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2013年5月22日 (水)

橋下氏の終着点

 第一次安倍政権時の官邸によるプレスリリース用に作成されたと思われる文書には、記者団の前で安倍首相とブッシュ大統領の間に交わされた、次のような「慰安婦」をめぐるやり取りが掲載されている。

 
 

 

「平成19年4月27日キャンプ・デービットにて行われた
 安倍総理とブッシュ大統領による共同プレス行事(概要)」

(4)((安倍総理に対し)従軍慰安婦問題について、ブッシュ大統領に説明したのか。またこの問題について改めて調査を行ったり、謝罪をするつもりはあるのか、また(ブッシュ大統領に対し)人権問題について、またアジアの歴史認識についての貴大統領のお考えをお聞かせ願いたい、との問いに対し)
(安倍総理)慰安婦の問題について昨日、議会においてもお話をした。自分は、辛酸をなめられた元慰安婦の方々に、人間として、また総理として心から同情するとともに、そうした極めて苦しい状況におかれたことについて申し訳ないという気持ちでいっぱいである、20世紀は人権侵害の多かった世紀であり、21世紀が人権侵害のない素晴らしい世紀になるよう、日本としても貢献したいと考えている、と述べた。またこのような話を本日、ブッシュ大統領にも話した。
(ブッシュ大統領)従軍慰安婦の問題は、歴史における、残念な一章である。私は安倍総理の謝罪を受け入れる。自分は、河野談話と安倍総理の数々の演説は非常に率直で、誠意があったと思う。私は安倍総理と共に日米両国を率いていくことを楽しみにしている。安倍総理は安倍総理の思うところを率直に語ってくれた。その率直さを私は評価する。我々の仕事は、過去から教訓を得て、将来に生かすということである、そしてそれは正に安倍総理がしっかりとなさっていることである。
http://www.kantei.go.jp/jp/abespeech/2007/04/27press.html 

 

 
 当時の安倍総理は記者団に対し、

 

 慰安婦の問題について昨日、議会においてもお話をした。自分は、辛酸をなめられた元慰安婦の方々に、人間として、また総理として心から同情するとともに、そうした極めて苦しい状況におかれたことについて申し訳ないという気持ちでいっぱいである、20世紀は人権侵害の多かった世紀であり、21世紀が人権侵害のない素晴らしい世紀になるよう、日本としても貢献したいと考えている、と述べた。またこのような話を本日、ブッシュ大統領にも話した。

 

…と述べ、それを受けてブッシュ大統領は、

 

 従軍慰安婦の問題は、歴史における、残念な一章である。私は安倍総理の謝罪を受け入れる。自分は、河野談話と安倍総理の数々の演説は非常に率直で、誠意があったと思う。

 

…と安倍氏の言葉を「謝罪」として評価した上で「受け入れ」を表明しているのである。

 まず問題の焦点となるのは、安倍氏の、

  自分は、辛酸をなめられた元慰安婦の方々に、人間として、また総理として心から同情するとともに、そうした極めて苦しい状況におかれたことについて申し訳ないという気持ちでいっぱいである

…という発言で、それが「謝罪」であるにしても、誰に対するものであるかが問われることになるだろう。安倍氏の言葉は、論理としては、

  辛酸をなめられた元慰安婦の方々に…申し訳ないという気持ちでいっぱいである

…という形になる。である以上、ブッシュ大統領の「私は安倍総理の謝罪を受け入れる」という言葉は、

  私は安倍総理の・慰安婦に対する・謝罪を受け入れる

…として解釈されることになる。

 ここで重要なのは、ブッシュ大統領は、

  自分は、河野談話と安倍総理の数々の演説は非常に率直で、誠意があったと思う。

…という形で、安倍氏の、

  自分は、辛酸をなめられた元慰安婦の方々に、人間として、また総理として心から同情するとともに、そうした極めて苦しい状況におかれたことについて申し訳ないという気持ちでいっぱいである

…という「謝罪」の言葉を「河野談話」とセットにして、「非常に率直で、誠意があったと思う」と述べている点である。「謝罪」と「河野談話」がセットであることに、いわば念押しをされているような構図である。

 この言葉が掲載されているのが「安倍総理とブッシュ大統領による共同プレス行事(概要)」であり、官邸自らが発表した(つまり公式の)文書であることの意味は重い。

 安倍氏の言葉が「慰安婦に対する謝罪」であり、それが「河野談話」とセットのものとしてブッシュ大統領に評価された事実を、「官邸」の作成した文書が示していることになる。安倍氏の「謝罪」と「河野談話」の不可分性を、第一次安倍政権時の官邸自ら認めていることになるのだ。

 「安倍総理とブッシュ大統領による共同プレス行事」は日米間の公的な性格を持った「行事」であり、この「謝罪」と「河野談話」のいずれかを否定する試み、ましてや両者を否定しようとするような試みは、ブッシュ大統領が代表した米国に対する背信行為となってしまうのである。

 


 その構図を確認した上で、橋下徹氏による「慰安婦必要論」の論理について、というより「慰安婦必要論」の釈明の論理を考えてみたい。

 




 橋下氏の当初(5月14~15日)のツイート(http://twilog.org/t_ishin)には、

  日本の慰安婦制度が世界的な非難を浴びているのは、国を挙げて暴行脅迫をもって女性を拉致して慰安婦にさせたとされている点。この点については、僕は歴史家ではないので、具体的な事実を全て把握しているわけではないが、2007年の閣議決定で、それを裏付ける証拠は見当たらないとなっている。
     posted at 06:53:02 5月14日

  ただ国を挙げて韓国女性を拉致して強制的に売春させた事実の証拠がないことも、厳然たる事実。世界が誤解しているなら、日本が不当な侮辱を受けないために言うべきことは言わなければならない。だいたい、アメリカはずるい。アメリカは一貫して、公娼制度を否定する。現在もそうだ。
     posted at 07:16:43 5月14日

  この問題については当初より言っているが、国を挙げて女性を拉致したと言う事実があれば、それはある意味日本の特殊性になる。しかし現段階ではその証拠がないと言うのが日本政府の立場だ。このようなことは、グローバル化時代、国民はしっかり認識しなければならない。
     posted at 08:29:48 5月15日

…といった形で、「国を挙げて暴行脅迫をもって女性を拉致して慰安婦にさせたとされている点」についての問題意識が記されている。

 慰安婦が軍により組織的・暴力的に拉致連行された証拠の存在を問い、「国を挙げて韓国女性を拉致して強制的に売春させた事実の証拠がないこと」を指摘し、「現段階ではその証拠がないと言うのが日本政府の立場」であると説明し、「世界が誤解しているなら、日本が不当な侮辱を受けないために言うべきことは言わなければならない」と主張していたのである。

 橋下氏は、「政府が発見した資料には、軍や官憲によるいわゆる強制連行を直接示す記述は見当たらなかった」との閣議決定に依拠して、当初の論(のひとつ)を展開していたのである。いわゆる「狭義の強制性」の有無を問題とし、「現段階ではその証拠がないと言うのが日本政府の立場」であることを強調していたわけである。

 

 しかし、一方で、既に安倍氏は米国議会と大統領を前に、

  自分は、辛酸をなめられた元慰安婦の方々に、人間として、また総理として心から同情するとともに、そうした極めて苦しい状況におかれたことについて申し訳ないという気持ちでいっぱいである

…と述べてしまっている。これは、

  軍や官憲によるいわゆる強制連行を直接示す記述は見当たらなかった

…にもかかわらず、「謝罪」を表明していることを意味する。

 


 さて、5月19日の『産経新聞』は、その日の民放番組での橋下氏の主張を、

 

 日本維新の会共同代表の橋下徹大阪市長は19日の民放番組で、旧日本軍の従軍慰安婦について「暴行、脅迫、拉致を、国を挙げてやり、嫌がる女性に無理やり(慰安婦を)やらせた『性奴隷』と言われている。それは違う」と述べ、27日に東京で外国特派員協会に対し、こうした見解を説明する考えを示した。
(2013/05/19 14:13 産経新聞)
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/politics/diplomacy/655569/

 

…と紹介しているが、この、

  「暴行、脅迫、拉致を、国を挙げてやり、嫌がる女性に無理やり(慰安婦を)やらせた『性奴隷』と言われている。それは違う」

…という部分に着目すると、

  軍や官憲によるいわゆる強制連行を直接示す記述は見当たらなかった

…というのが事実であるにせよ、それは、

  暴行、脅迫、拉致を、国を挙げてやり

…の否定材料にはなり得ても、

  国を挙げて、嫌がる女性に無理やり(慰安婦を)やらせた

…という構図の否定にはなり得ないという問題の存在に気付く。

 「国を挙げて、嫌がる女性に無理やり(慰安婦を)やらせた」、その事実があるからこそ、安倍氏は、

  辛酸をなめられた元慰安婦の方々に…申し訳ないという気持ちでいっぱいである

…との「謝罪」の言葉を述べねばならなかったということなのである。

 その事実が存在しないのなら、一国の首相が軽々しく「謝罪」の言葉など述べるわけはない。そのように国際的には評価されてしまうものである(註:1)。

 

 この点に関しては、橋下氏も自身のツイッター上で、

  慰安所での慰安婦の生活や、慰安婦の心情をみるに、それは大変不幸なことであり、筆舌に尽くしがたい。このようなことが二度と起こらないようにするのは当然だ。
     posted at 15:21:52 5月14日

  軍が施設を管理し、意に反して慰安婦になった方が悲惨な境遇であったことは確かだが、これは他国の軍でもある話だ。
     posted at 15:27:37 5月14日

  当時意に反してそのような職に就かざるを得なかった方は大変不幸であり、その心身の苦痛は筆舌に尽くし難いものがある。ただそれは韓国人だけでなく、日本人も、その他世界各国の軍が活用していたいわゆる慰安婦制度の慰安婦も同じだ。
     posted at 00:14:09 5月15日

  現在、慰安婦制度が必要だとは言ったこともない。むろん、現在はあってはならない。むしろ、日韓基本条約がある中でも、意に反して慰安婦になった方へは配慮が必要だと言い続けている。
     posted at 11:44:56 5月15日

…などと慰安婦問題に関する見解を明らかにしている。橋下氏のツイートにある、

  意に反してそのような職に就かざるを得なかった方は大変不幸であり、その心身の苦痛は筆舌に尽くし難いものがある

…などという言葉は、

  国を挙げて、嫌がる女性に無理やり(慰安婦を)やらせた

…との認識を持っていればこそのものであって、そうでなければ、つまり、「それを望んだ女性に望み通りに(慰安婦を)やらせた」のであれば、それが「大変不幸なことであり、筆舌に尽くしがたい」ことだと言うなど、あり得ない話なのである。

 
 

 募集・徴募の時点での「強制」の有無がどうであろうが(「狭義の強制性」の有無がどうであろうが)、慰安所での慰安婦の取り扱いの実態が、「嫌がる女性に無理やり(慰安婦を)やらせた」状況(「広義の強制性」が明らかな状況)なのであれば(註:2)、そのような「慰安婦」の境遇について「性奴隷」と表現されても、文句を言うことは困難になる。

 自由意思で慰安婦を続けたものではなく、慰安婦を続けることを拒否可能な状況になかったのであれば(註:3)、それはまさしく「奴隷」の境遇である。

 これは論点を「狭義の強制性の有無」に絞ることをせずに、その都度の思い付きで論を展開したツケである。論点を「狭義の強制性の有無」に絞り、米軍に日本の(「最後の性行為に至らないところでの」合法的な)風俗業の活用を強弁するようなこと(註:4)をせずに、米国の世論を味方につけること(そのことの政治的重要性は計り知れない)に努力していれば、「軍や官憲によるいわゆる強制連行を直接示す記述は見当たらなかった」という日本政府の認識への国際的理解も少しは得られていたかも知れない。

 しかし、もはや手遅れである。「軍や官憲によるいわゆる強制連行を直接示す記述は見当たらなかった」という認識への国際的理解の獲得どころか、「性奴隷」としての日本軍の慰安婦という認識への国際的理解が深められるだけだ。

 弁護士による弁論術として、あまりに稚拙と言わねばならない。その上に米国世論をわざわざ敵にまわすような論法は、政治家のセンスとしても話にならない。

 


 もっとも橋下氏は、

 

 強制連行があろうとなかろうと、こういう制度を持ったことは申し訳ないし恥ずべきことだし、二度と繰り返してはならない
 『日本が強制連行をしたのではない』と言って、慰安婦問題を正当化しようとしたり、自分たちの責任を回避しようとしたりする人が非常に多い
(2013/05/16 12:31 産経新聞)
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/politics/politicsit/654768/

 

…と述べていた。橋下氏は、「強制連行があろうとなかろうと、こういう制度を持ったことは申し訳ないし恥ずべきことだ」と言い、慰安婦問題について日本には責任がありその責任を回避してはならないと主張してもいるのである。

 また、ツイッター上でも、

  自民党との違いが見えないと言うことですが、僕は敗戦国として侵略と植民地政策の評価は受け止めます。自民党は、ここを認めない人たちも多いのではないでしょうか?ここを否定するなら、もう一度戦争して戦勝国になるしかないでしょう。馬鹿げています。
     posted at 09:15:21 5月15日

  敗戦国として侵略の評価はしっかりと受け止めなければならない。日本の侵略の評価を否定する人たちは、武士道を重んじる人たちに多い。負けは負け。潔く負けを認めなければならない。そして周辺諸国に対しても多大な苦痛と損害を与えたのも事実。反省とお詫びをしなければならない。
     posted at 06:27:32 5月14日

  そして日本のこの立場は、一方当事者である日本から、敗戦後既に70年経ったからもうチャラにしてくれと言えるものではない。被害者、第三者の評価が重要。日本の態度振る舞い如何と時が解決するしかない。
     posted at 06:32:04 5月14日

  僕は、日本の侵略の事実、植民地政策の事実を敗戦国として認め、反省とお詫びをしなければならないことは大原則としている。
     posted at 08:33:19 5月14日

  ただし当時の世界の状況だったり、事実はしっかりと押さえなければならない。日本が不当に侮辱を受けることについては反論すべきだ。これまでの政府や政治家は、歴史認識になると、反省とお詫びだけで何も言わないか、それとも自己正当化だけで反省とお詫びを全くしないか、どちらかだった。
     posted at 08:36:04 5月14日

  日韓の間で法的な賠償問題は解決済みだからと言って、紋切り型の役所的な言葉を慰安婦の方にぶつけるのは政治家の態度振る舞いではない。法的な問題は解決済みであっても、言葉のかけ方、接し方は別だ。
     posted at 07:14:11 5月14日

  現在、慰安婦制度が必要だとは言ったこともない。むろん、現在はあってはならない。むしろ、日韓基本条約がある中でも、意に反して慰安婦になった方へは配慮が必要だと言い続けている。
     posted at 11:44:56 5月15日

…との見解を示している。つまり橋下氏は、当初から慰安婦問題への我々の責任を認め、日本による侵略を歴史的事実として認め、日本による植民地支配を歴史的事実として認めているのである。

 

 橋下氏の主張の終着点はというと、慰安婦問題への我々の責任を認め(強制連行があろうとなかろうと、こういう制度を持ったことは申し訳ないし恥ずべきことだし、二度と繰り返してはならない)、「性奴隷」という用語の妥当性を結果的に認め、それと引き換えに、かろうじて、世界を相手に、「世界各国がみんな当時やってたじゃないですかと。日本も悪いけれども日本だけが非難されるというのは不当な侮辱です」という主張を展開することにしかなりそうもない。

 いずれにしても、橋下氏によって、慰安婦問題への我々の責任は逃れようもないものとして明らかにされることになる(註:5)し、加えて橋下氏による、日本は侵略者であったし植民地支配をした責任もあるという主張も、世界の知るところとなる。

 私自身の問題としては、橋下氏がそのように主張することを止めようとはまったく思わない(註:6)が、石原慎太郎氏がそのような結末を求めているとは思えないし、現在、この問題に関して橋下氏を熱心に支持している人々の多くが、そのような終着点を求めているとも思えないのだが、まぁ、そこまで私が心配する必要はないということか?

【註:1】
 現在の第二次安倍内閣の慰安婦問題に対する公式見解を以下に示しておく。

 日本維新の会共同代表の橋下徹大阪市長が従軍慰安婦を容認する発言をしたことに対し、14日の閣議後の記者会見で閣僚から批判が相次いだ。
 稲田朋美行政改革担当相は「慰安婦は女性の人権に対する大変な侵害だ」と批判した上で、海兵隊員の風俗業活用発言に「意味が分からない」と不快感を示した。下村博文文部科学相も「あえて発言をする意味があるのか。党を代表する人の発言ではない」と酷評した。谷垣禎一法相は「今の時点で(慰安婦の)必要性を強調する必要があるのか。大変疑問だ」と論評した。
 菅義偉官房長官は「他党の発言なので、政府の立場でコメントすることは控えたい」と指摘。その上で「慰安婦問題は筆舌に尽くしがたい、つらい思いをされた方々の思い、非常に心が痛む。この点は安倍内閣として歴代内閣と同様の認識だ」と政府の立場を強調した。岸田文雄外相は外交への影響を問われ、「個々の問題が日韓関係全体に影響を及ぼさないよう、大局的見地からコントロールしたい」と述べた。
(2013/05/14 11:47 産経新聞)
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/politics/politicsit/654170/

 「慰安婦問題は筆舌に尽くしがたい、つらい思いをされた方々の思い、非常に心が痛む。この点は安倍内閣として歴代内閣と同様の認識だ」

 自由意思で慰安婦となり、自由意思で慰安婦を続けた状況があるのであれば、慰安婦を続けることを拒否可能な状況が常にあったというのであれば、「つらい思いをされた方々の思い、非常に心が痛む」などという認識を、日本政府が持つ必要自体が存在しないのである。

【註:2】
 日本人は前線に淫売婦を必ず連れて行った。朝鮮の女は身体が強いと言って、朝鮮の淫売婦が多かった。ほとんどだまして連れ出したようである。日本の女もだまして南方へ連れて行った。酒保の事務員だとだまして、船に乗せ、現地へ行くと「慰安所」の女になれと脅迫する。おどろいて自殺した者もあったと聞く。自殺できない者は泣く泣く淫売婦になったのである。戦争の名の下にかかる残虐が行われていた。
(高見順 『敗戦日記』 昭和二十年十一月十四日)

 高見順が記した状況が現実を反映しているからこそ、

  「慰安婦問題は筆舌に尽くしがたい、つらい思いをされた方々の思い、非常に心が痛む。この点は安倍内閣として歴代内閣と同様の認識だ」

…との日本政府の認識も生まれ、

  慰安所での慰安婦の生活や、慰安婦の心情をみるに、それは大変不幸なことであり、筆舌に尽くしがたい

…という橋下氏の認識も正当なものとして理解されるのである。

【註:3】
 植民地という当時の状況(橋下氏は「植民地支配」の事実を認めている)を考えれば、そこには日本人と朝鮮人の間に、権力における圧倒的に非対称的な関係がある。日本人は政治的にも経済的にも圧倒的な強者であり、朝鮮人は弱者であった。その弱者が「慰安婦」にならざるを得ない状況に追い込まれていたわけである。日本人慰安婦について考えればわかるはずだが、慰安婦になる動機は愛国心ではなく絶対的な貧困なのである(そうでなければ良家の子女-まずは高級軍人の子女-が率先して慰安婦となっていたはずである)。
 また、100人の人間を服従させるために100人全員に暴力をふるう必要はないという点にも配慮が必要だろう。見せしめは一人で十分なのである。
 実際には、詐欺的な募集が横行し、人身売買として理解される状況が多く存在していたことも確認されている。

 他国が利用した戦地での現地徴募での「慰安所」あるいは類似施設と、日本軍の慰安婦制度の違いは大きい。
 もちろん、 それは日本軍が現地徴募での慰安所開設をしなかったということではない。 中曽根氏の海軍の事例は現地での「土人」を慰安婦として活用している。
 しかし、朝鮮人慰安婦が問題になるのは、彼女らは現地徴募ではなく、故郷から遠く離れた戦地に日本軍の輸送船で送られ、自力での帰還不能な場に日本軍により開設された慰安所において、日本軍の軍兵に対する売春行為に従事させられていた点においてである。
 朝鮮人慰安婦は離脱不能な条件の下に売春行為を継続させられていたのだ。
 完全な自由意思の存在を主張することは困難である。

 しかし、それでも常に軍が前面に出て暴力的に拉致連行したものではないこと(国を挙げて暴行脅迫をもって女性を拉致して慰安婦にさせたとされている点)に関しては、現在のところ、一定程度の説得力を持つ主張たり得るものであるし、その主張をすることは国益に適うことではあるだろう。
 が、橋下氏は論点をその問題に絞り込むことに関心を示さず、「興奮してしゃべりまくる」ことに専念している(「ツイッター(twitter)は短文投稿サイトで「つぶやき」と訳されるが、英語では「鳥のさえずり」「興奮してしゃべりまくる」である」 2013/05/18 11:00 産経新聞 http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/politics/politicsit/655262/)。

【註:4】
 「星条旗新聞」(Stars and Stripes)2013年5月14日の「大阪市長:野蛮な海兵隊員は売春婦の利用を検討すべき」('Wild Marines' should consider using prostitutes)と題された記事には、在日米海軍の広報担当者による、「米兵は日本着任直後のオリエンテーションで、マッサージパーラーや同様の施設への出入りが禁じられていることを説明される」という話と共に、

 海軍は、売春婦、マッサージパーラー、ソープランドや、その他の性的サービスをひいきにする行為を許容しない。これらは、人権の尊重、品行方正、人間の尊厳といった我々の基本的価値観と完全に相容れないからだ

…との、米軍としての基本的立場が示されている(J-CASTニュース 5月15日(水)18時42分配信)。

 当初、この問題について橋下氏が何を主張していたかというと、

  僕が普天間の司令官に、風俗業の活用を進言したのは、法律違反のことをしろと言っているわけではない。朝日の記事によれば、米軍報道担当は、「法律違反の事はしない。橋下は馬鹿げている」と言ったとのこと。僕は、法律上認められている風俗業を活用しろと言ったんだ。建前は止めた方が良いと。
     posted at 07:24:20 5月14日

  米軍は、法律上認められている風俗業にも、出入り禁止としているらしい。出入り禁止としても、軍人の性的欲求が0になるわけではない。風俗業を活用したからと言って、沖縄での米兵の性的事件が収まるかは分からない。因果関係については立証はない。ただ、建前論は止めてくれと。
     posted at 07:27:13 5月14日

  要は人間の性的な欲求解消策について真正面から認めるのかそこに目を瞑るのかだ。経済後進国では女性が意に反してそのような職に就かざるを得ない状況もあるだろう。それは防がなければならない。しかし、日本をはじめ完全なる職業選択の自由がある国で、法律上認められた風俗業を否定するのか。
     posted at 07:41:37 5月14日

  僕は日本国において法律で認められた風俗業を否定することは、それこそ、自由意思でその業を選んだ女性に対する差別だと思う。米軍が、法律で認められた日本の風俗業を利用することは何ら問題はない。
     posted at 07:43:23 5月14日

  ただ当時の経済状況下では女性がそのような職に就かざるを得なかった場合もあるだろうから、全て良しとは言えない。しかし、今の日本において法律上認められている風俗業で働く女性の選択の意思は尊重されなければならない。今法律上認められている風俗業を否定することこそ、当該女性に対する差別だ。
     posted at 08:30:29 5月14日

  加えて僕が米軍に進言したのは、きちんと米兵の性的エネルギーをコントロールして欲しいと言うこと。これは時代を超えて、軍のオペレーションの最大の課題。そして法律上認められている風俗業の活用を持ち出したが、批判する人は風俗業を知らないだろうな。
     posted at 15:38:30 5月14日

  風俗業=売春業と早合点して、そんなことは法律では許されていない!と言う声。うちの母親もすぐにメールしてきた。今の法律では売春業は認められていない。しかしそのレベルに達しない所で、風俗業が法律上認められている。要は最後の性行為に至らないところでの風俗業。
     posted at 15:41:01 5月14日

  批判者は、風俗業=売春業=性行為と短絡的に考えているね。日本人は賢いから、性行為に至る前のところで、知恵をこらしたサービスの提供を法律の範囲でやっているよ。そして今の日本の現状からすれば、貧困からそこで働かざるを得ないと言う女性はほぼ皆無。皆自由意思だ。だから積極活用すれば良い。
     posted at 15:43:08 5月14日

  もし昔の時代のように、貧困から意に反して風俗業で働いている女性が多いと言うのであればそもそも風俗業自体を禁止にしなければならない。しかし今の法律ではそうは考えていない。昔の身売りの時代とは異なる。女性も自ら考えて職に就いている。嫌なら他の仕事に就けばいい。それが日本の風俗業の現実
     posted at 15:45:04 5月14日

  兵士の性をどのようにコントロールするか。それはいつの時代にあっても軍のオペレーションとしての最重要課題。だから沖縄の米軍基地を訪問したときにもう少ししっかりとやって欲しいと司令官に言ったんだ。法律上認められている風俗業を活用してはどうかと言ったら拒否された。売春じゃないんだけどね
     posted at 15:48:49 5月14日

  アメリカの国防総省からも、アメリカ軍は買春を拒否するとコメントをもらった。買春なんて誰も言ってないでしょ。日本の法律で認められている風俗業は買春でないことくらい国防総省は知らないのかね。買春は日本でも認められていない。繰り返すが、日本には法律上認められている風俗業が存在する。
     posted at 23:45:25 5月14日

  「沖縄に米軍基地は必要だ。米軍が日本の安全保障に貢献してくれて感謝している。しかし、沖縄で米軍が犯罪を犯す度に米軍への反感の念が強くなる。特に性犯罪については。もっと兵士の性的エネルギーをコントロールしてくれないか。法律上認められる風俗業の活用はどうだ」と言ったんだ。
     posted at 23:50:40 5月14日

  アメリカでは風俗と言えば即買春なのか。そんなことはないだろ。買春は日本でもダメだ。しかし買春でない法律上認められた風俗業が存在する。特に沖縄では米兵が日本人に対して性犯罪を犯す度に、日米間の信頼関係ががた崩れになる。これが基地問題にも影響する。
     posted at 23:54:41 5月14日

  だから建前論ではなく、本気で兵士の性的エネルギーをコントロールするための策を講じて欲しいと言ったんだ。法律上認められた風俗業の活用のどこが悪い。その業が、そもそも女性の人権を侵害していると言うなら、風俗業は全面禁止だろう。女性の人権侵害と言うなら、風俗業の全面禁止を主張すべきだ。
     posted at 23:58:11 5月14日

  米軍へ風俗活用を進言したこともメディアでは一斉に非難。じゃあ、米兵の性犯罪についてどのように迫るの?米兵の性的エネルギーをしっかりとコントロールして欲しいと司令官に申し入れた。朝日新聞の記者は、規律を厳格化するとか処罰を厳格化するとか要請したらいいじゃないかと言ってきた。バカか。
     posted at 22:43:42 5月15日

…と、自身のツイートで力説していたのである。
 その後の橋下氏の発言として、

 また橋下氏は「アメリカは自分たちの歴史を直視しないから、沖縄での人権蹂躙行為を本気になってやめようという改善策をやらない」と指摘しました。
(TBS系(JNN) 5月18日(土)12時39分配信)

…というものがある。この橋下氏の「指摘」自体は正しいが、 しかしその「改善策」として「風俗業の活用」を主張してしまった事実が、橋下氏の話を聞く者にはあらためて想起されてしまうことになる。

 橋下氏の、

  今の法律では売春業は認められていない。しかしそのレベルに達しない所で、風俗業が法律上認められている。要は最後の性行為に至らないところでの風俗業。

…に対し、

  海軍は、売春婦、マッサージパーラー、ソープランドや、その他の性的サービスをひいきにする行為を許容しない。これらは、人権の尊重、品行方正、人間の尊厳といった我々の基本的価値観と完全に相容れないからだ。

…というのが米軍の認識なのである。
 たとえそれが「最後の性行為に至らないところでの風俗業」であろうが、あくまでも、

  人権の尊重、品行方正、人間の尊厳といった我々の基本的価値観と完全に相容れない

…ということなのであって、橋下氏の主張は、米軍の価値観に基本的な部分で抵触しているのだ。

 「沖縄での人権蹂躙行為を本気になってやめようという改善策」、それを米国に求めることは正当である。
 しかしその「改善策」として橋下氏が示し、強弁したのが「風俗業の活用」であった。「最後の性行為に至らないところでの風俗業」であろうが、米軍側の認識としては「人権蹂躙行為」なのである。
 米軍に対し「人権蹂躙行為」を提案した当人が、米軍の「沖縄での人権蹂躙行為」を非難している構図になってしまっているのだ。

 「アメリカでは風俗と言えば即買春なのか。そんなことはないだろ。買春は日本でもダメだ。しかし買春でない法律上認められた風俗業が存在する」と橋下氏は主張し、「最後の性行為に至らないところでの風俗業」の「合法性」を力説し、「僕は、法律上認められている風俗業を活用しろと言ったんだ。建前は止めた方が良い」とまで言っていたわけだが、そのような日本の法律上の「合法性」自体が「建前」であることには当人は徹底的に無自覚である(補注:1)。
 日本の法律上の合法性を根拠とした橋下氏の提案を拒否した米国に対し、「建前」と言い募って批判するのは、米国の歴史文化的背景への、あまりの認識不足というものであろう(これは「教養」の問題である)。
 ここでの米国の「建前」は、米国の歴史文化の根幹となるような種類の「建前」なのであって、共和党支持者であろうが民主党支持者であろうが、保守であろうがリベラルであろうが、米国民に深いところで共有されている「建前」なのである。
 橋下氏の主張が米国民に対し説得力を持ち得るはずはないのである(米軍は、その国民によって選出される議会と大統領に拘束される存在である)。
 この時点で橋下氏は米国民を敵にまわしたも同じである。

【註:5】
 また、橋下氏は第二次世界大戦中の慰安婦制度をめぐる自身の発言と西村氏の今回の発言との違いを問われ、「全然違う。僕は慰安婦を侮辱する意図は全くない」と強調。その上で「日本国民は慰安婦問題をずっと背負う。自分たちの先祖がやったことを正当化するのは言語道断だが、それに加えて(慰安婦を)侮辱することはあってはならない」と改めて持論を展開した。
(2013/05/17 22:27 産経新聞)
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/politics/politicsit/655176/

橋下氏は、

  日本国民は慰安婦問題をずっと背負う。自分たちの先祖がやったことを正当化するのは言語道断だが、それに加えて(慰安婦を)侮辱することはあってはならない

…と、強く主張しているのである。

【註:6】
 問題のそもそもの発端となった13日の記者会見での、

  軍の規律維持のために、慰安婦制度は当時は必要だった。

…という橋下氏の見解などは、「慰安婦制度」への軍の主体的関与を認めるものであるし、「慰安婦制度」の成立理由を考えれば、むしろ歴史的理解として正確なものだと言い得るものとして、私はこの発言をまったく問題視しないし、積極的に肯定評価している。問題の記者会見時の、

  慰安婦制度じゃなくても、風俗業は必要。普天間飛行場に行った時、「もっと風俗業を活用してほしい」と言ったら、米海兵隊司令官は凍り付いたように苦笑いして「米軍では禁止している」と。建前論ではだめだ。そういうものを真正面から活用してもらわないと、海兵隊の猛者の性的なエネルギーはきちんとコントロールできない。

…という橋下氏の主張と併せ考えれば、「軍の規律の維持のため」という言い回しの焦点となるのは、軍兵による婦女暴行・強姦という形での軍紀の乱れということになり、まさに南京攻略戦の過程で日本軍が直面することになった、戦時強姦の多発という事態が想起されざるを得ない。大日本帝國陸軍が見舞われた「軍の規律」の喪失という事態である。その問題に対処するための「慰安婦制度」の考案こそが、日本軍における「軍の規律の維持」のためのアイディアだったのである。

【補注:1】
 橋下氏の、

  批判者は、風俗業=売春業=性行為と短絡的に考えているね。日本人は賢いから、性行為に至る前のところで、知恵をこらしたサービスの提供を法律の範囲でやっているよ。そして今の日本の現状からすれば、貧困からそこで働かざるを得ないと言う女性はほぼ皆無。皆自由意思だ。だから積極活用すれば良い。

  もし昔の時代のように、貧困から意に反して風俗業で働いている女性が多いと言うのであればそもそも風俗業自体を禁止にしなければならない。しかし今の法律ではそうは考えていない。昔の身売りの時代とは異なる。女性も自ら考えて職に就いている。嫌なら他の仕事に就けばいい。それが日本の風俗業の現実

…という主張自体が、まさに「建前」でもある。

 確かにヘルスやピンサロなどの合法風俗と非合法の売春とをごっちゃにして、批判されている面はある。風俗業界の反応はどうか。風俗情報誌「俺の旅」の生駒明編集長は「橋下氏の言わんとすることは分かりますが、業界からすると触れないでほしい」と話す。
 「公の場で風俗のことは言ってほしくない。そっとしておいてほしい。目立つと摘発されるのが、この業界の常識です。一方、摘発を指示した政治家の株は上がる。そうなれば働いている人たちがダメージを受けてしまいます」(生駒氏)
 橋下氏の風俗に対する認識にも間違いがあるという。「貧困で働く風俗嬢が皆無なんてことはない。お金に困っている女性が消極的選択で働いているケースもある。現代の格差社会において、風俗は働き場のない女性のセーフティーネットなんですよ。橋下氏は風俗について知らないのでしょう」(同)
(東スポWeb 5月16日(木)11時48分配信)

 橋下氏の、

 そして今の日本の現状からすれば、貧困からそこで働かざるを得ないと言う女性はほぼ皆無。皆自由意思だ。
 昔の身売りの時代とは異なる。女性も自ら考えて職に就いている。嫌なら他の仕事に就けばいい。それが日本の風俗業の現実

…との主張に対し、生駒氏は、

 貧困で働く風俗嬢が皆無なんてことはない。お金に困っている女性が消極的選択で働いているケースもある。現代の格差社会において、風俗は働き場のない女性のセーフティーネットなんですよ。橋下氏は風俗について知らないのでしょう

…と、問題の所在を指摘しているのである。生駒氏の「現代の格差社会において」との認識は重要である。(5月25日追記)

(オリジナルは、  
  投稿日時 : 2013/05/21 23:23 → http://www.freeml.com/bl/316274/203715/
  投稿日時 : 2013/05/21 23:26 → http://www.freeml.com/bl/316274/203716/
  投稿日時 : 2013/05/21 23:27 → http://www.freeml.com/bl/316274/203717/

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