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2008年12月 7日 (日)

田母神氏は『軍人勅諭』もご存じない?

 

抑(そもそも)国家を保護し国権を維持(ゆゐぢ)するは兵力に在れは兵力の消長は是国運の盛衰なることを弁へ世論に惑はす政治に拘らす只々一途に己か本分の忠節を守り義は山嶽よりも重く死は鴻毛よりも軽しと覺悟せよ其操を破りて不覚を取り汚名を受くるなかれ

 → http://www.cc.matsuyama-u.ac.jp/~tamura/gunnjinntyokuyu.htm

…と、『軍人勅諭』には書かれている。

 もちろん、注目点は、

   世論に惑はす政治に拘らす

という一節であろう。

 大日本帝國は、大東亜戦争の結果、滅び去ったわけであるが、昭和期の大日本帝國における特徴的事態として、軍人の政治への積極的関与が指摘出来るだろう。

 端的に言って、まさに、軍人の政治への直接的関与、政治過程における軍人の直接的権力行使こそが、大日本帝國の滅亡をもたらしたのだということは、日本の近代史を語る上で、銘記されるべき事項であることは否定し難い。

 昭和期の軍人が、『軍人勅諭』の精神を踏みにじり、政治に介入し、政治を軍事に従属させた果てに、ポツダム宣言の受諾という実質的無条件降伏にまで、国家を至らしめたということは、この国の歴史的経験として深く認識されるべき事柄であろう。

 自国民と他国民の身の上に、膨大な犠牲を強いた果てに、大日本帝國は滅びたのである。

 軍人勅諭の精神を踏みにじり、人々の命を踏みにじり、大日本帝國の存在を踏みにじった者こそが、昭和期の指導的軍人であったことを、決して忘れるべきではないのである。もし、自分を愛国者であると考えようとするならば。

 自らの所属する国家を滅ぼし、多数の国民を死に至らしめたことの責任は大きいだろう。かつての大日本帝國における、政治を軍事に従属せしめるような事態を作り出してしまった高級軍人達の責任の大きさから目をそらさず、その責を追求し続けることこそ、愛国者であることを目指す者の義務ではないだろうか?

 昨日、引用した猪木正道氏の言葉を、ここで再び読み返すことも、問題の理解の上で必要なことと思える。

 猪木氏が、

 軍国日本が自爆したのは、軍に立憲国家を超えた特権的地位を与えた結果である。日露戦争に勝ってから、日本の軍人におごりが生じたのは、無理もない。しかし満洲を中国から切り離して日本の支配下に置こうとする野望に対しては、1906年5月の”満洲問題に関する協議会”で、元老伊藤博文がきびしく児玉源太郎参謀総長を叱ったように、文民統制を貫徹するべきであった。

 国際協調主義を堅持していたかぎり、日本の軍事力は国民からも外国からも信頼されて、わが国の興隆の原動力となった。軍事力が暴走しはじめた時、わが国は国際社会に孤立して、自爆ないし自殺に追いこまれたのである。
 (猪木正道 『軍国日本の興亡』 中公新書 1995)

と書いていた、その意味を、深く認識しなければならない。

 まさに戦後日本は、その反省から、シビリアン・コントロール(文民統制)を、政治過程の基本原則としたのである。

 その上に、自衛隊法も存在するわけだ。自衛隊法では、

(政治的行為の制限)
第六十一条  隊員は、政党又は政令で定める政治的目的のために、寄附金その他の利益を求め、若しくは受領し、又は何らの方法をもつてするを問わず、これらの行為に関与し、あるいは選挙権の行使を除くほか、政令で定める政治的行為をしてはならない。
2  隊員は、公選による公職の候補者となることができない。
3  隊員は、政党その他の政治的団体の役員、政治的顧問その他これらと同様な役割をもつ構成員となることができない。

と定めている。

 『軍人勅諭』においてと同様に(と言ってよいのかどうかはわからないが)、「自衛隊法」においても、軍人としての自衛官には、政治的行為からの距離が求められているのである。

 航空幕僚長であった田母神俊雄氏の、「日本は侵略国家であったのか」というタイトルの「論文」(http://www.apa.co.jp/book_report/images/2008jyusyou_saiyuusyu.pdf)の内容は、集団的自衛権をめぐる主張はもちろんのこと、歴史解釈への言及自体が、非常に政治性を帯びたものとなっている。

 「論文」の発表にとどまらず、防衛相による処分への反発まで公言するようでは、田母神氏の行為は、文民統制の精神をはなはだしく逸脱しているものと言わざるを得ない。

 『軍人勅諭』の文言を用いれば、田母神氏の、「世論を惑はし政治に拘り」という姿勢こそが問題、ということになるわけだ。

 かつての大日本帝國の高級軍人達の、『軍人勅諭』の精神からの逸脱は、亡国の事態を招いた。

 今回の、航空幕僚長であった田母神俊雄氏の「文民統制」の精神からの逸脱、「自衛隊法」の精神からの逸脱も、その放置は、やがての新たな亡国にまで発展しうる、大きな危険性を秘めたものであると考えておくべきであろう。

 もし、自分を愛国者であると考えるならば。

 

 

 

(オリジナルは、投稿日時:2008/11/13 22:01 → http://www.freeml.com/ep.umzx/grid/Blog/node/BlogEntryFront/blog_id/85241/user_id/316274

 

 

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