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2010年10月27日 (水)

日本国の象徴と、國體の本義 13(「立憲政治」と天皇)

 

  かつての「国体明徴に関する政府声明」を読めば、政府自身が「君臨すれども統治せず」的な、「立憲君主」としての天皇像を明確に否定していた事実が理解出来るだろう。

…と、前回には書いた。

 

 

 お気付きのこととは思うが、

  「君臨すれども統治せず」的な、「立憲君主」としての天皇像

…という表現には含意がある。対象となる君主が「立憲君主」であるかどうかと、その地位・権能が「君臨すれども統治せず」という枠内のものであるかは、本来的には別の問題なのである。つまり、「君臨し統治する」ことが、「立憲君主」であることを妨げるというわけではない。

 

 

 ここではまず、昭和七年(1932年)に書かれた、清水澄博士による「立憲政治」及び「統治権」についての解説を読んでおこう。

 

近世学者ハ憲法ナル語ニ更ニ特別ノ意味ヲ有セシム即チ専制政治ヲ排シ三権行使ノ機関ヲ分立セシメ民選議会ヲ立法ニ参与セシムルヲ以テ立憲政治ノ本義ト為スカ故ニ此ノ政治組織ノ大綱ヲ定メタル国家ノ根本法ニ非スンハ以テ憲法ト称スルコトヲ得スト為セリ蓋政治変遷ニ伴フ自然ノ結論ニシテ極メテ妥当ナル主張ナリトカ解ス即チ憲法ハ立憲政体ヲ採レル国家ノ根本法ナリ憲法ト立憲政治トハ之ヲ分離シテ観念スルヘカラス専制政体ニ於ケル国家根本法ハ所謂憲法ニ非サルナリ即チ憲法ナル語ノ真義左ノ如シ
 「憲法トハ統治権ノ所在ヲ宣明シ立憲政治ノ法則ニ基キ統治権行使ノ形式ヲ定メタル大則ヲ謂フ其ノ成文法タルト不文法タルトハ問フ所ニ非ス立憲政体ヲ定ムル国家ノ根本法ハ即チ憲法タルナリ」

統治権ハ意思ノ力ニシテ国家ノ意思ハ何人カノ自然ノ意思ニ出テサルヘカラス其ノ自然ノ意思ハ即チ統治権ナリ我カ国ニ於テハ国家ノ意思ハ天皇ノ自然意思ニ出ツ国家ノ意思ト天皇ノ意思トハ一ニシテ二ニ非ス国家ノ意思ト天皇ノ意思トハ相同化シテ一体ヲ為シ国家ノ統治権ノ主体ナリト謂フハ即チ天皇カ統治権ノ主体ナリト謂フニ同シ換言スレハ国家ヲ具体ノ団体トシテ其ノ構成ヨリ言ヘハ天皇ハ恰モ人体ニ於ケル首脳ノ如ク団体ノ中心力ノ存スル所ト為シ又国家ヲ意思ノ主体トシテ其ノ活動スル方面ヨリ謂ヘハ天皇ハ即チ国家ナリト為スノ義ナリ国家ヲ統治権ノ主体ナリトシ同時ニ天皇ヲ統治権ノ主体ナリト為スニ於テ決シテ矛盾スル所ナシ
     清水澄 『逐条帝國憲法講義』 昭和7年 (『清水澄博士論文・資料集』 原書房 1983 浅野一郎による〔解説〕「清水澄博士の学説の特色」に収録)
 

 つまり、

  専制政治ヲ排シ三権行使ノ機関ヲ分立セシメ民選議会ヲ立法ニ参与セシムルヲ以テ立憲政治ノ本義ト為ス

…ということは「立憲政治」は「専制政治」に対立するところに意味が見出される政治システムであり、そこでの憲法の意義は、

  憲法トハ統治権ノ所在ヲ宣明シ立憲政治ノ法則ニ基キ統治権行使ノ形式ヲ定メタル大則

…であるところにあり、その「統治権」とは、

  統治権ハ意思ノ力ニシテ国家ノ意思ハ何人カノ自然ノ意思ニ出テサルヘカラス其ノ自然ノ意思ハ即チ統治権ナリ

…ということなのである。その「統治権ノ所在」が君主のものであることが憲法に明記されていれば、「統治権行使ノ形式」が立憲的に定められていれば、そこに「立憲君主」は存在し得るのである。 

 その上で、大日本帝國憲法においては「統治権ノ所在」が天皇の下にあることが示されているということが、

  我カ国ニ於テハ国家ノ意思ハ天皇ノ自然意思ニ出ツ

  国家ノ意思ト天皇ノ意思トハ一ニシテ二ニ非ス

  国家ノ意思ト天皇ノ意思トハ相同化シテ一体ヲ為シ国家ノ統治権ノ主体ナリト謂フハ即チ天皇カ統治権ノ主体ナリト謂フニ同シ

…との言葉で語られているのである。ここに描かれているのは、君臨し統治する君主としての、立憲政治と共にある天皇の姿なのである。

 

 

 では、それに対し、「君臨すれども統治せず」という言葉で語られる「立憲君主」イメージを代表すると思われる英国国王について、清水澄博士がどのように位置付けているのかについても見ておきたい。

 

 

英国ノ統治権ハ国王及国会ニ存シ元首タル国王ハ単純ナル国家機関ニアラサルト共ニ又其統治権ノ一部ヲ有スルニ止マルモノナリ故ニ英国元首ノ地位ハ君主国ノ元首ト異リ又非君主国ノ元首ノ地位ハ異ルコト勿論ナリ今先ツ非君主国ノ元首ト英国ノ元首ト異ル点ヲ述フレハ英国国王ハ所謂残留政権ナルモノヲ有スト雖非君主国ノ元首ハ如此キ権ヲ有スルコトナキナリ残留政権トハ国会カ国王ニ対シ之ヲ行フコトヲ禁止セルヤ又ハ之ヲ自ラ執行スルカモ若クハ之ヲ他ニ執行スルコトヲ委任シタルモノヲ除キタル以外ノモノニシテ国王ニ依然残留スル権力ヲ云フ然ルニ非君主国ノ元首ニハ明ニ委任セラレタル権限ノ外活動範囲ヲ有セサル機関ナルニヨリ固ヨリ残留権ナルモノ之ニ附著スルノ理由ナキモノナリ之ニ反シテ君主国ノ元首ト異ル点ヲ考フルトキハ英国国王ハ統治権ヲ総攬スルコトナク君主国ノ元首ニ専属スル立法権ノ如キハ英国ニテハ国会ノミニ存スルモノニテ国王ニ属セサルナリ尤モ国王ハ国会ノ議決ニ対シ不裁可権(Veto)ヲ行フコトヲ得ルモ此権モ二百年来殆ント使用セラレタルコトナキニヨリ立法権ハ無制限ニ国会ニ専属シ国会マタ之ヲ専行スルモノト云フヘシ又国務大臣ハ国王ニ於テ之ヲ任免スルモノナリト雖国会政党ノ消長ニ従ヒ之ヲ交迭セシメサルヲ得サルモノナルニヨリ大臣任命権モ実際国会ニ属スルナリト断シテ誤ラスト信スルナリ…(後略)
     清水澄「元首ノ地位ヲ論ス」(明治36年) (『清水澄博士論文・資料集』 原書房 1983)

 
 

 ここでは、

  英国国王ハ統治権ヲ総攬スルコトナク君主国ノ元首ニ専属スル立法権ノ如キハ英国ニテハ国会ノミニ存スルモノニテ国王ニ属セサルナリ

…との文言に注目することで、問題の所在が明確になるであろう。

 言うまでもなく「統治権ヲ総攬スル」のが、大日本帝國憲法上の天皇の位置付けなのであり、そこに英国的な「統治権ヲ総攬スルコトナク=君臨すれども統治せず」とは異なる「立憲君主」としての天皇の地位、大日本帝國における「統治権ノ所在」のあり方が見出されるわけである。

 

 

 

 

 

(オリジナルは、投稿日時 : 2010/10/27 20:01 → http://www.freeml.com/bl/316274/150366/

 

 

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