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2014年2月20日 (木)

従軍と軍属 3 (從軍するアテナ萬年筆)

 

 周知の通り、ネット上には様々なヨタ話が氾濫しているわけだが、

 

  従軍という言葉は軍属という正式な身分を表す言葉であって、それは軍から給与をもらっていることを意味する。

 

…というのもその一つであろう。既に「従軍と軍属 1」で取り上げたように、

 

  「軍属」は軍の法規に規定された地位・身分だが、「従軍」は法令上の用語ではなく、語義の範囲も広いのである。日清日露の戦争から昭和に至るまで、「従軍」という語と「軍属」という語の用語法の範囲は異なるものであり、「従軍という言葉は軍属という正式な身分を表す言葉」との主張は誤りなのである。

 

…ということなのだ。

 これは当時の用語法上の常識に属するものであり、当時の出版物を読む習慣のある人間なら知っていて当たり前の話に過ぎないが、ネット上のコピペ知識だけでモノを語ろうとする類いの人間には知られていない話であることも確かのようである。

 

 

 

 今回、あらためて、早川タダノリ氏の『神国日本のトンデモ決戦生活』(ちくま文庫 2014)に眼を通していたら、「丸善アテナ萬年筆」の広告に、背中に南方風の人物とアテナインクのインク瓶を載せ、長い鼻でペン(丸善アテナ萬年筆)を携えて前進する笑顔の白い象のイラストに、

  日語進駐にアテナも從軍

…とのコピーが添えられたものがあるのを発見した。『学生の科学』誌の昭和17年11月号に掲載されたものだという。

 言うまでもなく、インク瓶も万年筆も、「軍属という正式な身分」にはないし、「軍から給与をもらっている」わけではまったくない(コピーには「進駐」や「従軍」という語が用いられてはいるが、イラストでは南方風エキゾチズムを強調するだけで軍事的要素はない)

 手元にある当時の出版物のいくつかをチェックしたが、この広告と同じものは見つけられなかったので、残念ながら、ここで画像として紹介することは出来ない。

 

 

 

 その代わりというわけでもないが、手元にある昭和17年5月号の『航空朝日』に掲載された「さくらフヰルム」の広告に、

  寫眞も從軍

…とのコピーが付されているものがあった。

 

    寫眞も從軍(さくらフヰルム)

 

 「写真も従軍」(さくらフィルム)ということだが、こちらには、

   敵状の偵察に
   作戰記録に
   戰果の報導に

  寫眞は近代戰の武器

…という言葉も添えられている。

 もちろん「フヰルム」が「軍属という正式な身分」にあったわけはないし、「軍から給与をもらって」いたはずもないが、それでもこちらの広告では、「軍用」という側面(軍需物資的側面―近代戰の武器)が強調されてはいる。

 

 それに比べれば、「アテナインキ・萬年筆」の方は直接的な軍事利用というよりは、南方占領地における日本語普及のツール的側面(文化的側面)が強調されたものであり、軍需物資的側面をウリにしたものではない。

 早川氏の紹介する「丸善アテナインキ」の広告のコピーには、

  日本文化の尖兵として アテナが 堂々の無敵上陸 (昭和17年7月号)
  (イラストは、ヤシの木の下に、大きなインク瓶を載せた台車を引く親子のシルエット)

  巨歩堂々―― 文化使アテナが 共榮圏を乗り進む (昭和17年10月号)
  (イラストは、背中に大きなインク瓶を二つ載せた白い象と、その前を横切ろうとする子供のシルエット)

…というものもあり、いずれもが軍事力による南方進出をメタファーとして用いながらも、文化的ツールとしての側面が、あくまでも強調されているのである(イラストには軍事的な臭いがしない)。

 

 

 

 いずれにせよ、大東亜戦争二年目の雑誌広告を見るだけで、

  

  従軍という言葉は軍属という正式な身分を表す言葉であって、それは軍から給与をもらっていることを意味する。

 

…という主張が何の根拠もないヨタ話に過ぎないということは容易に理解出来るはずである。

 

 

 

 

 

(オリジナルは、投稿日時 : 2014/02/17 22:41 http://www.freeml.com/bl/316274/214714/

 

 

 

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