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2015年2月22日 (日)

敗兵先戦而後求勝 (軍事的リアリズムと戦争)

 

 

 

     敗兵先戦而後求勝

 

 

 出典は『孫子』である。

 

 

     敗兵はまず戦いて而る後に勝を求む

 

 

 

 金谷治氏は、岩波文庫版の『孫子』に収録した現代語訳の中で、

 

     敗軍はまず戦争を始めてからあとで勝利を求めるものである

 

…と訳している。

 これだけではわかりにくいかも知れないので、ネット上にある読み下し文と訳文(http://kaburen.com/library/sonshi/son04.html)を用いて、全体の文脈の中での理解を試みよう。

 

 

  勝を見ること衆人の知るところに過ぎざるは、善の善なる者にあらず。戦い勝ちて天下善というは、善の善なる者にあらず。故に秋亳を挙ぐるも多力となさず、日月を見るは明目となさず。雷霆を聞くは聡耳となさず。古のいわゆる善く戦う者は、勝ち易きに勝つ者なり。故に善く戦う者の勝つや、智名なく、勇功なし。故にその戦い勝ちてたがわず。たがわざるは、その措くところ必ず勝つ、すでに敗るる者に勝てばなり。故に善く戦う者は不敗の地に立ち、而して敵の敗を失わず。この故に勝兵はまず勝ちて而る後に戦いを求め、敗兵はまず戦いて而る後に勝を求む。

 

 

   勝機を掴むのに一般人でもわかる程度なら、誰も名将とは言わない。同様に、戦いに勝って世間から名将だと賞賛される程度なら、本当の意味での名将とは言えないのである。何故なら、細い毛を持ち上げられても力持ちと言われないし、太陽や月が見えても視力が良いとは言われないし、雷鳴が聞こえても耳が良いとは言われないのと同じである。(つまり、一般人が凄いと気付く程度なら、実際は凄くないのである。)昔の名将と呼ばれる人たちは、無理なく勝てるときに勝っているのである。だから名将の勝利には、奇策だとか、知略だとか、武勇だとかの手柄話が何もないのである。何故なら、戦って勝つのに間違いない状況で勝っているからである。間違いないということは、自身は必勝の態勢で臨んでいるので、敵は戦う前から敗北しているのである。だから名将というのは、自身は不敗の地に立ち、敵を必敗の地に立たせるのである。必勝の軍は先ず勝利してから敵と戦うのに対して、必敗の軍は戦ってから勝利を探すのである。

 

 

 

 最後の部分は、金谷訳の方が理解しやすいかも知れない。

 

 

 

 

     敗兵先戦而後求勝

 

 

 総合的戦略を欠いたその場しのぎの「事変の拡大」の果ての対米英開戦と、その帰結としての(わが国体の危機的状況をさえ招いた)敗戦とは、まさに「敗兵先戦而後求勝」の二十世紀的事例であったと言えよう。教訓として学ぶべきは、軍事におけるリアリズムには、武力行使への積極性だけではなく、開戦の回避への努力も含まれるのだということである。

 今回の「イスラム国(IS)」をめぐる安倍氏の言動を振り返るにつけ、この孫子の言葉が現代においてもなおリアリティーを持つものであることを痛感させられる。

 「イスラム国」に対し、安倍氏が事態を主導することが出来ていなかった以上、「イスラム国」に翻弄され続けてしまった以上、ヨルダンに「イスラム国」への対応を丸投げするような事態にまで立ち至ってしまった以上、まさに「まず戦争を始めてからあとで勝利を求める」ような状況に陥ってしまっていたのであり、安倍氏は「イスラム国」との初戦で自ら敗れているようなものだ。

 このような人物が、「対テロ戦争」に国家を巻き込み、「対テロ戦争」の総指揮官であるという現実(テロとの戦争には「前線」と「銃後」の区別、そして「戦闘員」と「非戦闘員」の区別はないのである―既に日本国民のすべてがテロの対象となってしまったのであり、日本国内は戦場そのものなのだ)の危うさに気付くことが出来ないのも、一般人が真の名将を見抜くことが出来ないことの裏返しなのであろう。危機管理能力の高さは危機的状況が存在しないことによって示されるので、鈍感な人間に気付かれるものではないし、自ら危機的状況の発生を招き事態に翻弄されていたに過ぎないのにもかかわらず、危機への対処に奮闘し可能な限りのことをしたのだと鈍感な人々から評価されることさえあるのだ。

 

 

 

 いずれにせよ、孫子の時代と現代に断絶はない、ように見える。

 

 

 

 

 

(オリジナルは、投稿日時 : 2015/02/06 20:21 → http://www.freeml.com/bl/316274/238514/

 

 

 

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