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2013年4月30日 (火)

従軍と軍属 2 (ネズミとリスの中間の味)

 

 「従軍」という語をテーマに考えをめぐらす中で手に取った一冊が、フィリップ・ナイトリーの『戦争報道の内幕 隠された真実』(中公文庫 2004)であった。

 

 以前に読んでいるのだが、(情けないことに)ほとんど内容は忘れている。

 

 

 ちなみに、「従軍記者」の英訳は一般的に ”war correspondent” が用いられているようだが、"war correspondent" をそのまま日本語に訳すと「戦争特派員」となる。『ウィキペディア』の英語版では、

  A war correspondent is a journalist who covers stories firsthand from a war zone.

…となっている。日本語の「従軍」では「戦争」との直接の関係よりは「軍」との関係に焦点が当てられ、英語の "war correspondent" では「戦争(war)」あるいは「戦場(war zone)」との関係に焦点があるように見える。

 ナイトリーの著作で「従軍記者」と訳されている語の原語表記はわからないが、"war correspondent" であると推測して大きな誤りはないであろう。

 

 

 

 ナイトリーの著作は、ウィリアム・ハワード・ラッセルによるクリミア戦争取材の逸話から始まる。1854年の話である。ナイトリーは、近代ジャーナリズムとしての新聞と戦地取材の関係という視点からラッセルの存在に着目しているのである。

 普仏戦争の取材に活躍した記者として、ナイトリーは、アーチボルト・フォーブズとヘンリー・ラブシェアの名を挙げているが、ここではラブシェアのエピソードを紹介しておきたい。

 

 

 フォーブズが包囲中のプロシア軍に随行して独創性を発揮していたとき、イギリスの新聞オーナーで、フォーブズ以上に多彩な才能を持つヘンリー・ラブシェアは、包囲下のパリの生活を刺激的かつ娯楽的に描いて、『デーリー・ニューズ』の読者を喜ばせていた。銀行家の息子ラブシェアは、ウィットに富み、才能に恵まれ、いくらか好事家(ディレッタント)的傾向があった。ケンブリッジの学生時代には賭けで六〇〇〇ポンドの借金を作ったし、外交官になったものの、ブエノスアイレス駐在イギリス大使館の二等書記官に任命されたとき、バーデンバーデンを行動の根拠地として認めてくれないのを不服として、この任命を拒否し、早々に外交官生活をやめてしまった。その後『デーリー・ニューズ』の株主になっていたが、包囲下のパリに足止めを食うと、同紙の子持ちの駐在通信員を説得して、パリを出る最後の列車に乗せた。そのあとラブシェアは気球を使って一連の速報を送り始めたが、『デーリー・ニューズ』は、フランス人による報復行為からラブシェアを守るため、「包囲下の一市民」の署名で、これらの記事を掲載した。
 ラブシェアは、従軍記者に期待されていた強がりを軽蔑した。「私は、遠くから戦闘の匂いを嗅ぎつけて、その真っ只中に急行するという抗し難い欲望は持ち合わせていない。自分の好奇心を満たすためだけに頭部に砲弾を受けるなどは、私には愚の骨頂としか思えない……」。そこでラブシェアは一〇人から一二人が殺される毎日の砲撃のことは無視し、食糧補給が途絶えたために動物園の獣を食べ、やがてこれまでは食物と思われなかった物まで料理し始めたパリ市民の生き残りの決意を克明に書くことに専念した。
 ラブシェアが最近食べた献立の記事に読者はぞっとしながらも、『デーリー・ニューズ』の発行部数は着実に伸びていった。彼によると、猫は「ネズミとリスの中間の味ながら、独特の風味がある。美味である。子猫は、玉ネギで蒸し煮にするか、シチューにすると最高である」。ロバはマトンに似ているし、「ドブネズミのサラミ」はカエルとウサギの中間の味がした。イギリス人の彼には、犬を喰うのはとても無理だった。「私は、人間の友である犬を食べるときは、罪悪感をおぼえる。こないだはスパニエルを一切れ食べた。決して悪い味ではなく、子羊のようだったが、人食い人種の気分だった」
     ナイトリー 前掲書 37~38ページ

 

 

 しかし…「ネズミとリスの中間の味」とはどんな味なのだろうか?
(この一件で、当初の「従軍」という語の問題はどっかに行ってしまうことになるが、これぞ読書の醍醐味であって、ネット上で都合のよい情報だけを漁る輩には味わえない瞬間であろう)

 

 

 

 

 

(オリジナルは、投稿日時 : 2013/04/24 21:42 → http://www.freeml.com/bl/316274/202815/

 

 

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