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2008年11月25日 (火)

引き裂かれた家族の肖像 新正卓写真展 (現代史のトラウマ その15)

 

 11月25日の日記で、武蔵野美術大学内で開催されている、新正卓さんの写真展を取り上げた。
 写真展は、昨日で終了してしまったのだが、木曜日にもう一度足を運ぶことが出来た。今回は、前回の日記の延長として、再度、新正さんの写真について書いておくことにしたい。

 最初に、「現代史のトラウマ日記」の一つとして書いた、新正さんが私たちの前に提示して見せてくれた、写真の中の時間について。


 今回は、特に「双家族」と題されたシリーズについて考えることによって、より詳しく問題に接近してみたい。

 1986年から、1988年にかけて、日本と中国で撮影された、中国に留まざるをえなかった「残留孤児」と日本に住むその家族の写真の組み合わせ。1990年に東京のニコンサロンの個展で発表されたもの。
 図録の年譜によると、そのような撮影と発表の経緯をたどり、まだ写真集という形での刊行はないようだ。今回の展覧会の図録は、ハードカバーの写真集として後日刊行予定のようなので、その際に作品を見ていただきたい。

 残留孤児の方々それぞれの事情(中国国内の家族状況など)が一方にあり、日本国内の家族事情がもう一方にあり、本人の日本帰国が叶わなかった離ればなれのままの家族の写真。中国国内で撮影された本人の写真と、日本国内で撮影された家族(親であったり、兄弟姉妹であったり)の写真が並べて展示されている。

 そこにある時間を、あらためて考えた。

 キャプションとして、姓名、生年月日、撮影地、撮影年月が表示されている。
 例えば、
呂 雅之(妹・近藤綾子)昭和10.2.26生 黒龍江省佳木斯市旧旭国民学校 1987.7 (新正卓が入学した国民学校。彼女は多分1年先輩だろう。)
黒川安治(兄)大正11.1.23生、黒川好美(安治の娘)昭和32.8.30生 長野県下伊那郡 1986.2
        という具合である。

 最初に、満洲国の崩壊の時点、家族が離ればなれとならざるをえなかった時点での年齢がある。
妹10歳。兄23歳。
撮影時の年齢。
妹52歳。兄64歳。兄の娘28歳。
現在の年齢。
妹71歳。兄84歳。兄の娘49歳。

 満洲国の崩壊とは、大日本帝国の崩壊の時であった。大日本帝国軍隊の策謀により建国された満洲国が、大東亜戦争の敗北による大日本帝国の崩壊により地上から姿を消した時のこと。大日本帝国の国策と共に満洲国民となった家族が離散に直面する時であった。
 この例では、残留時の年齢は10歳であるが、生後数ヶ月で家族から離されているケースも多い。いずれにせよ、本来の家族からは引き離され、中国人のもとで育てられた40年を超える歳月が撮影時までに経過しているのである。その間の労苦は想像を超えている。そして、日本国内まで引き揚げられた家族にしても、決して平穏な40数年間ではなかったはずだ。そのような年月が撮影時までに既に経過していた。
 そして、写真を私が見ている現在がある。撮影時から20年近い年月が経過してしまっているのである。この兄妹の両親は既に世を去っていることであろう。兄の娘には何人の子どもがいるのであろうか。妹の家族は、どんな様子なのであろうか。
 この兄弟の上を経過した61年間という時間を想う、のである。昭和20年8月からの61年である。
 もちろん、昭和20年8月までの家族の日々という時間も、それ以前にあった。
 1枚の写真が喚起してしまう時間。その重層した時間を私は前にしたのだった。

 前回にも書いたように、そこにある時間は、大日本帝国と日本国、この二つの、しかし 不可分の国家がこの家族の上に刻印した時間でもあるのだ。引き裂かれた家族の、苦労と悲哀に満ちた戦後61年という時間に対して、この国家は実に酷薄であった。穏やかな表情で、こちらを見つめる兄と妹。別の国で暮らす兄と妹の姿。その写真の背後に隠れているのは、今、私たちが暮らす国の姿、ということだ。

 

 

 

(オリジナルは、投稿日時:2006/12/17 23:59 → http://www.freeml.com/ep.umzx/grid/Blog/node/BlogEntryFront/blog_id/15072/user_id/316274

 

 

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