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2012年5月31日 (木)

「震災がれき」は「放射性がれき」なのか?

 

 どのような事態に対してであれ、どのような問題に対してであれ、適切に対処するためには、事態を出来る限り正確に把握し、問題を熟知しようとする努力が必要となる。

 

 つまり、自分が何に対しているのかを知ろうとすることである。自分が対応しなればならないのはどのような事態であり、どのような問題であるのか?

 まず、そのような事態把握、問題把握への努力を抜きにしては、適切な対処など出来るものではない。

 

 

 そんなことを、このところ、「震災がれき受け入れ」の是非をめぐる問題への対応を迫られる中で、あらためて痛感させられたのであった。

 

 

 私自身は70年代からの反原発派である。

 その私から見て、「震災がれき受け入れ」への反対運動は実に奇妙に映るものであった。私と同じような反原発歴の長い友人達にも、同様に「震災がれき受け入れ反対運動」への違和感を持つ者が多い。まず、そのような事実がある。

 

 

あらためて、問題を整理してみると、詰まるところ、論点としては、

 

  受け入れ処理を要請されている「震災がれき」が、
  「放射性がれき」として取扱われるべきものであるのかどうか?

 

…という一点に尽きるように思われる。

 

 そして、結論としては、

 

  受け入れ処理を要請されている「震災がれき」は、
  「放射性がれき」として取扱われるべき性格のものではない

 

…という以外にはあり得ず、「震災がれき受け入れ反対運動」は合理的根拠を欠いたものと判断せざるを得ない。

 

 

 論点がよく整理されたものとして、

  河野太郎公式ブログ ごまめの歯ぎしり
  震災がれき
  http://www.taro.org/gomame/cat51

  がれき処理 復興の大前提
  広域処理 安全性確保に万全
  共産党県議 斉藤信さんに聞く
  http://www.jcp.or.jp/akahata/aik12/2012-05-/2012052401_04_1.html
  (2012年5月24日(木) しんぶん赤旗)

  北九州市環境局「災害廃棄物の受入検討に関するQ&A」
  http://www.city.kitakyushu.lg.jp/files/000113236.pdf

…を挙げることが出来る。

 

 

 河野太郎氏は「震災がれき受け入れ」について肯定的に考える際の理路を的確に示しているが、先に提示した論点については、

  ↓ ↓ ↓

さて、黒岩知事が受け入れを表明した震災がれきの発生地の岩手県宮古市は、福島第一原発から260km離れています。川崎市や横浜市は、むしろ宮古市よりも原発事故地に近いぐらいです。
福島第一原発からの距離を比べてみると、
宮古市  260km
横浜市  253km
川崎市  242km
相模原市 254km
横須賀市 267km

そして、2012年1月28日の空間放射線量率の最大値は
宮古市  0.052マイクロシーベルト/時間
茅ヶ崎市 0.047マイクロシーベルト/時間

つまり、宮古市は、福島第一原発の事故の影響を神奈川県よりも強く受けたわけでもありませんし、現在の放射能濃度は神奈川県とほぼ同じレベルです。

さらに、神奈川県が受け入れるがれきの放射能濃度は、1kgあたり100ベクレル以下のものに限られます。この1kgあたり100ベクレル以下の物質は、定義上も通常の廃棄物であり、通常は、放射性物質としては取り扱われません。

やはりがれきの受け入れを表明している東京都が、実際に宮古市からがれきを持ってきて、東京都内の施設で選別・破砕した可燃物の放射性物質濃度を測定したデータがあります。

データは三つのケースに分かれていて、

A 都内のゴミと完全に分け、確実に震災がれきだけの状態で処理して放射性物質濃度を測った場合

B 一つのラインで、時間帯を分けて都内のゴミと震災がれきを流した場合(つまり若干都内のゴミが混ざった状態)

C 都内のゴミと震災がれきが混ざった状態で流した場合

Aは検出限界(40ベクレル/kg)以下、Bは60ベクレル/kgと95ベクレル/kg、Cは111ベクレル/kg。このデータを見ると、論理的に考えて、都内のゴミの放射性物質濃度のほうが宮古市のがれきよりも高いことになります。

2011年9月14日に宮古市清掃センターの焼却灰の放射性物質濃度を宮古市が測定したデータは、133ベクレル/kgでした。

私の地元の相模川流域下水道右岸処理場の汚泥の焼却灰の放射性物質濃度は、2012年1月16日の測定で、1024ベクレル/kgでした。つまり、宮古市のがれきの焼却灰は、実際には、神奈川県の下水処理場の汚泥の焼却灰よりも放射性物質濃度が低いことになります。
http://www.taro.org/2012/02/post-1159.php

  ↑ ↑ ↑

…として、「震災がれき受け入れ」の論拠としている。「震災がれき」を「放射性がれき」として取扱うことに根拠はないという判断である(註:1)。

 

 共産党岩手県議の斉藤信氏は、「震災がれき受け入れ」を要請する被災地の立場から、

  ↓ ↓ ↓

 県は、県内で最大限処理に努力し、525万トンのうち355万トンを県内で処理する計画を立てています。

 民間企業の太平洋セメントで1日の処理能力が最大1000トン。宮古市に日量95トンの仮設焼却炉、釜石市に同100トンの仮設溶融炉を活用し、内陸部の施設もフル活用します。

 それでも処理しきれない約120万トンを広域処理でお願いせざるをえません。

 広域処理をめぐり、東京電力福島第1原発事故による放射能の問題で住民のみなさんに不安が広がっています。

 ここで強調したいのは、私たちがお願いしたいのは、放射性廃棄物ではなく、災害廃棄物だということです。

 受け入れ自治体はそれぞれ独自に、安全性を確保し、住民の納得を得られるように基準を設けています。国は焼却前の目安で240ベクレル/1キログラム以下または480ベクレル/1キログラム以下を示していますが、秋田、埼玉、静岡の各県は、搬出時100ベクレル/1キログラム以下を基準としています。岩手県は、受け入れ側の基準に沿って対応しています。

 4月から5月にかけての実際の測定値は、陸前高田市で58ベクレル、山田町で16・8ベクレル、野田村で18・4ベクレル(いずれも1キログラムあたり)です。

 100ベクレル/1キログラムは、一般廃棄物として扱ってよいとされる、原発事故前からの基準です。岩手県の震災がれきの実測値はこれを大幅に下回っています。

  ↑ ↑ ↑

…と述べているが、そこに河野太郎氏と同様の理路があることを理解するのは容易なはずだ(註:2)。

 

 北九州市環境局も同様に、

  ↓ ↓ ↓

Q10 石巻市も放射能で汚染されているのではないか。

A10 石巻市の放射線量は、4月5日に現地の一時仮置き場で暫定的に調べた時も0.02~0.07μSv/h程度で、本市と同程度か、若干低いレベルであった。
 災害廃棄物の放射能濃度については、ほとんどが100Bq/kg以下の「放射性物質に汚染されたものとして扱う必要のないもの」となっている。

 ↑ ↑ ↑

…という説明の仕方をしており(註:3)、三者共に、

 

  受け入れ処理を要請されている「震災がれき」は、
  「放射性がれき」として取扱われるべき性格のものではない

 

…という形で、問題の把握をしていることは明らかであろう。

 

 

 いずれにしても、「震災がれき」の受け入れ条件を明確にしておくことは重要であるが、最初から「震災がれき=放射性がれき」として位置付け、「受け入れ絶対阻止」を市民としての運動の目的とすることには、合理的理由は見出されないように思われる(註:4)。

 

 もちろん、行政の対応への監視は常に必要であり、そこに市民運動の意義があることは言うまでもない話である。

 しかし、市民運動の意義は社会的責任と一体のものであることも忘れてはならない。行政への異議申し立ても市民運動の役割だが、異議申し立ては事実に基づくものでなければならないのである。

 今回の「震災がれき」に関して言えば、それが「放射性がれき」と呼び得るものであるのかどうかは、対象となる「がれき」の放射線量の測定によってのみ判断されなければならない。測定の結果が示すのは、

  受け入れ処理を要請されている「震災がれき」は、
  「放射性がれき」として取扱われるべきものではない

…と言わざるを得ないということ以外にない。

 である以上、処理を要請されている「震災がれき」を「放射性がれき」と位置付け、「受け入れ絶対阻止」を市民運動の目的とすることは完全な誤りである。社会的責任の自覚があるならば、運動の方向転換以外の選択肢はないはずである。

 

 

 

【註:1】
 ただの「震災がれき」と「放射性がれき」は明確に区別して取り扱われなければならないが、それは対象となる「がれき」の放射線量の測定によってのみ判定可能な事項である。

 河野太郎氏は、
  ↓ ↓ ↓

そして、2012年1月28日の空間放射線量率の最大値は
宮古市  0.052マイクロシーベルト/時間
茅ヶ崎市 0.047マイクロシーベルト/時間
つまり、宮古市は、福島第一原発の事故の影響を神奈川県よりも強く受けたわけでもありませんし、現在の放射能濃度は神奈川県とほぼ同じレベルです。

A 都内のゴミと完全に分け、確実に震災がれきだけの状態で処理して放射性物質濃度を測った場合
B 一つのラインで、時間帯を分けて都内のゴミと震災がれきを流した場合(つまり若干都内のゴミが混ざった状態)
C 都内のゴミと震災がれきが混ざった状態で流した場合
Aは検出限界(40ベクレル/kg)以下、Bは60ベクレル/kgと95ベクレル/kg、Cは111ベクレル/kg。このデータを見ると、論理的に考えて、都内のゴミの放射性物質濃度のほうが宮古市のがれきよりも高いことになります。

  ↑ ↑ ↑
…といった実際の放射線量の測定値を示すことで、宮古市の「震災がれき」を「放射性がれき」と呼ぶことが不適切であることを明らかにしたわけである。
 都内で収集され焼却処理対象とされた(つまり「放射性廃棄物」として取扱われていない)ゴミと比較して、宮古市の「震災がれき」の放射線量値の方が低い以上、宮古市の「震災がれき」を「放射性がれき」として取扱うことは適切ではないのである。

【註:2】
 斉藤信氏が示しているのは、
  ↓ ↓ ↓

 受け入れ自治体はそれぞれ独自に、安全性を確保し、住民の納得を得られるように基準を設けています。国は焼却前の目安で240ベクレル/1キログラム以下または480ベクレル/1キログラム以下を示していますが、秋田、埼玉、静岡の各県は、搬出時100ベクレル/1キログラム以下を基準としています。岩手県は、受け入れ側の基準に沿って対応しています。
 4月から5月にかけての実際の測定値は、陸前高田市で58ベクレル、山田町で16・8ベクレル、野田村で18・4ベクレル(いずれも1キログラムあたり)です。

  ↑ ↑ ↑
…といった事例だが、例示された岩手県陸前高田市、山田町、野田村の「震災がれき」を「放射性がれき」として取扱おうとすることは、明らかに不適切である。
 斉藤氏の「私たちがお願いしたいのは、放射性廃棄物ではなく、災害廃棄物だということです」という言葉には率直に耳を傾けておくべきである。

【註:3】
 災害廃棄物に関して、100Bq/kg以下であれば「放射性物質に汚染されたものとして扱う必要のないもの」とするのは震災(原発事故)以前からの基準であり、石巻市の「震災がれき」の「ほとんど」がそれ以下の線量であるという以上、その「ほとんど」は「放射性がれき」として取扱われるべきものではない。100Bq/kgを超えるものについては受け入れなければ済む話であり、搬出・搬入前の放射線量の測定で判別・除外出来るはずである。
 また、それぞれの受け入れ自治体で独自の受け入れ基準を作ることは、斉藤信氏が言及しているように、既に実行されている。ただし独自基準作成の際には、それぞれの自治体の焼却ゴミの放射線量の平均値を基準にすべきで、それより極端に低い値を求めることは合理的とは言えないであろう。

【註:4】
 「震災がれき」の処理については、地元の雇用を生み出すものとして地元での対応を求める被災地の声が無視されているとの話もあるらしい。
 その点について、河野太郎氏は、まず、
  ↓ ↓ ↓

Q 岩手県の岩泉町長は、時間をかけてでも地元で処理した方がよいとおっしゃっているようですが。

A 町長から直接お話を伺っていないので、意図をよく理解できているかどうかわかりませんが、岩泉町の場合、環境省のデータによると、がれきの総量が4万2千トン、すでに解体するものを含め、ほとんど仮置き場に移動できています。
これが、たとえば陸前高田市だと101万6千トン、気仙沼市136万7千トン、石巻市だと616万3千トンのがれきになります。
また、石巻市などは、仮置き場が一杯なので、仮置き場のがれきを焼却などで処理してから、壊れて残っている建物の解体を始めることになります。解体により生じるがれきを含めるとまだ、半分近くのがれきが仮置き場に集められていないことになりますので、処理を急がないと復興ができません。
また、仮置き場での火災が発生していますので、災害を防ぐ意味でも処理が急がれます。
被災地にも、様々な状況があります。
     (震災がれき Q&A その2)
     http://www.taro.org/2012/03/post-1171.php

  ↑ ↑ ↑
…と問題を整理している。
 河野氏はその後、あらためて岩泉町、陸前高田市にも確認し、
  ↓ ↓ ↓

震災がれきの処理について、岩手県岩泉町と陸前高田市の対応についての質問を頂きましたので、3月29日に、両自治体に直接確認しました。
岩泉町は、
『がれき処理を岩手県に委託している。一次選別は町内で、二次選別は宮古市で実施中。宮古市からは東京にも広域処理を引き受けてもらっている。
町内でできるものは町内でやるが、できないものは町外、県外の協力も頂いて、広域処理をお願いしたいというのが、町長を含めた町の立場。』
陸前高田市は、
『当初、太平洋セメントも被災し、焼却ができなかったので、焼却炉を建設するというプランもあったが、太平洋セメントが復旧し、焼却ができるようになったので、大船渡とともに太平洋セメントで処理をしている。
広域処理については、引き受けていただける自治体があれば検討していきたい。
選別で人も雇っているが、だらだらとそれを続けるよりも、がれき処理を終えて本格復興を目指したい。』
     (震災がれき 岩手県陸前高田市と岩泉町の場合)
     http://www.taro.org/2012/03/post-1180.php

  ↑ ↑ ↑
…と、報告しているし、斉藤信氏は被災地の県会議員として、「震災がれき」の処理受け入れを要請していたわけである。
 北九州市環境局は、「災害廃棄物の受入検討に関するQ&A」の中で、
 ↓ ↓ ↓

Q7 岩手県岩泉町長は、「10年、20年かけて地元で片付けたほうが地元に金が落ち、雇用も発生する。土地は一杯あり困らないのに、税金を青天井に使って全国に運び出す必要がどこにあるのか」と批判しているが、どのように考えているのか。

A7 被災地が望んでいないのであれば全国での広域処理の支援はたしかに不要である。今回の広域処理の検討は、被災地からの要請に基づき行なっている。

 ↑ ↑ ↑
…との見解を示している。
 河野太郎氏の報告と併せ読めば、(岩泉町長のホンネはわからないにしても)実際に被災地からの処理要請があることを受け入れ要件とすれば、それでクリア出来る問題であろう。
 「被災地にも、様々な状況があります」との河野氏の結語にあるように、柔軟なケースバイケースでの対応こそが求められるのであり、問答無用の「がれき受け入れ絶対阻止」の硬直的な姿勢に説得力はない。

 

 

 

 

(オリジナルは、投稿日時 : 2012/05/30 21:56 → http://www.freeml.com/bl/316274/189993/

 

 

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