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2009年2月11日 (水)

昭和四年文部省檢定濟『家事新教科書』 (2)

 

   第11章 竃・燃料

    第一節 竃

一、要部 竃には、燃焼部・用熱部・通風部を備へることが必要である。

1、燃焼部 燃料を燃やす部で、火網と、焚込口と、爈戸とがなければならぬ、その構造は燃料の種類によつて異なる。

2、用熱部 熱を利用する部で、煮炊きをするものならば、鍋・釜の大きさに適せしめる等、その構造は利用の目的によつて異なる。

3、通風部 燃焼部に空気を入れ、且廃気を去る部で、開閉し得る通風口と、煙を生ずる燃料では煙突とがなければならぬ、その構造は燃料の種類によつて異なる。

二、種類 普通に用ふる竃には、日本竃・西洋竃・改良竃等がある、この外七輪類も亦多く用ひられる。

1、日本竃 日本従来の竃で土又は石を以てつくり、焚込口と通風口を兼ねし口があつて爈戸はない、故に燃焼は不完全で多くの煙を出す。

2、西洋竃 西洋式の竃で鉄を以てつくり、三要部を備へ、通常周囲を煉瓦にてかこむ、燃焼は完全で多くの煙を出さぬ。

3、改良竃 種類多く、鉄製で三要部を備へ、木炭用のものは煙突がない、必要に応じて、用熱部の形を種種に組み換へ得るから便である、愃六竃の如きはそれである。

4、炭七輪 土製と鉄製とがあり、用熱部の大きさを変ずるために枠がある、土製は鉄製よりも熱効率は大であるが、破損し易い。

5、ガス七輪 鉄製で括栓によつてガス量を加減し得る、もし空気量と鍋釜の高さとを加減し得るように改良すれば一層便利である。

6、電気七輪 燃焼によらず電気熱を利用したもので、切替スヰッチにより、電流の断続と電流の強さの加減とをなし得るから便である。

7、石油厨爈 種類多く、鉄製で、石油を燈心に吸上げて燃やすものと、石油を圧力で押上げ気化させたものを燃やすものとの二種がある、火力はやや強いから石炭ガスのない所では便である、スタンダード石油厨爈、平栄竃の如きものである。

    第二節 燃料

一、種類 普通に用ふる燃料は、薪・木炭・石炭・石炭ガス・及び石油である、近年電気も亦燃料の代りに次第に用ひられる。

1、薪 樫・楢・山毛欅・櫟等の堅木と松その他の雑木とがある、堅木は雑木よりも、又冬に切り取つた木は夏に切り取つた木よりも炭素分多く、従つて火力は強く、火持ちは長い。水分あるものは気化熱を奪ひ去るから、乾いたものよりも有効熱量は小である、残火は消し置きて利用する。

よい薪は、(1)その質かたく、(2)よく乾き、(3)木理はととのつている。薪に点火するには、先づ適当に組み重ねた下に、焚付を入れ、マッチを以て点火し、焚付の燃え切らぬ間に、次次と同じ場所に少しづつ焚付を送り入れ、薪の同一部を発火点に熱すればよい。

2、木炭 堅炭・佐倉炭・松炭等がある、堅炭は樫性が最良で、火付あしきも、火力は強く火持は長い。佐倉炭は櫟製が最良で、火力は堅炭に劣るも、火付はよく、火持は長く、埋火に適する。松炭は松製で、火力は弱く、火持は短い。故に炊事用には堅炭を用ひ、火鉢・煙草盆には佐倉炭を用ひる、残火は消し置きて利用する。

よい木炭は、(1)木理正しく、(2)切口黒くして、(3)堅くして打てば金属音を発する。

木炭に点火するには、先づ火種を中にして消炭を寄せかけ、更に堅炭を寄せかけて、その上に火起筒を立てればよい。

3、石炭 褐炭・黒炭・無煙炭等があり、普通に用ひるものは黒炭である、石炭は火力は強く、火持は長いが、火付はあしく、煙と悪臭とを発するから、煙突のある竃でなければ用ひ難い。

よい石炭は、(1)黒くして輝き、(2)かたくして重く、(3)結晶状に塊まつてゐる。

4、石炭ガス (1)点火・消火は容易で、(2)火力は強く、(3)火加減は自由で、(4)且周囲を汚さず、(5)至急の間に合ふことが他の燃料にまさる、しかし都市でなければ得難い。

石炭ガスを点火するには、先づ鍋・釜を七輪又はかも度にのせ、次にマッチをすり、括栓を少し開いて直に点火し、更に括栓を開いて焔の大きさを加減する。

5、電流 電気熱を利用せしもので、(1)電流の断続及び、(2)熱加減はやや自由で、(3)空気及び周囲を汚さぬから、他の燃料にまさるが、都市でなければ得難い。

6、石油 近年は燈用以外に、炊事・ストーブにも用ふ、点火に少し手数を要し、且空気を汚すが、(1)火力はやや強く、(2)火加減は自由であるため、石炭ガスや電流のない地では便である。

 
 

…と、80年前の、高等女学校師範学校用家事科用教科書には書いてある。

 既に昭和の時代の教科書なわけだが、炊事の主力は「薪」であり「竃」なのであった。

 こういうことは、知識としては確かにインプットされているのだが、しかし普段の想像力の外にあるようにも感じる。

 

 火力の主力として「1」が薪、「2」が木炭、「3」が石炭と続いているのだが、どれも火力調整の難しい「燃料」である。弱火から強火までを瞬時に使い分ける、現代の感覚での「料理」には向いていない。

 

 「石炭ガス」の項目の、

  (1)点火・消火は容易で、

  (2)火力は強く、

  (3)火加減は自由で、

  (4)且周囲を汚さず、

  (5)至急の間に合ふことが他の燃料にまさる

という記述には、今さらながら驚かされることになるだろう。言うまでもなく、どれも今や当たり前の話なのである。しかし、80年前の日本の少女達には、そして当時の主婦達にも、必ずしも当たり前の話ではなかったわけだ。

 時代を経た日常感覚への想像力を持つことの意外なほどの難しさを、家事科教科書の記述を通して味わうことが出来る。

 
 

 現代人である私達に、日常的に、「ガス七輪」や「電気七輪」を用いて生活しているという自覚はあるだろうか?

 
 

 

 

(オリジナルは、投稿日時:2009/02/10 20:40→ http://www.freeml.com/ep.umzx/grid/Blog/node/BlogEntryFront/user_id/316274/blog_id/94721

 

 

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