外省人による統治から政治的に排除されていた本省人にとっては、必ずしも国民党の「中華民国」が帰属意識の対象であるわけではない(実際、2003年からは、中華民国政府発行のパスポートに「TAIWAN」の文字が併記されるようになってもいる)。
 戦後の歴史の中での本省人と外省人の対立の構図と同時に、大陸の共産党政権に対する独立的意識は両者に共有されてもおり、台湾住民の帰属意識を考える際には過剰な一般化への誘惑を避けねばならない。
 その上に重ねて、日本在住の台湾出身者の帰属意識の問題があり、彼らの間では、日本国内の公文書上での国籍表記を「中国」ではなく「台湾」とすることも求められており、総務省管轄の外国人住民基本台帳の「国籍・地域」欄等では既に実現されている。

 

【註:8】
 蓮舫先生の二重国籍疑惑については、国際法の原則的には日本国と中華人民共和国の(日本と中国の間の)二国間問題なのであり、そこでの台湾はあくまでも中国内の一地方として法的に位置付けられる。その構図の下では、既に本文中に示したように、中華人民共和国の国籍法上の身分の変更の事実が中華人民共和内の一地方の行政文書の記載内容より優先されるのは当然の話である。蓮舫嬢の日本国籍取得により、彼女の中国籍は自動的に抹消され、一地方の行政文書上の記載の残存放置は、彼女の責ではなく地方行政官の職務の問題なのである。
 しかし、このような認識は、台湾のナショナリストには容認し難いものでもあろう。
 今回の「台湾籍」をめぐる問題の背後には、国際社会の中での国家としての正統性をめぐる問題が潜んでおり、同時に台湾住民自らの、そして日本国内の台湾出身者の、帰属意識の対象の選択の問題―アイデンティティーの問題(しかも、むしろそこではナショナル・アイデンティティーの流動性が暴露されてしまってもいるのである)―が複雑に重なり合っているのである。産経新聞や百田尚樹先生による浅薄な非難とは別に、我々の属する近現代史の問題として、深く掘り下げるに値する話題であることも確かであろう。

 

 

 

 

 

(オリジナルは、投稿日時 : 2016/09/08 21:46 → http://www.freeml.com/bl/316274/284636/

 

 

 

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