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2009年4月11日 (土)

「幻想の痕跡」

 

 角川書店が出している、『怪』という雑誌(カドカワムック)の最新号(0026)に、「松沢病院に残された「幻想の痕跡」に会う」と題された記事がある。

 「荒俣宏の脳内異界探偵」というシリーズのひとつで、「驚愕の松沢病院コレクション」というサブタイトルも付けられている。

 

 巻頭の方の、4頁ほどが荒俣宏氏の文と写真で構成されたカラーグラビアページで、続きは後ろの方に別に、同行した京極夏彦氏、そして案内役の作家にして精神科医の春日武彦氏を交えた鼎談形式の記事となっている。

 

 言うまでもないことだとは思うが、「松沢病院」は、長い歴史を持つ精神科の病院である。本格的公立精神病院第一号の後身ということになるらしい。

 その東京都立松沢病院内にある、「日本精神医学資料館」を訪問しての紹介記事だ。

 
 
 

 グラビアのキャプションの言葉を用いれば、「患者の作品、松沢病院の歴史、精神病治療の歩みなどが2部屋にわたって展示されている」施設ということになる。

 かつて使用された拘束具や電気治療器もあれば、院内で発行印刷されていた同人誌、患者が制作したカルタもあれば仏像もあり、果ては「葦原将軍」のホルマリン漬けの脳なんてものまである。

 
 

 鼎談形式の記事には、「ところで、本日は資料館見学ですが、事前に部長先生の許可をいただきました。中に入ってよろしいですか?」という言葉がある。見学は許可制なのだろうか?

 いずれにしても、いつか訪れて見たいと思っている。実は、私の叔父のひとりが、松沢病院で生涯を終えた人物なのだ。院内で、なにやら「作品」を作り続けていたらしい。他人事ではないのである。

 
 
 
 

 記事の内容から、興味深かったところをご紹介すると、

 
 

荒(荒俣宏)  ここには院内の同人誌が残されていますね。自家出版だ。あ、印刷作業療法というのを実験していたんですね。「設立以来半世紀以上の歴史を持つわが国の精神病院の印刷作業療法の草分けである」か。松沢病院の印刷作業は昭和五年に開始され、一日平均四人で病床日記その他の印刷物を引き受けて始めた。ほっほう、すごい印刷物を発見しましたよ。「全世界最初の初宇宙神殿建立、天上公園を建設」という本、どうもこの印刷作業療法のひとつで成果のようです。しかも袋とじガリ版刷りになっています。宇宙や地球のことと、この世界のお話であるように思われます。今この本の序文を読みますよ。「小生御厚情を賜り居りまして、誠に喜ばしく、有難く、厚く御礼を申し上げます。およばずながら、本に印刷してあります宇宙や地球のことと世界の人のお話であるように思われます。宇宙や地球のことと、事実なる宇宙や地球がいかにありましょう宇宙の森羅万象とよくあいまして、世界の人のお話の意味が成立しております。」と。

春(春日武彦)  昔はですね、こういう壮大で誇大妄想的な患者が多かったというその実例ですね。

京(京極夏彦)  天上公園の請願がある。院長先生宛ですね。よほど強く願われていたんですね。

 
 

なんてやり取り。

 「天上公園を建設」の文章・文体が独特で面白い。

 
 

京  もう一歩深く知りたいところは、妄想なり錯乱状態なりが、治療することで本当に快方に向かうのか、という点です。どうなんでしょうか。

春  医学的にいうと、いわゆる神経細胞間の伝達物質がどうとかいわれますが、ただそれを調整する薬を使っても、ある程度は良くなることはあっても、完全にケロリと良くなることは無い。発症には、相当複合的な原因があるものと思われます。

京  何かのきっかけで、記憶喪失が回復するように正気づいたりすることはないのですか?

春  妄想は、急に我に返って、俺はいままで何をやっていたんだろう、という展開にはまずなりません。いつのまにか消えてしまうことはありますけど。ただ、わりと劇的に消える場合があって、それは本人の健康状態が悪くなって死にかけるか、体が極端に衰弱状態にあるときです。つまり、我が身が危急存亡の際に立たされると、気が狂っているどころではなくなってしまう。

荒  死ぬ寸前に、精神状態が回復する、ということもあるんですか。

春  あります。ですから合併症の手術などをしますと、精神科の薬は一時的に減らせます。精神状態も改善する。ところが体が良くなってくると精神科の薬も増やさざるを得なくなってくる。そういう意味では、一種の贅沢病かもしれません。

荒  大脳皮質みたいな、贅沢な脳の部位を使っているから。

春  そうそう。

荒  生きるか死ぬかの瀬戸際、原始的な動物脳に頼る状態になると、もう妄想だとかそういうものは吹っ飛ぶということなんですね。

京  ということは、我々は日々脳内で贅沢をしているということですね。

 
 

 これからが話の佳境で、芸術にまで話が及ぶのだけれど、本日はここまで。

 

 精神病院が他人事ではない人たちの「鼎談」というところが、話を面白くしているように思える。

 
 

 この続きは、明日にしたい。

 
 
 
 

 

 

 

(オリジナルは、投稿日時:2009/04/05 23:13 → http://www.freeml.com/ep.umzx/grid/Blog/node/BlogEntryFront/user_id/316274/blog_id/100265

 

 

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