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2015年7月27日 (月)

浮世絵の戦争画

 

 ついに東京も体温超え、という日の午後に原宿の太田記念美術館まで出かける。

 

 「浮世絵の戦争画―国芳 芳年 清親」と題された展覧会の最終日。今日しかないので、猛暑の中を美術館まで。

 

 出かけただけのことはある内容であった。

 

 

 「浮世絵」の中で戦争(合戦)をテーマにしたものが登場するのは18世紀になってからのようで、その時点での歴史となった合戦(源平から関ヶ原まで)の様子が描かれている(「戦争画」が歴史画であった事実は、江戸期が平和な時代であったことも意味する)。それまでの「浮世絵」に対して、新たに登場した「戦争画」の特徴は広い空間の中での群像描写(戦場を俯瞰するような構図)にあるらしい(もっとも時代と共に、あらためて戦闘渦中の個人(の奮戦)に焦点が当てられてもいく―引きの構図からクローズアップの迫力へ)のだが、まさに20世紀の戦争画(「先の大戦」としての大東亜戦争の際に描かれたもの)もまた(こちらは洋画家が主な担い手となるのだが)、その多くが(戦場における)群像描写で占められる(洋画の本家であるヨーロッパでは、群像描写が絵画の基本構図のひとつであったのに対し、「洋画」を「輸入」した日本では、大東亜戦争期の「戦争画」の時代になるまで、群像描写は追及されなかった)こととどこか重なるような気もして興味深かった。

 

 「浮世絵の時代」には幕末明治期も含まれるわけで、「戦争画」の主題も、過去の合戦から現在進行形の戦闘へと変化していく。

 幕末維新(西南戦争に至る)の内戦はまさに同時代の出来事であり、過去の合戦図に現在進行形の内戦の進行を忍ばせる手法(幕府による検閲への対処である)から始まり、現実の戦闘の状況を描く(現代のジャーナリズムにつながるような)出版物へと変化していく。

 そこで興味深いのは、白兵戦での個人の活躍(つまり銃ではなく刀での斬り合い―超近接戦闘―である)に主題を求めた迫力ある画面(現在のマンガの描写と重なる構図―そこで強調されるのは画面の主人公となる人物の勇猛さであり沈着さであり自己犠牲である)があると同時に、銃が主要兵器となる近代戦の時代を反映した構図では、両軍の間に空間が広がる―両軍の将兵の間に距離がある―状況が記録されていることである(近代の地上戦は銃剣ではなく銃弾によって闘われるのである―日露戦争、そして第一次世界大戦では機関銃の圧倒的な威力が示され、「白兵戦」に至る前に大部隊が全滅させられてしまう経験をする―にもかかわらず「白兵戦」に固執したのが「先の大戦」における日本軍であったにしても)。

 

 日清戦争から日露戦争となると(つまり対外戦争の時代である)、地上戦だけではなく海上戦(黄海海戦であり日本海海戦である)が戦争の勝敗の帰趨を決することとなる。大型の軍用艦の時代である。「海戦」を描こうとすれば、両軍の巨大な(近代兵器としての)軍用艦艇が画面を占め、戦闘に携わる個人の姿は見えなくなる(艦砲の射程距離が長くなれば、両軍艦艇をアップで一つの画面に収めることすら非現実的になる―従って、対米英戦争を描いた「戦争画」では、そのような構図は採用されていない)。

 それもまた近代の戦争の姿、ということであろう。「浮世絵の戦争画」の画面にも、戦争が近代戦へと変化する時代が見事に反映されているのである。

 

 

 「戦争画」を「戦争の視覚的記録を目指した絵画」と定義すれば、まさに「浮世絵の戦争画」は、その時代の戦争のあり方が反映された「戦争画」なのであった。

 

 問題意識が重なるものとして、昨年(2014年)の川崎市市民ミュージアムでの「日清・日露戦争とメディア」展も充実したもの(こちらは「錦絵」だけでなく、新たに登場した「写真」にも焦点が当てられていた)であったが、今回の太田記念美術館での「浮世絵の戦争画」は(文字通り)「浮世絵」と「戦争画」に絞り込んだ展示とすることで、「浮世絵」内部での画題としての変遷、構図のあり方(それは描き手としての画家の問題であると同時に、「戦争画」の消費者としての庶民の欲求が反映されたものだろう)等がクローズアップされ、そこに戦争の近代史の展開もが反映されていることが、見事に示されていたように思う(図録がないことだけが残念)。

 

 

 

 

 

(オリジナルは、投稿日時 : 2015/07/26 22:01 → http://www.freeml.com/bl/316274/251577/

 

 

 

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