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2014年3月 8日 (土)

産経の捏造 2 (櫻井よしこ氏と「人身売買」)

 

 

 前回は、「慰安婦問題」と「河野談話」をめぐる、「朝日新聞」ならぬ「産経新聞」の「捏造」という、実に日本の国益に有害な問題について指摘した(「産経の捏造 1 (「河野談話」と「強制連行」)」)。

 「産経新聞」によれば、「河野談話は、根拠もないまま慰安婦の強制連行を認めたもの」ということになるのだが、「河野談話」には「強制連行」を認める記述は存在しないし、そもそも、「強制連行」という語が、「河野談話」では一度も用いられていないのである(「河野談話」の中には「強制連行」という四文字は存在せず、 「強制」の二文字が一か所で用いられてはいるが、「連行」の二文字はそれ自体が存在しない)。

 

 

 

 さて、その「産経新聞」紙上でのオピニオン・リーダー的存在である櫻井よしこ氏も、大変に残念なことに、、「河野談話は、根拠もないまま慰安婦の強制連行を認めたもの」という「産経新聞」の「捏造」を信じているようである。

 櫻井氏によれば(【櫻井よしこ 美しき勁き国へ】 真実ゆがめる朝日報道 2014.3.3 03:13 「産経新聞」)、

 

  91年8月11日、大阪朝日の社会面一面で、植村隆氏が「『女子挺身隊』の名で戦場に連行され、日本軍人相手に売春行為を強いられた『朝鮮人従軍慰安婦』」を報じた。
  この女性、金学順氏は後に東京地裁に訴えを起こし、訴状で、14歳で継父に40円で売られ、3年後、17歳のとき再び継父に売られたなどと書いている。植村氏は彼女が人身売買の犠牲者であるという重要な点を報じず、慰安婦とは無関係の「女子挺身隊」と慰安婦が同じであるかのように報じた。それを朝日は訂正もせず、大々的に紙面化、社説でも取り上げた。捏造を朝日は全社挙げて広げたのである。

  この延長線上に93年の河野談話がある。談話は元慰安婦16人に聞き取りを行った上で出されたが、その1人が金学順氏だ。なぜ、継父に売られた彼女が日本政府や軍による慰安婦の強制連行の証人なのか。そのことの検証もなしに誰よりも「前のめり」になったのが河野氏だ。
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/140303/plc14030303220003-n2.htm
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/140303/plc14030303220003-n3.htm

 

…ということになるのだそうだ。

 

 櫻井よしこ氏は、「河野談話」作成の際の証人の一人であった金学順氏について、

  なぜ、継父に売られた彼女が日本政府や軍による慰安婦の強制連行の証人なのか。

…と問うことで、 「河野談話」の無効性を主張出来るのだと考えているらしい。

 しかし、金学順氏が「人身売買」により慰安婦とされたという事実は、むしろ、「河野談話」の適切性の証明にしかなり得ない。「なぜ、継父に売られた彼女が日本政府や軍による慰安婦の強制連行の証人なのか」と問うこと自体、慰安婦問題で何が問題とされているのかについての櫻井氏の無理解を示すものでしかない。「継父に売られた彼女」は「日本政府や軍」が関与した「人身売買」の「証人」そのものなのである。

 既に論じたように、「河野談話」は(慰安婦が軍により直接的・暴力的に拉致連行されたという意味での)「強制連行」を認めたものではない。「河野談話」の示しているのは、

 

  慰安婦の募集については、軍の要請を受けた業者が主としてこれに当たったが、その場合も、甘言、強圧による等、本人たちの意思に反して集められた事例が数多くあり、更に、官憲等が直接これに加担したこともあったことが明らかになった。

  なお、戦地に移送された慰安婦の出身地については、日本を別とすれば、朝鮮半島が大きな比重を占めていたが、当時の朝鮮半島は我が国の統治下にあり、その募集、移送、管理等も、甘言、強圧による等、総じて本人たちの意思に反して行われた。

 

…との認識なのであり、そこでは慰安婦の募集に際しての軍の関与の間接性が前提とされているのである。ただし、現実の運用においては「更に、官憲等が直接これに加担したこともあったこと」も事実として認定している、ということなのだ。「河野談話」の文言を、単純に「慰安婦の強制連行を認めたもの」として理解してしまうことは、官房長官の談話(という公文書)の読解としては未熟に過ぎるのである。

 

 再び、「河野談話」の文言に戻ると、

 

  今次調査の結果、長期に、かつ広範な地域にわたって慰安所が設置され、数多くの慰安婦が存在したことが認められた。慰安所は、当時の軍当局の要請により設営されたものであり、慰安所の設置、管理及び慰安婦の移送については、旧日本軍が直接あるいは間接にこれに関与した。慰安婦の募集については、軍の要請を受けた業者が主としてこれに当たったが…

 

…とあるように、「慰安所の設置、管理及び慰安婦の移送については、旧日本軍が直接あるいは間接にこれに関与した」とし、「募集」については間接的関与が基本であったとはしているが、要するに日本軍による日本軍のための慰安所であり慰安婦であったとの認識を示しているのである。その際に、関与の間接性により責任回避が可能とするのではなく、慰安所の存在、慰安婦の存在をシステムとして(軍により構築された制度として)捉えることで、システムを構築し運用し利用したことへの責任を明言しているところに「河野談話」の性格の特質を読み取らねばならない。

 関与の一局面での間接性を責任回避の理由とするのではなく、

 

  いずれにしても、本件は、当時の軍の関与の下に、多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題である。政府は、この機会に、改めて、その出身地のいかんを問わず、いわゆる従軍慰安婦として数多の苦痛を経験され、心身にわたり癒しがたい傷を負われたすべての方々に対し心からお詫びと反省の気持ちを申し上げる。

 

…との日本政府の認識を示したものなのである。

 

 金学順氏が「人身売買の犠牲者」となった背景には、「人身売買」を介して慰安婦を調達した軍の存在がある。「軍の要請を受けた業者」による「人身売買」に依存した制度を構築し運用し利用したことへの責任が問われているのであり、「人身売買」への「間接的関与」は責任回避の理由とはならないとの判断が、「河野談話」を支えているのだと理解しなければならない。

 

 

 そもそもの話、日本の近代の「公娼制度」を支えていた「人身売買」は、 既に1930年代の国際連盟婦人児童売買委員会の場で問題とされ、つまり国際的な批判の対象となっていたものなのである。たとえば、

 

  しかも一見同じように公娼制度を保持しているフランスなどとも異なり、日本では、多額の前借金に基づく女性の人身売買と、芸娼妓酌婦周旋業が国家公認されていたのであり、人身売買の慣行が本国だけでなく、国境を越えて合法的に、とりわけその植民地と勢力圏下の諸都市で広く行なわれていたということである。これは、国際連盟の婦女売買問題委員会の基準で言えば、「国際的婦女売買」が国家公認されているのに等しいということが、東洋婦女売買調査団と日本政府(朝鮮総督府・関東庁・内務省など)とのやりとりのなかで明らかにされていったのである。
  そのやりとりのなかで、調査団はとくに、①前借金契約と②芸娼妓酌婦周旋業について問題にした。前借金契約は当事者の女性自身の「自由意志」に基づくものだとする日本政府に対し、調査団は親による強制なのであり、違法化すべきだと主張した。また、道徳的人物のみに芸娼妓酌婦周旋業を許可しているとした日本政府に対して、調査団はこの種の職業自体が不道徳ではないのかと反論したのである。
(小野沢あかね 論文要旨 近代日本社会と公娼制度―民衆史と国際関係の視点から― 2011 http://www.soc.hit-u.ac.jp/research/archives/doctor/?choice=summary&thesisID=268

 

…ということなのである。金学順氏については、日本軍の用いた慰安婦が、「軍の要請を受けた業者」による「人身売買」により調達・確保されていた事実への「証人」として位置付け、理解する必要があるのだ。

 

 「人身売買」を慰安婦問題の正当化の理由にし、 「河野談話」の内容を非難しようとするのは、 仲間内でのみ通用する論法であり、国際的自滅行為であるに過ぎない。

 「河野談話」が示した、

 

  なお、戦地に移送された慰安婦の出身地については、日本を別とすれば、朝鮮半島が大きな比重を占めていたが、当時の朝鮮半島は我が国の統治下にあり、その募集、移送、管理等も、甘言、強圧による等、総じて本人たちの意思に反して行われた。

  いずれにしても、本件は、当時の軍の関与の下に、多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題である。政府は、この機会に、改めて、その出身地のいかんを問わず、いわゆる従軍慰安婦として数多の苦痛を経験され、心身にわたり癒しがたい傷を負われたすべての方々に対し心からお詫びと反省の気持ちを申し上げる。

 

…との認識は、慰安婦が軍により直接的・暴力的に連行されたかどうかではなく (その事実を認定するものとしてではなく)、当時から国際的に問題とされていた「人身売買」に基盤を置いた、慰安婦制度システム全体への日本としての責任を認め謝罪したものとして、 二十年が経過した現在においても、文言として適切なもの(「河野談話」には「人身売買」の有無への言及はないが、櫻井よしこ氏の指摘する金学順氏の証言内容は踏まえているわけである)なのである。

 「人身売買」は慰安婦制度をめぐる日本の大きな「弱点」なのであり(「金学順氏は人身売買の犠牲者だから慰安婦制度には問題がない」のではなく「金学順氏が人身売買の犠牲者であるところに慰安婦制度の問題がある」ということ)、その「弱点」を武器に慰安婦問題で闘おうとする櫻井よしこ氏には(「弱点」が武器として有効であると考える櫻井よしこ氏には)心底呆れるばかりである。

 

 

 

 

 

(オリジナルは、投稿日時 : 2014/03/07 14:49 → http://www.freeml.com/bl/316274/215713/

 

 

 

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