« Inside-Out 1と0の為に | トップページ | 続々々々々々々々々・老眼と自己決定 脳死を生きる 3 »

2009年6月23日 (火)

続々々々々々々々・老眼と自己決定 脳死を生きる 2

 

   人の身の上に起る死は、誰によって決定されるべきものなのか?

 

 

 
 2009年6月18日に衆議院本会議における採決で、臓器移植法改正案(提出されていた4案の内の「A案」)が可決された。

 「脳死を人の死とし、本人の拒否の意思表示がなければ家族の同意で年齢に関係なく臓器提供を可能とする」という内容の改正法案(A案)が、430人の投票中、賛成263人、反対167人で可決されたわけだ。

 

 

 脳死を人の死とすることは、前回に書いたように、脳死体からの臓器移植をより容易にするという目的がなければ、意味を持たない事項である。

 

 死とは、生物が必ず迎えなければならない事態であることは確かなのだが、生きている状態から死への移行は連続的変化であり、生体の「死」をその連続的過程のどの時点とするのかは、生物学上の問題ではなく社会的合意の問題なのである。たとえば、脳死→心臓死→全細胞死という段階のどの時点を生体の死とするのかは、社会的合意に属する問題であり、生物学に出来ることは、それぞれの段階の判定作業に過ぎないのである。

 

 脳死を死とすることは、そこに心臓死、そして全細胞死に至る、時間の近接した不可逆的過程を仮定するからなのだが、しかし、実際には、その仮定に疑問が付されつつあるのも、1997年の「臓器の移植に関する法律」成立後の現実である。

 

 

 

 臓器移植法改正でA案が衆院で可決されたことについて、反対する遺族や市民団体が18日午後、衆院議員会館で記者会見し、「脳死を一律に人の死としないで」などと訴え、参院での慎重な議論や廃案を求めた。
 「わたしは死体と寄り添っていたの?」。中村暁美さん(45)は本会議場で、長女有里ちゃんの写真を忍ばせ見守った。有里ちゃんは3年半前、原因不明の急性脳症に襲われ、医師から「脳死」を宣告された。しかし、「温かい体があり、成長する体がある」と、2007年9月に4歳8カ月で他界するまでの約1年9カ月にわたり付き添った。
 「心臓が動かなくなり、体が冷たくなって初めて家族は今旅立ったんだと感じた。脳死は死の宣告ではなかった」と語った。
 議員にも実体験を通じて理解を求めたが、「直前まで『迷っている』と言っていた議員が堂々とA案に投じていた」といい、「むなしさがこみ上げてきた。この瞬間から娘は無になってしまうのか」と涙ぐんだ。 
 ( 時事通信 2009年6月18日 18時38分 → http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090618-00000127-jij-soci

 
 
 脳死を人の死とし、15歳未満の臓器提供に道を開く臓器移植法改正案が18日、衆院で可決された。「A案が成立すると、うちの子どものような生き方が認められなくなるのではないか」。長男みづほ君(9)が「長期脳死」の女性=関東在住=は、A案の大差での可決を知り、肩を落とした。
 みづほ君は00年、1歳のとき、原因不明のけいれんをきっかけに自発呼吸が止まり、脳内の血流も確認できなくなった。旧厚生省研究班がまとめた小児脳死判定基準の5項目のうち、人工呼吸器を外して自発呼吸がないことを確かめる「無呼吸テスト」以外はすべて満たした。それから8年、人工呼吸器をつけて自宅で過ごし、身長は伸び体重も増えた。
 「今後も移植が必要な人は、どんどん増えるだろう。さらに臓器が足りなくなれば、死の線引きが変わり、私たちの方へ近寄ってくるかもしれない」と不安を口にする。
 みづほ君は、この1年、状態は安定している。女性は「この子は『延命』しているのではない。こういう『生き方』をしている。参院の審議と判断に期待したい」と話した。

 (毎日新聞 2009年6月18日 22時01分 → http://mainichi.jp/select/science/news/20090619k0000m040100000c.html

 

 

 

 現在の脳死判定基準では、(1)深昏睡 (2)瞳孔固定 (3) 脳幹反射の消失 (4)平坦脳波 (5)自発呼吸の消失の5項目についての医師の判定により、脳死状態が確定することになる。これまでは、脳死判定から心臓死までの所要時間は1週間ほどであり、それが不可逆的過程であるとの想定の上に、脳死=死とすることの根拠があったことになる。

 しかし、有里ちゃんやみづほ君の例は、その想定に疑問符をつけるものであるだろう。

 みづほ君の場合、自発呼吸の消失の判定はされていないわけだが、その判定の結果、その時点で容態の変化がもたらされ、現在までの8年間の「身長は伸び体重も増え」るような「成長」はなかった可能性が高い。脳死判定自体が、死の直接的原因となりうるわけである。

 有里ちゃんの場合の判定の実際は不明だが、記事による限り、医師による脳死宣告後の1年9ヶ月に及ぶ期間、心臓死に至ることなく、家族と共にあったのである。記事にある、「わたしは死体と寄り添っていたの?」という母親の問いかけは、私たちにも共有出来るはずである。有里ちゃんの1年9ヶ月間は、生きている時間ではなかったということでよいのだろうか?彼女は死体として、1年9ヶ月間を家族と過ごしたのだろうか?

 

 少なくとも、現在の脳死判定基準は、「死」を定義する上での説得力が、十分なものとなり得ていないのではないだろうか?

 

 その問題が問われることがまったくないままに、改正案の採決が行われてしまったことは、実に驚くべきことであったと、私は思う。

 

 

 

 

 

 

(オリジナルは、投稿日時 2009/06/22 22:33 → http://www.freeml.com/ep.umzx/grid/Blog/node/BlogEntryFront/user_id/316274/blog_id/107899

 

 

|

« Inside-Out 1と0の為に | トップページ | 続々々々々々々々々・老眼と自己決定 脳死を生きる 3 »

健康という名のテロリズム」カテゴリの記事

脳死を生きる」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/1135955/30235494

この記事へのトラックバック一覧です: 続々々々々々々々・老眼と自己決定 脳死を生きる 2:

» 老眼の症状は、自分ではなかなか気が付かない [老眼 回復 対策]
老後 の症状 を回復する予防やメガネ、コンタクトレンズなどについて紹介します。老眼の症状は、自分ではなかなか自覚できないものなのです。レーシックなどの治療法もあるのですが、もっと簡単に出来る予防法について勉強しましょう。... [続きを読む]

受信: 2009年6月25日 (木) 20時49分

« Inside-Out 1と0の為に | トップページ | 続々々々々々々々々・老眼と自己決定 脳死を生きる 3 »