« 続・政治的対立と宗教的対立、その背後にある出来事(現代史のトラウマ38) | トップページ | 「戦争を知らない子どもたち」を知らない子どもたちの時代に »

2008年11月26日 (水)

健康という名のテロリズム

 

 健康とは何なのだろうか?

 このところの、コミュニティ「存在の意味」での、やわらか@テロルさんのトピック「人間の存在様式としての「公共性」の問題」の上での、やわらか@テロルさんの発言に注目している。


 ナチスの政策としての、障害者への「断種」と「安楽死」をめぐる議論である。
 アーリア民族至上主義イデオロギーを現実化するにおいて、民族=人種の「健康」がナチスのテーマとなっていた。

 人種の健康の維持に欠かせないのが、不健康者の排除である。
 至上の人種としてのアーリア人の健康への脅威が、外部のユダヤ人であり、内部の精神障害者であった。

 ナチスの政権獲得と共に、ユダヤ人の排除が現実化する。
 外部からの、アーリア人種の健康への脅威の排除が、その目的であった。

 精神障害者は、それ以前から精神病院に収容され、社会からは隔離されてはいた。
 しかし、福祉の対象として、その生存は国家によって保障されていたのである。

 ナチス特有というよりは時代の産物という側面もある当時の「優生学」思想の結実として、政権獲得の年である1933年7月14日に、第三帝国議会において、「遺伝病の子孫を予防するための法律」が可決される。
 精神薄弱者、精神分裂病者(統合失調症患者)、躁鬱病者、癲癇患者、重症アルコール中毒者、先天性の盲人と聾唖者、重度障害児、小人症、痙性麻痺、筋ジストロフィー、フリードライヒ病、先天性股関節脱臼の患者が、断種処置の対象となったのである。
 アーリア人種から、遺伝的障害の拡散の危険が排除された、と理解されていた処置である。
 アーリア人内部における人種の健康の維持は、これで保障される。


 一方で、ヴァイマール期の悪化した経済状態は、国家による障害者への福祉政策への疑問を生じさせた。
 福祉への支出は、国家財政の損失として、一部の人間から理解され始めるのである。
障害者への安楽死の妥当性が議論の対象となり始めるのである。
 これは、優生学的問題意識とは別の文脈として理解することが必要のようである。
 法律家カール=ビンディングと医師アルフレート=ホッへの共著になる『生きるに値しない命を終わらせる行為の解禁』と題された1920年に出版された本が、その手の議論の嚆矢とされている。

 この書物では、安楽死の対象として3つのカテゴリーが想定されている。
 

1)助かる見込みのない患者〈末期癌の患者など〉。
2)治療不能な知的障害者
3)瀕死の重傷者
 

 この3つのケースが、法律家カール=ビンディングにより、安楽死の対象として想定され検討されるのである。
 そして、2〉のケースが特に精神科の医師アルフレート=ホッへによる考察の対象となっている。

 出版年はナチス結党の年でもあり、同時代性を感じられると共に、しかし異なる文脈の出来事であることにも留意しておく必要はあると思う(ナチスの思想と同書を直接的に結び付けて論じる風潮に、私は、距離をおきたいと思う〉。

 安楽死が実行されるのは、1939年になってからのことであるが、その際は、カール=ビンディングとアルフレート=ホッへの想定を超えた範囲の「精神障害者」が「安楽死」という名の殺人の対象とされることになった。
 T4アクツィオーンとして知られる作戦の開始である。ドイツ国内の何ヶ所かの精神病院内に、安楽死用のガス室と焼却炉が設置される。
 1941年になり、作戦の内実が知られるようになり、教会関係者からの異議がもたらされ、作戦は中止されるが、その時点で7万人以上の精神障害者がガス室での殺人の対象となっていたのである。

 そして、このT4アクツィオーンの中心に位置していた人物が、後のユダヤ人に対する「最終的解決」の一環としての「絶滅収容所」の設置に携わっていくのである。


 アーリア人種の健康の実現は、ユダヤ人の絶滅と、精神障害者の抹殺にかかっていた、そう考えられていたのである。

 ちなみに、アドルフ・ヒトラーは菜食主義者として有名であり、酒もタバコも嫌っていた。
ナチスの健康な世界の中心にはふさわしい、そう言うことが出来るだろうか。

 

 

 

(オリジナルは、投稿日時:2007/06/30 23:00 → http://www.freeml.com/ep.umzx/grid/Blog/node/BlogEntryFront/blog_id/34627/user_id/316274

 

 

|

« 続・政治的対立と宗教的対立、その背後にある出来事(現代史のトラウマ38) | トップページ | 「戦争を知らない子どもたち」を知らない子どもたちの時代に »

マイノリティーとマジョリティーの間」カテゴリの記事

ユートピアとしての全体主義」カテゴリの記事

健康という名のテロリズム」カテゴリの記事

安楽死と自殺(生きるに値しない命)」カテゴリの記事

コメント

スペース失礼します。

Change.orgにて安楽死に関する署名活動を行っています。賛同いただける方はご署名お願いします。

http://goo.gl/epuQJ

投稿: 匿名 | 2013年8月11日 (日) 02時37分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/1135955/25663809

この記事へのトラックバック一覧です: 健康という名のテロリズム:

» [話題]残酷なDNAが支配する [E.L.H. Electric Lover Hinagiku]
国籍法改正について雑感。タイトルの元ネタ、萩尾望都のマンガは読んでないんだけれども。 DNA鑑定に異常にこだわる人々に興味を抱いた。特に、日本人にも義務付ければ公平だろうという主張。 まあ色々なところで見かけるのだけど、ダン君のところにはこういうコメントがあ... [続きを読む]

受信: 2008年12月 6日 (土) 22時35分

« 続・政治的対立と宗教的対立、その背後にある出来事(現代史のトラウマ38) | トップページ | 「戦争を知らない子どもたち」を知らない子どもたちの時代に »